182話 長慶救出
天文17年(1548年秋)――17歳
部屋では、長慶と久秀が酒を酌み交わし始める。
「久秀、ご苦労だった。いやこれからもう一仕事があるな。まあ一献どうだ……それにしても、三蔵殿はすごいな。あれを真似するのは無理だ! 自分の国まで作りおったからな」
「私とて、この戦国の世を終わらせたいと思っていたのだ。しかし、昔からの仕来りや、しがらみを無視することができなかった。そうする力もなかった。死にかけの室町幕府の、ぼろぼろで穴だらけの体制ですら、壊してしまう知恵も力もなかった」
「私の負けだ。完敗だ。後は三蔵殿に任せ、儂らはそれを手伝えばいい。すまんな、久秀! 儂に尽くしてくれたことの礼もできなかった。国の一つも与えることもできなかった。申し訳ないと思う。この通りだ」
「殿、もったいないお言葉……もったいのうございます。この先どうなるのか想像もつきませんが、私だけは殿について参ります」
長慶と久秀が静かに酒を酌み交わしていたその時――
突如、襖が音を立てて激しく開かれる。
鎧に身を固め、刀や槍を構えた武者15人が、怒号とともに部屋へ雪崩れ込んできた。
「殿! ご無礼を承知で申し上げます! 三好家の未来は我らにお任せを。奸賊・松永久秀、ここで斬り捨てます!」
怒気に満ちた武者たちが、刃をきらめかせながら久秀へと迫る。
「貴様ら、何をしているのか分かっているのか!」
久秀が叫ぶ。
「殿を手にかければ、三好家はその瞬間に滅びる! 四国へ逃げ延びる道すら閉ざされるぞ!」
しかし武者のひとりが声を張り上げて遮る。
「問答無用! 今こそ奸賊を討つ時!」
刀が振り上げられ、部屋の空気が張り詰めた糸のように凍りつく――。
三蔵のやつ……やはり、ここまで見通していたのか! 婿とはいえ、底が知れぬ男だ。さすが神童と呼ばれただけのことはある。
「長慶殿と久秀殿を救い、三好の城は容赦なく破壊せよ」と最初からそう命じていた。まったく恐ろしいほど先を読んでいる。
藤林正保は静かに頷くと、手を一閃させて合図を送った。待機していた隊員10名が、まるで風のように、音も立てずに部屋へと滑り降りていく。
「三好殿、ご助力いたしましょうか? 玄武王は、かかる事態をすでに予見されておりました。我らが合図すれば、外で待機している特殊部隊500名が、直ちにこの城自体の破壊を開始いたしますぞ」
「なんと……やはり玄武王様には敵いませぬな。久秀とともに、お力添えを願います」
「承知いたした。――合図を送れ!」
窓際で隊員が手旗信号を振ると、外に控えていた特殊部隊が即座に反応。
隊員たちは素早くリボルバーを抜き、部屋に乱入していた刺客の武者たちを、1人、また1人と正確に撃ち抜いていく。
室内の敵はすべて倒した。しかし、間を置かず、さらなる刺客が押し寄せてくるのは明白だった。
隊員たちは素早く畳を剥ぎ取り、それを窓際に積み上げて即席のバリケードを築く。
「4人、ここを死守せよ。残りは屋根上に移動しろ。俺たちが脱出したら、すぐに引け。……いいか、絶対に死ぬな!」
鋭い号令とともに、緊迫の脱出劇が始まった――。
背負ったリュックからロープ取り出し、屋根から下に垂らしていく。1人の隊員が、そのロープを持って屋根から飛び降りる。部屋は4階だが、隊員は滑車を上手く使いながら、速度を調整しつつ地面まで降りていく。
そのままロープの端を持って城壁まで走り、城壁の手前に植えられた木にロープの端を結わえる。
「今から、我が隊員が見本を見せる。しっかり見て、動きを真似てくだされ」
隊員が背負ったリュックから、滑車に取っ手が付いたものを取り出し、滑車をロープの上に乗せて一気に滑り降りて見せる。滑り降りる隊員は、城壁に近づくと城壁に足をついて膝の動きでショックを和らげている。
「さあどうぞ、大丈夫ですか? できますか?」
「何を言うか、毎日の鍛錬は欠かしてはおらぬぞ。心配など無用じゃ」
長慶が同じようにして、地面に降りていく。続いて久秀も降りる。降将が無様なところなど意地でも見せられない。たとえ失敗して足が折れても走って見せる!
その間、部屋に残った4人の隊員は、リボルバーを左右に振りながら撃ちまくる。狙いは正確だ。刺客たちを一歩たりとも近づけさせない。
短い沈黙の後、刺客全員の動きが止まった。残敵なしを確認した4人の隊員はすぐさま屋根に上がり、次々とロープを使って降下していく。
すべての動きに一分の隙もなかった。
最後の隊員が地面に降りるのを見計らい、城の四方から特殊部隊500名がグレネード弾を発射する。グレネード弾が爆発する度に城が揺れる。建物が吹き飛んでいく。
ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ!
ボンッ! ボンッ! ボンッ!
長慶は既に城の外に立っている。城が破壊されていく様子をじっと見つめている。
これは……攻城戦などではない……城を人ごと破壊している……ついに城が燃え始めたか、呆気ないものよ……。
名将の知略を尽くした攻防でもなければ、包囲と兵糧攻めでじわじわと落ちたわけでもない。ただ城が吹き飛ばされ、破壊されていく。戦のやり方が全く違う!
(こんな相手に勝てるわけがない)




