手始めに村の人間達を救う話
『……で?俺はどうすればいい……?』
「あ、その……初陣前なので雰囲気作ってはみたんですけど……アイネ一人でも余裕で倒せちゃう相手なので急がなくても問題無いです!!」
『…………』
襲われてる人間達は良いのか?等と聞くのも躊躇われる謎のドヤ顔……。
「その前に魔王様には幾つか説明をしたいのです!」
段々敬語が崩れ距離感がバグり始めているアイネの話を黙って聞く事にする。
「さぁさぁ愛しの魔王様、此方をご覧あれ!!」
――!?
急に眼前のアイネとは違う光景が脳裏に映し出される。背景は……俺が見ているモノと同じ……だが中央に……男……?男が此方を見ている……左眼がアイネと同じスフェーンの瞳……。
「今男性が見えてますよね……?ソレが、魔王様です!!」
ふふん♪と胸を張り威張っているアイネには目もくれず、理解しきれない俺は右手を動かす。意識が覚醒したばかりの所為か、動きはゆっくりだが動かせた。俺の動きに連動して映像の男も右手を動かした。
「凄いでしょう!?魔王様が目覚める前にこの不肖アイネ!!魔王様と眼球を取り替えました!!禁術で!!」
『…………今なん――』
「アイネが見たモノを魔王様に!!魔王様が見たモノをアイネが!!これでお互いに情報共有が出来ます!!まさに一心同体ですね!!嬉しいです!!」
『…………』
身体を動かし興奮しながら身振り手振りで説明するアイネ、動く度にチラチラと見える右眼は……スフェーンとは違う、本来白である筈の部分が青黒く、瞳は……スフェーン……?
「そして!!何時でもアイネを感じて欲しいので、魔王様の元々の眼球の瞳は両方ともスフェーンにしておきました……もうアイネの事で頭いっぱいですよね♡」
……目覚める前に瞳をイジられた上に片眼を穿りり出され、自分の眼球を埋め込まれたのか。この子は明るく見えてヤンデレなのかもしれない……悪魔だもんな……。
「あ、腕を動かせるならそろそろご自分の声を出せるのでは!?肉声を聞きたいです!!どうぞ!!」
どうぞと言われてもな……。口を動かすも声は出ない。声が出ないぞ――
「アイネ」
偶然名前を呼んだところで肉声が発せられる。アイネは自分の名を呼ばれた事に感動し号泣している。
「魔王様〜!!魔王様が初めてお話しになった言葉がアイネの名前だなんて〜!!アイネには勿体無い幸福です……ぐすん」
「……そろそろ村へ行きたいんだが?」
「!!魔王様……ぐすっ……やる気なんですね……!!」
目をゴシゴシ擦ると泣き止み、アイネは大声で言った。
「まずは服を着ましょう!!先程から魔王様の魔王様が――」
「服を用意してくれ……!!」
それほど栄えていない村。普段は長閑なこの村で、人間達の悲鳴と天使達の笑い声が響いていた。
「下等な生物は我々が間引きしてやる。貴様らは増え過ぎたのだ」
上半身は裸、ブカブカのパンツに裸足、天使の輪と羽の生えた数人の男の天使達が人間達を襲っていた。直ぐに殺しはせず、いたぶり嬲り楽しんでいた。
「殴る度に泣き喚くとか玩具かよ!」
若い天使は下品に笑いながら何度も何度も人間の腹を拳で殴打していた。
「流石に飽きてきたわ。他にも玩具は沢山あるしもういいや。お前は壊れろ……ッ!!」
脚を上げ、顔面目掛けて踏み抜く――ッ!!
「その汚らしい脚を退けよ」
その声の直後、若い天使の脚は村人の顔に当たる事は無く、脚は黄色の炎で燃えていた。
「は……はぁッ!?!?ア!!熱ッッッ!?何ッだよコレはぁぁあああアアア!!?!?!!!??」
「おい!!」
若い天使は地べたに転がりのたうち回る。他の天使が焦り飛びながら近くに寄るも何も出来ず、炎は若い天使の身体を完全に呑み込み、若い天使は動かなくなった。
「天使の唐揚げの完成だ……不味くて食えたモノじゃなさそうだが」
「貴様ら……悪魔か?」
「そう!!見て分かるでしょう!?我々夫婦が悪しき天使を打倒し人間を導いていく!!私は魔王様の下僕であり最愛の妻!!七つの大罪が一柱!!『怠惰』のベルフェ=ゴール・アイネ・スフェーン!!そして、このお方こそ旦那様である!!……新たなる魔王様である!!」
用意された服装は……アイネと同じモノだった。魔王がペアルックで初陣……落ち着いたら先ずは服を調達しないといけない。
「魔王……だと?ふ、今まで何人の魔王が我々に殺されたか分かっているだろう?それを今更――」
「今までの魔王は我々七つの大罪をはじめ多くの大悪魔は協力していなかった。その位は貴方達みたいな下っ端でも理解していると思ったのだけれど……?」
急に雰囲気が変わったアイネに天使達は息を飲む。大悪魔相手に自分達では勝てない事を理解していた。だからこそこんな小さな村を狙っているのだから。
「魔王様の初陣に邪魔者は不要、消えなさい」
アイネは微動だにしない。指先すらも動かしていないのに、スフェーンの輝きを放つ雷がアイネの目の前に発生すると天使達へ駆けていく。その刹那にも満たない一瞬で、天使達が誰一人反応する事も出来ないまま、天使達の身体を通過した瞬間に身体は焦げ臭さと共に朽ち崩れ落ちる。
先程から話していた男の天使一人を残し、他は息絶えた。
「……!!ま、待て!!我は其処らの天使とは違う!!貴族だ!!我を殺せば――」
「知らねぇよ、俺は魔王だ。王が貴族を殺して何が悪い?」
右手を横に伸ばし掌を上に向ける。スフェーンの炎が燃え上がる。……いやなんで俺の技もアイネ仕様になってるんだ?
