シノ死にかけるでござるの巻!
旅に出るTODOリストは消化したと思う。
これは、アヘミクレヘンを合成できた事が大きい。
アヘミクレヘンで銃を作るだけでも大幅にパワーアップを果たしたからだ。
これはもう…… 新たな兵器の図面は要らないだろう。
工場に缶詰されて寝る時間以外は錬金術を使っていたからアヘミクレヘンの備蓄量は十数トンにもなる。
アヘミクレヘンは合金素材だ。数十トンもあればかなりの量の資材を用意できる。
「うん、工場はこれで運営できるだろう。」
運営に関しては、もう大分前からアーネに任せているから大丈夫。彼女が社長で俺は名誉会長みたいな感じだからね。
食の関連はエルフのファミリーレストランを作った後に、製菓と食事のレシピを地球の料理本の何冊分か[記憶ファイル]から羊皮紙に書き写した。
「こんな美味いもん思いつくやなんて…… シ…… シノはんは料理の天才やでぇ…… 」
「いや、まず何でその方言を知ってるの!? 」
エルフの元村長が言うには野獣国の一部地域で使われている方言だそうだ。
やっぱり面白い人が多いのかな? と地球の関西人が聞いたら怒られるようなイメージを野獣国にもつ。
楽しみが増えたぜぇ…… へへへへ……
製菓工場も俺が建物を建設して、件のエルフに与えたレシピで製造ラインを確立。
カリスト印のカヌレ、バウムクーヘンなど様々なお菓子が他の地域で食べられだした。
それにエルフと町の人族の農家が手を取り合い働いてくれているのでカロリーベースだけど総合食料自給率も徐々に増えている。
葉物、根物ともに冬の収穫が期待できる。やったね!
ダララララララ! [ドラムロール]
俺の旅に出る用意!
終了ーーー! ドォォォン!
あとは俺がトロスで買った魔法のカバンに必要物品を入れていくだけだ。
俺は1〜2年の旅を計画している。
どうやら俺が周囲数キロ以内に近づくとキュレネのスキルに引っかかってしまうようなので、遭遇する可能性が高いオーディーの町や王都には完全に帰れない。
少し様子を見に帰るとか…… ムリだったわ。
王都での追いかけっこで実感しだ。
まぁ…… 2年もすればキュレネの俺への熱も冷めるだろう…… それまでの我慢だ……
妹だからね…… 誰かいい男と結婚して幸せになるべきなんだ。
──────あとは掃除だ。
町の周囲にいる魔物を冬までに間引いておきたい。
なぜなら冬に入る前に冒険者ギルドの職員と教会の人間が王都から派遣されると報せがあったからだ。
冒険者ギルドがあれば魔物への武力対応が出来る。
教会があれば安定して回復魔法を使える魔法治療師か神父様がきてくれる。
よし!! これで用意終わり終わり! 魔物狩りに行くか!
オーディーの町の門をくぐる所で後ろから声がかかる
「シノ…… どこに行くの? 」
この頃、アネゴは俺がどこか遠くへ行くと雰囲気で感じるようで町から外に出る時は、行く場所を聞いてくるようになった。
「ちょっと周辺の魔物を狩ってくるわ。あと、トロスかリバの町に行くけど何か要るかな? 」
…… アネゴは寂しそうに首を横に振る。
「ちゃんと帰ってきてね…… シノ」
アネゴって小さいから孫の小さい頃を思い出してしまうなぁ……
アネゴを抱き寄せ背中をポンポンする。
「うわっ!シ…… シノ…… ?」
「大丈夫…… 大丈夫よぉ〜…… 」
「私、子供じゃないんですけど!? 」
真っ赤になるアネゴに微笑んで俺は魔物退治に向かった。
「シノ…… 私は子供じゃなくて女として貴方に見て欲しいのに…… 無理なの? 」
アネゴの質問は秋の木枯らしに掻き消されて空へ消えていく……
段々と寒くなってきた空気を、目一杯に吸い込みシノが今日もちゃんと帰って来て、馬鹿話をして…… 皆んなで笑えるようにアネゴは願った。
☆★
町から出て魔物がいないか適当に空を飛び回る。
ここ十数日間で粗方は狩り終わった。
アヘミクレヘンの錬金を繰り返していたからか、消費と成長を繰り返した魔力量は自分でも訳の分からない量になっている。
何でも出来るような万能感…… 驕り…… 。
それが頭と心を満たしていた。
魔物を見つけたら空から光魔法で爆撃を加えて飛び回る。
辺りの魔物を全滅させたらまた飛び回る…… けれども全く魔力量が減らないという…… 魔物にとったらとんでもない話だな。
「しかし今日は様子が違うな…… 」
魔物の数が明らかに少ない……
オーディーの周囲の魔物は全て狩り尽くしたか?
