第5話 魔王軍の伝令少女
第5話 魔王軍の伝令少女
少女は自分をルナと名乗った。
見た目は十四、五歳。だが角の形も、夜目の利きそうな金色の瞳も、人間ではないことをはっきり示している。
「声、出さないで。今日は伝えに来ただけだから」
倉庫裏の影で、ルナは指を口元に当てた。
「そのハンカチ、どうして」
「八年前、森で迷って泣いてた子にくれたでしょ」
思い出した。
村の裏山で薬草を採っていた時、ぼろぼろの服を着た小さな子どもを見つけたことがある。泣いていたから、持っていたパンとハンカチを渡して、街道まで案内した。
あれが、魔族だったのか。
「あの時、うちのお姫様を助けたのが君」
ルナは笑った。
「それでみんな知ってる。人間の中に、ひとりだけ“手を出すな”って言われてる子がいるって」
頭が痛くなってきた。
つまり、敵の好感度が高い理由は俺のスキルそのものだけじゃない。俺が知らないところで、魔王軍に顔が割れていたのだ。
「じゃあ、あのゴブリンも……オークも……」
「たぶんそう。特にゴブリンたちはすぐ噂を広げるから」
笑い事じゃない。
「なんで今さら接触してきた」
ルナは少しだけ表情を引き締めた。
「人間側に、停戦を壊したい人がいる。うちも同じ。だから本格的に戦争が再開する前に、君に伝えておきたかった」
辺境砦の外で見たオークの白旗が頭をよぎる。
「証拠は?」
ルナは紙片を差し出した。そこには明日の補給路襲撃計画が、人間側の符丁付きで書かれていた。
「これ、砦に伝えて。信じるかどうかはそっち次第」
言い終えると、ルナは闇に溶けるように消えた。
残された俺は、紙片とハンカチを握りしめたまま立ち尽くす。
敵を信じるのか。
味方を疑うのか。
どっちを選んでも、明日からの俺の立場は確実に終わる。