「魔王様……アイネとお揃いの……!!人間達よ!!今日から新たな魔王様の伝説が始まる!!安心して暮らせ!!天使は魔王様が滅亡させる!!」
「――ッ!!ふざけるな!!我が!!こんな――!!」
天使は魔王を見て言葉を失う。アイネの雷よりも大きく、禍々しい炎が魔王の右腕を呑み込んでいた。
「俺の力を誇示する為の生贄となるがいい……!!」
「行けーーー!!魔王様ーーー!!アイネと魔王様の愛の炎!!」
なんかすげー不本意な当て字をされた事を感じながら放つ!!一瞬で炎が天使に到達すると天使を上空へ連れていく。自らがそうしていたように、じりじりと焦らすように身体をゆっくり焦がしながら雲を突き破り遥か上空へ。
「高尚な天使様なんだろ。空で盛大に消えるがいい」
「ぐッッッ!!!――――ッソがァァァァァァああああ!!!!」
音も聴こえないくらいの上空で爆発、スフェーン色の爆発・爆風と共に雲が消え失せ水の波紋のように広がっていく。
「やりましたね魔王様!!これが私達の愛の――って魔王様!?」
「無事……ではないだろうが生きてはいるみたいだな」
踏まれそうになっていた人間に近寄る。
「はい……命があるだけで無事で御座います……有難う御座います……我々は魔王様への忠誠を……!!」
土下座しようとする村人達を片手で制す。
「怪我人の礼など不要。先ずは治癒が先だ」
左手にスフェーン色の淡い炎を出現させる。
「……先程の攻撃魔法と似ているがコレは――」
「……分かっております、我々は魔王様を信頼しております」
怯える様子もなく全員が受け入れていた。淡い炎に燃やされると傷が徐々に焼け焦げ、体力すらも回復していく。炎が消える頃には全快していた。持病の腰痛や不治の病を患っていた者達のソレすらも。
「魔王様……!!」
再び全員が土下座をする。制したのだが……それ程の感謝という事。受け取らないのも王としては如何かと素直に受け取る。
「これからは我々が守ろう。精々長生きする事だ」
「それでは〜!!」
アイネは魔王に後ろから抱き着く。二人の身体はスフェーンの炎に包まれ跡形も無く消えた。消えた後も暫くは村人達は頭を垂れたまま、心からの感謝を捧げていた。
設定。
魔王様。
若干褐色肌。髪色は黒。アイネにブリーチの後金髪にされそうになるも、何故か黒髪のまま。左眼はスフェーン、アイネの左眼。右眼は白眼が青黒く、瞳はスフェーン。左眼の下には三連の黒子……の刺青を入れられてしまっている。筋肉質。角、翼、尻尾等は無く人間と大差ない見た目。服装はアイネと全く同じ。以前はアイネは違う服装だったらしく、魔王様とお揃いにする為に今の服装にしていた。スフェーンの炎を出し攻撃・回復をする。腕によって効果が変わるわけではなく村人を安心させる為。
魔王様のスフェーンの炎。
魔王様の魔力の源にアイネが自身のスフェーンの魔力を混ぜた為にスフェーンの炎になってしまっている。よくよく見ると小さくアイネのスフェーンの雷が迸っている
アイネの左眼。
魔王様の左眼が。隠しているのは自身の恥ずかしい姿を晒さない為。視覚共有は左眼を瞑れば防げるが気持ちの問題。
天使達。
下級の天使。貴族と言っていた天使も下流貴族の更には長男でも無いので人間相手に腹いせをしていた。拳を振るっていたのは単に魔法が使えないのと武器を使うと直ぐに死んでしまうから。




