脱出!
「さて、用意は出来たな…… しかし自分のベッドまで押し込めるとは……」
魔法のカバンを摩りながら笑う。
まだまだ夜中…… 地球なら早朝の3時ごろだろうか?
俺は自室で今まで用意していた旅の持ち物を魔法のカバンに詰め込んでいた。
そう、旅に出る為だ。
昨晩、ドラゴンを倒して帰るとそのまま町では宴会が始まった。
「今日は不粋な事は言わんが…… シノよドラゴン殺しとアヘミクレヘンの事…… 冬の滞在中にしっかり聞かせてもらうぞ…… 」
オスカー大公閣下は何を期待しているか分からないが大笑いしながら、何故か決定した宴会の場であるファミリーレストランに急いで向かう。
オスカー大公閣下は新しい物好きだもんなーファミレスは暖房効いてるもんなー……
アネゴと王女様がルンルンと走るオスカー大公閣下に呆れている。
さて俺も腹減ったし…… 行こうかとすると王女様が服を引っ張って止める。
「な…… 何で御座いましょうか? 」
「ずっと会えなかったんだから…… あの…… マイムマイム訓練を、ね♡?」
えーっ!? ここでー? と思うが顔を真っ赤にしながら真剣に魔法訓練を願い出る王女を無碍には出来ずにマイムマイム訓練で体に魔法を流す。
「本当に熱心に訓練されますね…… 魔力量も増えてますよ」
俺から王女様に回り王女様から俺に回る魔力で訓練の具合が分かる。
しばらく回り終了すると、ふぅふぅと熱い潤んだ目で王女様は俺を見ている…… 訓練で無理をさせたか?
「シノ…… それは何してるの? 」
アネゴがバカを見る目で俺に聞いてくる…… グッ なんか恥ずかしい……
アネゴも魔力量が上がるなら試してみたい!と言い出したのでマイムマイム訓練をしてみる。
なんか人に見られるのも慣れてきた。
「ふわぁぁ…… 何これ…… 気持ちいい…… うぅぅん…… シノが私の中に満たされて…… 離れない私からシノが…… シノが私の中に残って…… どうしよう…… あぁ…… 」
なんかエロい事を言い出した幼女を見て俺は理解した。
やっぱりマイムマイム訓練がキュレネをおかしくしたんだわ!!!
真っ赤になりながビクッビクッ…… と座り込み体を震えさせるアネゴに近づき背中をポンポンと優しくたたく。
「大丈夫か? アネゴ」
「シノ…… 」
そのまま俺に抱きついてきたアネゴは…… 誰にも聞かれないか周りを確認して小さい声で
「だいしゅき…… 」
…… と俺につぶやいた。
ギリリ……おやおや何の音かなー?
王女様が歯軋りする音でしたー! イェーイ!
…… これはダメだ予定を早めて旅に出よう。
オスカー大公閣下も兵団を連れて冬をこの町で過ごすみたいだし…… これだけ兵士がいるなら冒険者ギルドが稼働するまでの防衛も十分だろうしな……うんうん!
そして皆んなが寝静まるまで待っていた。
さて当面の食べ物と金、アヘミクレヘンと各種鉱物…… ドラゴンの素材、生活用品に衣類……
全て魔法のカバンに詰めたのを確認して、キュレネに宛てた手紙を俺の机の上に置くと静かに自室を出る。
しかし…… なんで物をこんなに入れたのに魔法のカバンはこんな軽いんだ?
ファンタジーすげぇな……俺も作り方を覚えられないかな?
そんな閑談を心でしながらソローリソローリと歩くと、廊下に父さんがいた。
「父さん…… 」
「行くのか? 」
さすが父さんだね分かっていたか…… 親子だもんね……
「うん」
「そうか…… 気をつけてな…… 」
不意に父さんに抱きしめられて驚く。
「こんな大きくなって…… 父さん的にはキュレネと結婚してくれると嬉しかったんだけど」
俺は苦笑して首を横に振りながら父さんから離れる。
「じゃあ…… 行ってきます。そんなに長い旅にはならないようにするから」
「ああ…… 行ってらっしゃい…… シノ」
少し…… 後ろ髪を引かれながら領主館を出るとあまりの寒さに息が白くなる……
「今年の冬は寒くなりそうだな…… 」
手を摩りながら、まだ暗い町を急いで歩く。
あれ?こんな夜中に閉門した門の近くに誰かがいる!?
ああワルフだわ…… 酔っ払ってフラフラじゃないか…… ファミレスでの宴会の後に路上で寝やがったな…… 人族なら凍死してるぞ。
ワルフと目が合うとヤローはニヤーッと笑う。
「シノ様が逃げよるぞー!! 」
「ちょ!コラ!」
こいつ!大きな声で人を呼びやがった!
俺はワルフに駆け寄り掴むと一緒に瞬間移動して門の外へ!
すぐに駆けつけたのか門の内側からはドワーフの声が聞こえる!
逃げよった!
監禁じゃ!
追え追え!
おおぉう! 早く逃げよう!と身体強化魔法を焦ってワルフにもかけて瞬間移動で逃げ去った。
何度か瞬間移動すると…… やがて森が平原に変わり…… 海が見えた頃に気がついた。
あぁワルフを連れてきちゃった……ってね。
こうして俺とドワーフのワルフとの旅が始まった。
☆★
町の中は大変な騒ぎになっていた。
「アーネさん、シノ様がどこに行ったか聞いてますか?」
「いえ、分かりません。でも全力で探すべきです」
私の言葉にシートさんが頷く。
アネゴは地面に伏して泣いているし、町鍛治さんは顔を青くして右往左往。
「錬金術が…… 神様が…… 」
と殆どのドワーフは項垂れ魂が抜けたよう……
王女様はダイヤモンドの腕輪を泣きながら煙が出るのでは? という程に摩り続け、大公閣下は怒りからか真っ赤な顔で地面を何度も地団駄して大声で兵にシノの捜索を命じている。
元貴族である私には分かる。
シノを捜索する重要性はかなり高い。
愛しいシノは武力、発明、文化などの全てに関して時代を何世代か進めたと思う。
シノが居ない期間は国家として損をする時間と考えてもおかしくない。
「アーネさん落ちついとるのぅ…… さすがワシらの工場の経営しとるだけあるわい」
「いえ…… 」
シノは私にはちゃんと数日前、伝えてくれました。
この旅は長くはしない事を、必ず戻って来てくれる事を。
「私が好きな人ですから…… 元気でまたヒョッコリ帰って来ますよ」
私には任された仕事がある。
あの方が帰った時にいつもの机に…… ゆっくり座って苦笑して私がお茶を運ぶ……
そんな日をまた待っています……
でも、やっぱり寂しくて…… いつの間にか私の頬を涙が濡らしていました。