それなら魔法のカバンも持って来た事だし旅に使う物を買い出しにでも行くか?
空に浮かびながら思考の渦に飲まれていると
俺の身体の膝から下を焼かれた!
「ぐぅぅぃぃぃ!!」
あまりにも魔物がいないので油断をしていて魔法で身体強化をしていなかった!
俺の脚は表皮の多くが爛れ筋肉を露出させ…… 足の指先は白い骨が見えるようなダメージを受けていた。
「いっっっっってぇぇ……!!! 」
足から噴き出す血飛沫と痛みのおかげで気を失わずにいれた。
今の自分の状態が分からず混乱しながらも瞬間移動で地面に移動して、急ぎ草叢に隠れる。
全力で回復魔法を使い下半身を回復さた後、体に欠損がないのを確認していると、瞬間移動で逃げる前まで居た上空の場所に大量の熱量を感じる炎のブレスが通り過ぎた。
────なんだと…… ドラゴンだって…… !!?
ブレスを吐いたのは大型トレーラートラックほどの大きさをした赤いドラゴンだった。
空を旋回しながら怒り狂い火を吐くドラゴンに遠距離から高圧に調整した水魔法を飛ばす。
火には水、そんな安易な考えだ。
「効かないというのか…… ? 」
ドラゴンは俺の水魔法を体を覆う鱗で跳ね返した。
その挙動でダメージは全く与えられなかったと推察できる。
「ガァーッ! 」
ドラゴンは叫びながら水魔法の道筋を目で辿り俺を見つけた。
バサバサと2度、大空で羽ばたき勢いをつけて鋭い爪を俺に向けながら急襲をかけてきた!
〈キサマがこの辺りの魔物を殺して回っている人間かぁ!? 〉
「あ! 喋るんだね!? 」
襲い来るドラゴンの爪から瞬間移動で逃げて距離をあけ対峙する。
…… こえぇぇぇぇ…… ボスだ! これボスだ!
〈よくも我々の命を弄んでくれたな…… 死をもって償え! 〉
ドラゴンが息を吸い込み再び俺の下半身を焼いたファイアーブレスを吐き出す。
こりゃあヒットアンドアウェイで攻略法を見つけないとヤバイか?
そう考えて瞬間移動でドラゴンの前や横、目の前に現れては消えてと撹乱して…… 最後に瞬間移動でドラゴンの後ろ首を捉える場所に現れた。
「とりあえず…… どれか効くだろ! 」
自然属性適正の全属性の魔法を順にドラゴンに撃ち込む。
爆発が爆轟となり凄まじい火力でドラゴンの首筋に当たる。
「よっしゃ! どうだ!?」
濛々(もうもう)と立った煙が、いくらか晴れると無傷のドラゴンがブレスの体勢をとってこちらを向いていた。
「ヤベェって…… ! 」
瞬時に身体強化の魔法を最大限にかける。
そこにドラゴンのファイアーブレスが航空戦闘機のジェットのようなスピードでで俺を焼いていく。
しかし俺も今回は不意打ちではなく身体強化魔法で構えていたので皮膚がチリっと日焼けしたようになるだけで耐えられた。
我ながら人ではない耐久率になったと心で自虐して瞬間移動で逃げる。
〈魔法でらいくら攻撃しても無駄だ!人としては恐ろしい魔法を使うが、我の身体は各属性の魔力を吸収するスキルで守られている! 弱き人族よゆっくり時間をかけて焼いてくれるぞ!〉
属性魔法が効かない…… このドラゴンの魔石に宿る思念体の加護なのか…… ?
「なるほど…… 属性魔法じゃなければいいんだな? 」
声を出した事で俺を発見したドラゴンがクックックと笑う。
〈身体強化の魔法だけで人が我に勝利する事はない! 〉
なるほどなるほど…… 人を舐めている今がチャンスだな!
ここで持ってて良かった魔法のカバン!…… あ!ちょっと焦げてる!ちくしょう!
「ジャジャーーン! 」
カバンの中から最初に作ったアヘミクレヘン高純度のクレイモアを取り出し属性を加えないで、魔力だけをクレイモアに流し込みギンギンに研ぎ澄ます。
アヘミクレヘンのクレイモアの潜在能力に気付いたドラゴンは言葉で俺を煽るのも忘れ最大限に空気を吸って肺を膨らませる。
ヤバくなったからとっとと殺しにかかるってか!?
