第3話 好感度九十八のオーク
第3話 好感度九十八のオーク
辺境砦グレイナーは、王国最北の石の箱みたいな場所だった。
風は冷たく、壁は高く、配属された兵たちはみんな目が死んでいる。誰もここが栄転だなんて思っていない。
「新入りか。名前は?」
補給担当の老兵ラッセルに名前を告げると、彼は俺の荷物より先に顔を見て、ため息をついた。
「お前、王都育ちだな。ここじゃ一日で泣くぞ」
泣く暇もなく仕事を叩き込まれた。倉庫の整理、荷馬車の受け取り、食糧の帳簿付け。読み書きができる人間が少ないらしく、その点だけは歓迎された。
問題が起きたのは三日目だ。
砦の外れの見張り塔から狼煙が上がり、門が騒がしくなった。オークの斥候が近くに現れたという。
俺も荷運びの途中で巻き込まれ、門上に引っ張り出された。
荒野の向こうに、巨大な斧を担いだオークがひとり立っている。
そしてやっぱり、俺には見えた。
【好感度 98】
高すぎる。昨日会ったラッセルだって40くらいだったのに。
「弓、構え!」
隊長が叫ぶ。兵たちが一斉に弦を引いた。
その瞬間、オークは両手を上げた。ゆっくりと武器を地面に置き、胸元から白布を取り出して振る。
「待て!」
気づいたら、俺は叫んでいた。
全員の視線が刺さる。終わったと思った。
でもオークは、俺の声に合わせるように膝をついた。地面に指で何かを書く。見張りの兵が目を細める。
「……停戦?」
荒い字だったが、確かに人間語でそう書いてあった。
砦の上がざわつく。隊長は俺をにらんだ。
「お前、あいつに心当たりがあるのか」
「ありません」
本当にない。
ただ、オークは俺だけを真っすぐ見ていた。まるで再会を喜ぶ旧友みたいな目で。
その日の夕方、俺は砦長室に呼び出される。
そして辺境戦線の空気は、俺のせいで少しだけおかしくなり始めた。




