280話 アカプルコ防衛作戦会議
「アカプルコにイスパニア軍を攻め込ませるには、どうすればいいか? やはり、怒らせるのが一番だろう」
「闇に紛れて、特殊部隊がメキシコシティの総督府を奇襲するのは、さほど難しくはないはずだ。総督府が攻撃されれば、イスパニアの総督も怒り心頭だぞ……」
「メキシコシティへ潜入したら、街の中央部にある総督府と、大聖堂と呼ばれる大きな教会、それから目立つ建物をいくつか破壊してほしい」
「ただし、“恐怖”を与えるような破壊の仕方は避けてくれ。恐れを抱かせると、連中はメキシコシティに籠もってしまう。あくまで“怒り” を与えるような破壊にしてほしい」
「この匙加減が重要だ。グレネード弾1発で十分か、それとも2発必要か――その判断は現場に任せる。ただし、目的はあくまで“怒らせる”ことだ」
「だが、それだけでは誰が何のためにやったのか分からない。そこで、声明文をたくさん用意する」
「“アカプルコはアステカ帝国が奪還した。いずれメキシコシティも取り戻す”――これをイスパニア語で書いた声明文を、破壊した屋敷の周囲にばら撒いてきてほしい。文章はルーシーに頼むことにする」
「作戦に出る特殊部隊は、ひとりも捕まることなく、全員無事に帰還してほしい。敵の主な武器は火縄銃と弓だ。しっかり距離を取って退避すれば、全員安全に逃げられるはずだ」
「それと――アステカの民を代表する一人、チュィルトリという男についてだ。彼は、皇帝クアウテモックの兄弟の子にあたる」
「ほう……! それはなんという巡り合わせだ!」と場の全員が顔をほころばせ、喜びをあらわにした。
「そこでだ! イスパニア軍が攻めてきた時には、アステカ兵の目前で、チュィルトリにクロスボウによる榴弾攻撃を披露してもらう」
「その姿を見たアステカ人は、彼を“クアウテモックの再来”だと信じるに違いない。民の中に“英雄の復活”を印象づける。“アステカ帝国の復活の象徴”を蘇らせるのだ」
「……なんだか面白くなってきたな。特殊部隊の連中も、きっと気合いが入るだろう」とオヤジたちが楽しげに笑う。
「特殊部隊を率いて、メキシコシティという、知らない街で苦労すると思いますが、よろしくお願いします」
「保正、後で紙を渡す。ルーシーには負担をかけるが、50枚程書いてもらってくれ。特殊部隊にメキシコシティに乗り込んでもらうのは、アカプルコを要塞化した後だ。今日はこれで解散としよう」
***
翌日早朝――
「三蔵! 行くぞ」
「こうして、父上と一緒に何かをするのは始めてですね」
「そうだな、まずは地図のこの場所に行くぞ。北のメキシコシティから攻めてくるならこの谷を通って来るに違いないからな!」
オヤジたちと、目標とする北側の谷に向かう。アカプルコは山と海に囲まれた平地なのだ。従って、要所の谷間に防御壁を作れば簡単に要塞化できる。
もちろん急いでいるから、防御壁は“至高の匠スキル”で、サクッと作っちゃうけどね。
目標とする場所に4人で走って移動する。オヤジたち……足が速いな。
息も上がってないし、速すぎて付いていけないぞ!
(もう少しゆっくり走ってくれないかな! 疲れてきたぞ……!)
目標とする場所にやっと到着。
川が流れる部分を鋼製のスリットにして、至高の匠スキルで、幅3m、高さ5mの壁を一気に作る。横を見る。オヤジたちは驚きもせず、普通にしている。
今まで、俺が至高の匠スキルを使っているところを、こっそり隠れて見ていただろ! (息子を勝手に覗き見するな……!)
「豊穣神様から与えられた加護の力です。秘密に願います」
「儂たちはもう慣れているからな。それに誰かに話しても、誰も信じはしまい。気にするな。よし次に行くか。次は東側だ。その後は西だ」
防御壁を作り終わって、蝦夷丸に帰ってきた。
壁を作るより、走って移動する方が疲れた。
だが、これで準備は終わりだ。
後はアステカ兵の訓練だな。早く散弾銃の扱いに慣れてもらわないと、間違って味方に撃ち込んだりしたら大変だ。
アステカ兵は北側に配置する。
東と西、それから海からも攻めてくることは、まずないだろう。
防御壁の建設が完了したので、オヤジたち3人、工藤昌祐、工藤祐長、藤林保正、九鬼定隆を招き、イスパニア軍に対する防衛のための作戦会議を開く。
「アカプルコの要塞化が完了した」
あれ、誰も驚かないな……!
だが、それでいい。こういうことに驚かないでいてくれる方がやりやすい。
「昌祐、アステカ兵はどれくらい集まったのだ?」
「アカプルコ周辺からも希望者を募った結果、800人が集まり、その中から適性を見極めて500人に絞り込みました」
「うむ、初陣だからな。肝の据わった者だけに絞ったことは正解だ。戦場で慌てて、味方に弾を撃たれたら目も当てられん。それと彼らは北側の防衛線に配置してくれ」
「はっ、承知いたしました」
「防御壁前方にある左右の山――そこに散弾銃を持たせたアステカ兵を潜ませておいてほしい。指揮は昌祐だ。頼む」
「分かりました。ただし、言葉が通じませんから、彼らへの合図も何らかの形で工夫しておきます」
「特殊部隊は、北に1,000人、西と東にそれぞれ400人。残りは街の警備にまわす。陸兵も街の警備と守備につけてくれ。戦が長引くようなら、街に残る民を指揮し、3ヶ所の防御壁へ食料と水を運ばせてほしい」
「準備が整いしだい。特殊部隊は、メキシコシティへ向かってほしい。保正、例の声明文は用意できているか?」
「もちろんです。こちらになります」
「50枚も……ご苦労だったな。ルーシーに、感謝していたと伝えてくれ」
「昌祐と祐長は、北側防御壁の状態を確認しておいてくれ」
「防御壁には昇降用の階段を設けてある。壁上には歩廊を通し、矢や弾丸を防ぐための胸壁も備えている」
「ただし、北側の防御壁だけは胸壁をやや低くしてある。チュィルトリの雄姿を、アステカの民にしっかり見せるためだ。もっとも、北側にどれだけの民を集めるかは、当日の状況を見て判断する」
「それから、壁からの距離を測り、左右の山に目印を付けておけ。今回は迫撃砲を使う」
「敵兵が防御壁前に集結したら、チュィルトリを壁上に立たせる。そのうえで、視線を集めた瞬間――やや大げさな動作でクロスボウによる榴弾攻撃を数発行ってもらう。英雄の復活を演出するわけだ」
「クロスボウの扱い方と、榴弾を用いる際の注意点は、祐長からきちんと説明しておいてほしい」
「……質問がなければ、以上で解散だ」




