春のお墓!
寒い春の日が終わり初夏の日差しが降り注ぐ。
気温も上がり様々な花が咲く。
残念ながら桜はないけど、こちらの星は黒薔薇のような真っ黒な花が咲く木がある。
人々はその木をダークアップルツリーと呼ぶ。
名前は暗い感じだけど林檎のような甘く爽やかな良い匂いがするので人々には嫌われていない。
黒い花弁が落ちた地面と、木の葉の間から覗く青空とのコントラストが面白く綺麗だ。
この国では春になると王族以外は全員が誕生日になる。
それは死んだ人間もだ。
死んだ人間は年をとらないが過去、共に生きた暮らしに、共に歳をとる喜びに誕生日を祝う。
この誕生日の季節に死んだ人間を時間の中に置いていくような気がするから俺はこの考え方が結構好きだ。
そよぐ風から、ふとした時に甘い爽やかな林檎の匂いがする優しい陽射しの日に愛する人の墓に参って
「お誕生日おめでとう」
と言うのがこの王国の風習なんだ。
───家族3人で母さんの墓参りに来た。日本なら彼岸参りみたいな感じかな?
父さんが運転する蒸気自動車に乗り墓をめざす。
町からそんな離れていないけど、家族でどこかに行くってのは良いもんだ。
「シノ、今年も誕生日おめでとう」
「おう!」
「キュレネ、今年も誕生日おめでとう」
「ありがとう、父さんも誕生日おめでとう」
「ありがとう」
悪くない日だな……
春の陽気にウキウキしながら母さんの墓に到着すると花の甘い匂いに咽せそうになる。
まるで黒い絨毯のようにダークアップルツリーの花が母さんとキュレネの両親の墓のまわりに敷き詰まっていた。
「お誕生日おめでとう…… 母さんがいなくて寂しいよ」
父さんはもう涙を隠さなくなった。
母さんを亡くして…… 自分を俺から私と言うようになりだしてから…… 喜びの時も、悲しみの時も、驚きの時も、母さんが瞬きの時に目の上にパッと思い出してしまうようになり感情が抑えられなくなったそうだ。
「どうせ止まらないから隠すのを止めた」
と父さんは寂しそうに笑っていた。
「ちょちょちょー! 父さんよく泣くねー! ホホーイ! 」
と以前に失敗して泣いている父さんを煽った時に教えてくれたんだ。俺のバカチンが……
キュレネは膨大な回復魔法を墓にかけながら母さんと両親の誕生日を祝っている。
もうねキュレネの魔力量が上がりり過ぎて辺りが光ってるの。光る地面に黒い花弁とか凄い綺麗でついね……
「綺麗だ…… 」
と呟いたら、キュレネが目を見開き真っ赤な顔でこちらを見るんだよ。
いや違いますよキュレネさん……
俺も母さんの墓に挨拶しようと思った時に、神様のプレゼントで天国の母さんと話した事を思い出す。
「お誕生日おめでとう」
あの世でも元気なのは知ってるからね。多分、死んだのに歳をとるなんて理不尽! と怒るだろうなと笑ってしまう。
いや、本当に誕生日おめでとう母さん……
父さんは公務があるから先に帰り俺とキュレネが残った。
「え?車に乗ろうよー!」
少し寂しそうな父さんと別れて墓場の掃除をする。
花びらは放っておくと腐るからな…… 風魔法で積もっている花びらと、落ちそうな木の花を飛ばしてしまう。
「よし!これでいいだろう」
「うん」
掃除の後、久しぶりに2人で歩こうかと初夏の日差しの中を歩く。
「お兄ちゃん」
「んー? 」
「綺麗って言ってくれてありがとう…… 」
あぁこれは勘違いだと言ったら血を見るな……
「う〜ん〜」
変な返事をして誤魔化したけど凄く笑顔になるキュレネに心が痛い。
本当に俺を好きなんだな…… でも妹なんだよな……
やっぱり来年12歳になったら旅に出よう…… 近親相姦とかダメだろう。
「気持ちいい天気だねお兄ちゃん! ここで座って休もうよ! 」
春の草原にダークアップルツリーの花がまるで黒い大きなベットを作っているように積もっている。
そんな草原の坂にキュレネが座り俺を呼ぶ。
周りの木々から黒い花が舞う景色に魅せられるわぁ……
「よっこらせ」
「お兄ちゃん座り方がおじいちゃんっぽい! フフフ」
笑うキュレネの声に苦笑して地面に横になる。
ホントに気持ちいい陽気だ…… と俺は目を閉じて初夏を楽しむ。
隣のキュレネも地面に寝転んだのを感じ…… 何故か寒気がする。
「…… ねぇお兄ちゃん…… 」
「んー? なんだキュレネ? 」
甘えた声のキュレネに目を閉じたまま答える。
…… しかしなぜか寒気を感じる。風邪をひいたかな? もう少し太陽の光で暖まろう。
「………… ドワーフのワルフさんに聞いたんだけど…… 12歳になったらこの町を出て行くって…… 本当なの…… ?」
パッ! と驚いて目を開き恐る恐るキュレネを見ると感情の無い真顔で…… 光を感じない、瞳孔が開いた目で俺を見ていた。
黒い花弁が次々と降り注ぐ景色が…… 全くさっきと違う場所にも思える!
「ヒィッ! 」
思わず悲鳴をあげてしまう。
「お兄ちゃん…… ?」
「います! います! 町にいます! 」
キュレネさんがやばいです。
本当に旅に出れるか心配です。
もちろん、この後ワルフはボコボコにした。
「ヒィッ! 」




