はじめての王都!
王都へは3日で到着した。早い。
「馬車と比べたら、やっぱり蒸気自動車の性能は凄いな」
「あ、帰ったら父さんにも蒸気自動車をプレゼントするからね?」
「いいね…… お母さんと2人でドライブに行けたら気持ちいいかも」
相変わらず、仲のよろしい夫婦ですね。必ずプレゼントしようっと!親孝行、親孝行!へへへ
大公様とのお約束があるのが門兵には伝わっていたようで、王都へ入る為に検問を受けている人々の長蛇の列に並ぶ事なく、貴族が王都に入る時に使う貴族門から王都に入る事が出来た。
蒸気自動車は流通し始めたばかりだから、やはり異世界ではまだまだ目立つ。でも謁見の日まで何日かあるのに……
「遠目に見た門番と兵士が通達したんだと思いますよ」
俺が思案顔をしていたのを見たアーネが補足してくれる。あ、そうかコレ蒸気トラックだったわ。遠目でも目立つよな。
…… なるほど、なるほど、分かったアーネはさすが元貴族。有能。
しかし、一般門では蒸気トラックの車幅がギリギリだったかも…… 。貴族門を通れて良かった。
一般門に長蛇に並ぶ子供と目が合う。
横入りしたような日本人特有の罪悪感で恥ずかしくなる……
「父さん、早く門を通ろう」
…… 門近くの石畳は劣化していたのかソリッドタイヤで走るとゴカゴカと音を立てる。うーん、こう言う何気ない記憶が旅の思い出になったりするんだよな。
門を抜け、検閲を受けるために衛兵詰所に入ろうとした所で予想外な事が起きた。
事前の事情説明では、王都に到着したら、暫くは大公様との謁見まで時間が掛かるだろうから宿屋で待とう。
そう相談していたのだが…… 大公様の臣下の方が駆け付けて来て通された貴族門から、旅装もそのままに大公様の住む豪邸の方へと案内される事になった。
「いや、予定の日より早かったので焦りましたよ」
ははは。と貴族さんにしては一般庶民に穏健な臣下さんは笑って話してきた。
4人乗りではかなりキツキツだけど、大公閣下の気のいい臣下さんを蒸気トラックの前に歩かせて先導させるのは問題があるから蒸気トラックの助手席に乗車をしてもらう。
「シノ…… 」
「お、おう…… 」
もちろん、俺は助手席から移動。
子供で体がまだ小さいので即席に作った後部座席に座る。もちろんアーネと一緒だ。
かなり狭いのでアーネとピトッとひっついて座る。
少し…… いいにおいがする。香水じゃないな……
「シノ…… 好きよ?」
「ん!?ん"ん"!ん〜?」
本当にアーネはグイグイくるな……
「シノ、子供が出来たらちゃんと教えてね?」
おい父さん、まだ全属性魔法を使える事を黙っていたの怒ってんのかい?
いや、大公閣下の臣下の人、ほほぉ、息子さんの婚約者ですかな?…… とか言わない。アーネ…… 胸が、胸が当たってるっ…… !
アーネをなんとか抑えて王都を車窓から見ていると、様々な人種がいるのが分かる。
ドワーフにエルフに…… 妖精みたいに小さいのや鱗があるのや…… すげぇなぁ王都…… ウチの町じゃあこんな多様性に触れられないわ……
将来、冒険の為に町から出たら違う国とか目指してみようかな?
ぽーっと外を見ていると父さんと臣下さんの話に気づく。うん、ポケッとし過ぎていたな。
「やっと蒸気自動車が来てくれました…… 本当にお待ちしていました」
臣下さんが疲れを見せながら父さんに切々と感謝をするのを見て大公様がどういう人間かの判断が出来ず困惑する。
そう、俺は忙しすぎて大公閣下がどういう人か?という事を調べきれてない。アーネからのなんとなくな話しか情報がない。
下級貴族でしたから…… 大公閣下と会話とか畏れ多くて…… 。
アーネのように下位貴族では大公閣下との謁見どころか目に入るのもなかなか難しいらしい。
え?大丈夫なのそれ?ゾルゲみたいなクソ野郎じゃなきゃいいけど……
大公閣下の屋敷は貴族街のような場所ではなく兵舎の隣にあった。
広い庭と豪邸なのだが、なぜか兵士が大公閣下邸庭園で訓練をしていた。
昔は芝でも植えてあっただろう庭園は兵士の訓練の為に踏みならされ無残な泥塗れになっている。植樹された木まで藁を巻かれて木剣の打ち込みに使われているようだ…… なにこれ?
