175話 胡椒を求めて海外に
天文17年(1548年夏)――17歳
「話が長くなったな。茶でも飲むか」
「左様ですな。されど、豊穣神が夢枕に立たれたというお話――これはまた、実に学び多く、面白うございましたな」
3人はどこか嬉しげに、にこやかにうなずき合っていた。
豊穣神様の話ではないです。前世の俺の知識だけどね。
茶を飲み終わり、話を続ける。
「天竺に向かう新たな海の道を探すとなると、当然、陸から遠く離れた海まで航海する必要がある」
「今まで航海してきた近海や、地中海のような内海であれば、そんなに丈夫な船でなくても航海ができた。しかし、その遠海まで航海するとなれば、大波に揉まれても壊れない、大きく丈夫な船が必要になる」
「だったら丈夫な船を作れば良いとなる。しかし大きくて丈夫な船を作るにはお金が必要だ。しかも何隻か作ろうとすればなおさらだ。船主は大きな資金が必要となる。だが、そんな大きな資金を貸してくれる商人などそうそういないわけだ」
「しかし大きな資金を、複数の船主に貸し付けることができる商人がいたのだ。彼らは、国を問わず裕福な金持ちたちから大量の金や銀を預かっているのだ。もちろん、金持ちたちから絶大な信頼を受けているからこそできることだ」
「彼らに預けた金や銀という資産は、無くなることなく、必ず増えて戻って来るという信用だな。その信用のお陰で、国王、大貴族、教皇、オスマン帝国皇帝といったところからその商人に、凄まじい資金が集まってくるのだ」
「預かった資金は、目利きした儲かりそうな事業に、高い利子を取って貸し付ける。その利子により預けた資金が増えていくのだ。もちろん商人も儲かる」
「話は少しずれるが、元々キリスト教では『お金を貸して利息を取る』ことを禁止いていたのだ。つまりキリスト教徒は、金貸し業はできなかった」
「一方、ユダヤ教では『お金を貸して利息を取る』ことを許されていた。つまりその商人はユダヤ教徒という訳だ。ユダヤ商人には金貸し業で財をなした商人が多いのだ」
「現在では『お金を貸して利息を取る』ことを禁止としていたキリスト教でも、『適正な利息は許される』に変わってきたようだ。しかし、ユダヤ商人たちが長い歴史で積み上げてきた『お金についての深い知識』には追いつくことはできていない」
「なるほど、国を跨いで金を動かす……さながら、巨大な金貸しの大商人といったところでござろうな」と幸隆が目を細めた。
「そうだな」
(もう少し落ち着いてきたら、正直屋国際銀行も作るかな)
「国を跨いで商売をするというのは面白い商売ですね」と信長は感心したように呟いた。
「されど、その商人、常に危険と背を合わせておるようにも思えますが……?」と勘助が疑問を口にする。
「だからこそ、彼らは傭兵を雇って、自らの身を守っているのだ」
「しかも、商人のもとに資金を預けているのは、各地の有力者たち。彼らにとって、それは自分の財産そのものだ。当然、失われることなく、利益を乗せて戻ってきてほしいと願っている」
「さらに戦が起これば、権力者はその商人から資金を借りざるを得なくなる。ゆえに、彼らは商人を守るし、必要とあらば庇護もする。そうして商人たちは、どの国にも自由に出入りできるという特権を手に入れていくのだ」
「その商人が、こう言葉巧みに話を持ちかけるわけだ」
「『金を出してやるから、遠い未知の国から高値で売れる産品を船で持ち帰りましょう。その産品を売り、貸したお金を二倍とか三倍にして返してくれれば――残りのお金はあなたのものですよ。船も、あなたのものになるのです』と」
「『航海に出て、高値で売れる産品を持ち帰れば、船と資金が自分のものになる。
次の航海からは、すべて自分の取り分。大金持ちになれるぞ!』と――船主はそう考える」
「だが、遠海は波も荒く、航海はまさに命懸け。生きて帰れる保証などどこにもない。しかも、商人から借りた金を返せなければ、港で待つその商人に殺される。
それでもなお、欲に目がくらみ、自らの命を賭ける者がいるのだ」
「船主に雇われた船員たちは、続々と命懸けの航海に乗り出していく。彼らが目指すのは、このアフリカ大陸の西海岸だ」
「だが、船主の頭にあるのは借金を返すことだけ。交易など、最初からする気などない。強奪、略奪を繰り返すのだ」
「アフリカ西岸には、金の採れる地域もある。金や銀があれば、それを奪う。珍しい動物の剥製や牙があれば、それも奪う。何もなければ、人を攫って奴隷として売る」
「船主にとっては、命懸けの航海だ。だから手段は選ばない。欲も絡み、悪行三昧を繰り返す」




