284話 防衛戦の行方
命令を受けて、イスパニア軍の砲兵たちが大砲のもとへ駆け寄ろうとする。
「祐長! 迫撃砲で敵の大砲を破壊しろ!」
「はっ、承知しました!」
祐長の号令とともに、20台の迫撃砲が一斉に火を噴いた。
トゥーンッ! トゥーンッ! トゥーンッ!
トゥーンッ! トゥーンッ! トゥーンッ!
事前に測量していた正確な距離に従って、砲弾はまっすぐに敵の大砲へと向かっていく。
ドゴォンッ! ドゴォンッ! ドゴォンッ!
ドゴォンッ! ドゴォンッ! ドゴォンッ!
轟音が響き、地面が震えた。
4門の大砲は跡形もなく吹き飛び、周囲の兵士たちも巻き込まれて空へと舞った。
「うわっ! 何だ今のは……!」
「クアウテモックの怒りだ……!」
「大砲が……全滅だ……!」
混乱に陥った徴募兵も正規兵も、その場で呆然としているだけだ。
逃げようという考えすら、浮かばないようだ!
一方、山の上に身を寄せていたアステカの民たちは、爆炎と黒煙の立ち昇る光景に目を見開き、次第にざわめきを歓声へと変えていく。
「これは……テスカトリポカの神の怒りだ!」
「いや、ケツァルコアトルの神だ! 我らを見捨ててはいなかった!」
「ちがう……豊穣神様だ。日本の神が我らを守ってくれているのだ!」
山の上にいる民には、アステカの神であるテスカトリポカとケツァルコアトルの怒りが、イスパニア軍を討ち滅ぼしている様に見えていることだろう。
(ひょっとしたら、豊穣神の怒りだと思っているかもしれない。アステカの民の間では、豊穣神が救いの神として認知され始めているようだからな)
……イスパニア軍・総督……
「な、なぜだ……なぜ蛮族のアステカ人が、あのような兵器を……!?」
総督が震える声で叫んだ。
「撤退だ! 全軍、退却せよ!」
「了解しました! ただちに全軍撤退の合図を――」
「先陣の周辺国兵は放っておけ! 奴らを盾にして、我ら正規軍が退く時間を稼ぐのだ!」
その冷酷な命令が響く中――
「祐長! 迫撃砲で、最後尾の正規軍から順に叩き潰せ!」
「はっ!」
トゥーンッ! トゥーンッ! トゥーンッ!
トゥーンッ! トゥーンッ! トゥーンッ!
20台の迫撃砲が一斉に火を噴き、榴弾がイスパニア軍の正規兵たちに襲いかかる。
ドゴォンッ! ドゴォンッ! ドゴォンッ!
ドゴォンッ! ドゴォンッ! ドゴォンッ!
巨大な爆発が次々と正規軍の隊列を引き裂く。
総督とその側近もまた、爆炎の中に呑まれ、次々吹き飛んでいく。
「う、嘘だ……! 我らには、キリストの神がついていたのでは……ないのか……?」
爆風に吹き飛ばされる直前、総督がそう呟いた声が、風に紛れて消えていく。
――総督が死んでしまい、正規軍の動揺が始まる。
「続けて発射!」
祐長の指示により、再び迫撃砲が火を噴く。
トゥーンッ! トゥーンッ! トゥーンッ!
トゥーンッ! トゥーンッ! トゥーンッ!
「こっちに、また飛んできたぞ――!」
ドゴォンッ! ドゴォンッ! ドゴォンッ!
ドゴォンッ! ドゴォンッ! ドゴォンッ!
逃げる気も失せた兵たちは、その場に崩れ落ちる。
血と煙の中で、虚ろな目をした者、耳を塞いで震える者、ひたすら神に祈り続ける者――
「……ただ、殺されるだけなのか……」
「……次は俺か……」
「神よ……お救いください……」
彼らの精神は、音を立てて崩壊していく。
「続けて発射!」
祐長の指示により、再び迫撃砲が火を噴く。
トゥーンッ! トゥーンッ! トゥーンッ!
トゥーンッ! トゥーンッ! トゥーンッ!
ドゴォンッ! ドゴォンッ! ドゴォンッ!
ドゴォンッ! ドゴォンッ! ドゴォンッ!
爆煙の向こうに、逃げ出そうと、虚ろな目で立ち上がる兵たちがいた。
「砲撃一時中止! 狼煙を上げろ!」
命じられた兵が、狼煙を天へと送り上げる。
狼煙を確認した工藤昌祐が、山の斜面を駆け上がり――
カァーン! カァーン! カァーン!
鐘を、一定の間隔で三度、打ち鳴らす。
それは、“アステカ兵の総攻撃開始の合図”だった。
山の斜面に身を潜めていたアステカ兵たちが一斉に飛び出し、恐怖で座り込んだまま動けない正規兵や、ゆっくりと立ち上がり逃げ出そうとする徴募兵へと駆け寄っていく。
恨みのこもった散弾が、至近距離から容赦なく撃ち込まれる。
弾丸が尽きれば、銃口に取り付けた着剣を鎧の隙間に突き立て、次々と刺し殺していった。
「や、やめろ! 頼む、命だけは――」
「逃がしてくれ……!」
悲鳴に近い叫びが響くが、アステカ兵の耳には届かない。彼らはこれまで受けてきた屈辱と苦痛、奪われた家族や人生を思い出し、怒りに我を忘れていた。
(このままでは暴走してしまう……!)
そう悟った昌祐が、防壁近くで撤退の鐘を連続して叩き始める。
カァーン! カァーン! カァーン! カァーン! カァーン! カァーン!
鐘の音が戦場に鳴り響く。だがなおも戦い続ける兵が多く、昌祐は必死に鐘を打ち鳴らした。
カァーン! カァーン! カァーン! カァーン! カァーン! カァーン!
ようやく鐘の連打に気づいたアステカ兵たちが、徐々に戦場から引き返し始める。
その頃には正規兵で生き残っている者はほとんどおらず、総督も側近もすでに砲撃で命を落としていた。