「えっと…… 大公閣下の臣下様、御言葉をかけてすみません」
「ああ、お坊っちゃん大公様の周囲ではそこまで改まった言葉は無用です。無用で無駄とされます」
え?なんだなんだノー敬語で話したら話したでバサーって斬られたりしない?
「すみません…… ここは兵舎ですか? 兵士の方々が訓練をされているようですが…… ?」
「いえ、ここが大公様の御住まいですよ。」
はっはっは!と笑う臣下さん。
なんだなんだ?これは?
兵士の実戦宛らの訓練風景と、その向こうに見える陽の光に照らされキラキラと美しい白亜の豪邸との不統一で蕪雑な対比に首を傾げる。
「はっはっは!だいたい初めての来訪者はそのような顔になりますよ」
臣下さん、場合によってはその発言は不敬じゃないっすかね!?
あまり近づき過ぎて訓練に巻き込まれるのも嫌なので、庭園?ダート?に入ってすぐの所で蒸気トラックを停車させる。
すると兵士と訓練をしていた、昔の父さんよりゴツい2メートル程の大男がこちらに気付き近づいて来た…… ちょいワル?顔が小さくのに体は筋肉が凄い。鍛え方がおかしい。もうムッキムキ筋肉さん。
肌は日焼けで真っ茶色の見た目30代中頃の大男はポイと訓練用の木剣を投げ捨てて、蒸気トラックをバンバンと平手で叩き出す……
いやいや待て待て!
「すんませーん! コレ、大公閣下に献上する物を載せてるんで叩かないでくださいねー!サーセーン! 」
俺は少し怒気を込めて窓からムキムキ大男に注意すると大男は「ほほー。面白いた」と感心しながら、さらにトラックをバンバン叩きだす。
なんだこのムキムキは…… ニヤニヤしちゃって!
その無精髭を引きちぎってやろうか!?
「大公様です」
臣下さんがポツリと話す。
「え?」
「この方が大公様です」
うわー大公様に大声あげちゃったよー!
ドンマイじゃないですよ家臣さん!
父さん…… 泣かないで……
ちくしょう!めっちゃ大公様もニヤニヤと俺を見てるし嫌だもー!
☆★
筋肉ムキムキ大公閣下に献上する豪華仕様のスペシャル蒸気自動車をジャジャーン!と御披露目するとフンと鼻で笑い、ツカツカと蒸気トラックへ歩きバンバン叩きながらこう言った。
「う〜ん…… こっちの方がいい。」
いや子供か!権力者ナメてたわ!
「あの…… 大公閣下、これは蒸気トラックと言いまして献上するには些かですが気品がないかと思うのですが…… 」
「いや少年よ! この華美な蒸気自動車では戦場では邪魔になる! この蒸気トラックというのが望ましい!」
わお!なるほどそういう人ですか?
屋敷内に訓練場を作ったり、兵士を整列させていたり、率先して木剣をふるっていたりと…… そういう事ですか?つまり…… 武断派な人だわ!
「いかんか? これが欲しい。これなら兵士や武器を大量に運ぶ事だって出来るだろう」
「はっ! もちろん献上致します」
父さんとダメだわコレという目で目礼し合い、大公様に頭を下げトラック献上のGOを出した。
大公様、超満足そう!そういえば、どうやって帰るの?俺らは?まあ…… 仕方ないけど。
フンフンと大公様は蒸気トラックの運転席に乗り込みハンドルをぐるぐるする。
兵士は整列をやめ華美な蒸気自動車が乗っていたキャリアカーの荷台上に並び何人が乗れるか確かめている。
……誰も豪華な蒸気自動車に近づかない。
せっかく作った蒸気自動車に見向きもしない。
シートさん…… 蒸気自動車を撫でながら「不憫じゃ…… 」って寂しそう。
……もうね、大公閣下屋敷で厳かな中、蒸気自動車を献上する時を思ってイメージトレーニングをしていた時間を返してくださいよ!
「おい!」
その怒声で場が静まる。
「何でしょう? 大公閣下。」
「この鉄筒はなんだ? 献上される予定に無かったハズだが? 」
大公様は何か感じるものがあったらしい。
本当に戦いが好きなようだ。
「それは銃という優れた武器でございます」
荷物から真っ先にルベルM1886[MA]を持ち出すとはなかなか…… 分かってらっしゃる。
一頻りにルベルM1886[MA]を撫でまわし見た大公様は、早く使い方を教えろという目を俺に向けてきた。