ゴアアアアアァァァァ!!!!
全てを燃やすような恐ろしい爆音を鳴らしドラゴンはまたファイヤーブレスを吐く。
今回のブレスは本気だったんだろう戦闘機のアフターバーナーのようなオレンジ色の直線に伸びるジェット噴射が地面や空間を焼き払う。
ジェットブレスというのが正しいだろう…… でもどんなに強いブレスでも俺には当たらない。
「そっちじゃねーよ! 」
超能力の瞬間移動でドラゴンの体を擦り抜けて、またドラゴンの後ろをとる。
「後ろを取りやすすぎる!巨体も考えもんだな!」
ギョロリとドラゴンの目がこちらを追うが、ジェットのようなブレスは勢いがありすぎてドラゴン自身の動きを制限してしまった。
ジェット噴射は急に止まれないってコト?
「なんだ? こっちを向けないのかい? …… お前の失敗は俺が魔法以外の能力を持っていた事だな…… 」
魔力で研ぎ澄ましたアヘミクレヘンのクレイモアで抵抗も無くスパッと、ドラゴンの首を切断するとジェットブレスを吐く勢いに乗せてドラゴンの首は上空に飛び上がった。
切断された頭を失った体からも、しばらくジェットブレスが空に吹き出し続けるのを地面に座って眺めていた。
ジェットブレスが止むとドラゴンの死体は光を発して魔素が大量に溢れる。
まるで魔素の光が針山のように飛んできて体に入り蓄積される……
「あー…… これは、めっちゃレベルアップしたわ……」
体に急激に力が漲り、グーンと頭が重くなる。
マッサージの揉み返しのような……倦怠感が襲う。
あー疲れた…… あーしんど……
………… しかし危なかった…… ステータスが高くていたおかげで、死にはしなかったが初めの不意打ち…… もし、先に頭に当たっていたら死んでいた……
身体強化魔法を常に身体に這わせる訓練をしないといけないな…… きっと神様の加護で慣れるだろう……
あとは防具も必要だ…… アヘミクレヘンとチタンを混ぜて軽い防具でも作ってみようか……
「今まで格下すぎる相手と戦っていたから気付かなかった事が、旅の前に分かって良かった…… 」
緊張で疲れた体をなんとか起こして、空から落ちてきたドラゴンの頭は魔法のカバンへ入て、ジェットブレスが止んだドラゴンの体に手を置き、身体強化魔法をかけてから町の近くに瞬間移動で移動した。
オーディーの町の近くから力任せに無理矢理、ドラゴンの体を引き摺り門を入ろうとすると、俺の引き摺るドラゴンの死体に町が静まる。
疲れたから町の人間の相手は後だ。
無言でズル…… ズル…… と工場へ向けて歩くとアネゴとドワーフが駆け寄ってきた。
あっ…… ドラゴンのブレスを下半身に貰ってズボンがホットパンツみたいになってる…… 恥ずかしい…… !
「シノ…… 」
「なんだい? アネゴ? 」
アネゴは困惑した顔で無理に笑顔をつくる
「トロスかリバの町に行くんじゃなかったの? 」
「いやー成り行きでドラゴン倒しちゃってさー…… 」
「いや! 成り行きでファイヤードラゴンを倒せる人間はいないから! 」
「いやドワーフでも無理じゃ」
「エルフにもムリですよ…… ?」
「こりゃあ偉い素材になりそうじゃのう…… 」
おーおーやっぱり仕事に繋がるかね大したもんだ。
「シノよ俺にもドラゴン退治の話を聞かせてくれよ…… な? 」
「私も聞きたいです…… 」
振り向けばそこにオスカー大公閣下と王女様が立っていた。
「な…… なんでいるんです? 」
「そりゃあ寒い日には電気がないとな! ストーブが恋しいからまた滞在しに来たぞ! アヘミクレヘンの話を楽しみにしていたがドラゴンを一人で倒すとはな…… おい? どれだけの事をしたか理解しているか? 」
筋肉マッチョに肩を組まれるんだけど…… いや寒いからって来ないで下さい!権力者でしょうアナタ!
「シノ様…… 凄いですね」
王女様に様付けで呼ばれるとか止めてくださいお願いします…… ねぇ…… あれ?ダメかい?
自分の首を絞めるスピードの加減が最近おかしいなー? 天罰かなんかかなー? と思う秋の日だった。




