169話 吉崎・尾山御坊の陥落
天文16年(1547年秋)――16歳
日本丸には信長が、蝦夷丸には俺が乗船している。
俺が率いる蝦夷丸10隻は、吉崎御坊の沖合へと到達した。
射程を確認後、迫撃砲による砲撃開始を命じる。
トゥーンッ! トゥーンッ! トゥーンッ!
ドゴォンッ! ドゴォンッ! ドゴォンッ!
開始から一刻も経たぬうちに、吉崎御坊は瓦礫と化した。
続いて、日本丸20隻が尾山御坊の沖合へ向かう。
だが尾山御坊は、海岸線から距離があり、船上からの砲撃は届かない。
そこで、迫撃砲2門を搭載した短艇を20隻下ろし、犀川を遡らせる。
河原に到着後、各艇の迫撃砲を地面に据え付けていく。
測距儀で距離を測り、砲角を調整。
準備が整い次第、40門の迫撃砲による一斉攻撃を開始する。
トゥーンッ! トゥーンッ! トゥーンッ!
ドゴォンッ! ドゴォンッ! ドゴォンッ!
こちらも、一刻足らずで尾山御坊を瓦礫と化す。
任務を終えた短艇が順次戻り、日本丸は吉崎御坊へと再び進路を取った。
俺の方はというと……吉崎御坊を瓦礫にした後、蝦夷丸に積んでいた米を次々と海岸へ運ばせていた。
吉崎御坊に近い浜辺に、米俵がずらりと積み上げられていく。
その米俵の横に、俺は立っている。
やがて、その場所へ一向宗の信者たちが次々と現れ始める。
集まってくる数は、まさに圧巻だ。もしこの群衆が暴徒と化したら、ひとたまりもないだろう。
しばらくして、群衆の中から数人が静かに抜け出し、こちらへゆっくりと歩いてくる。やがて俺の前で膝をつき、頭を垂れた。
そのうちの一人、信者の代表らしき人物が語り始める。
「我ら信者のすべての頭に、神の声が直接響いたのです」
「『一向宗は邪教なり。邪教を滅ぼし、お前たちを救う者が、船に乗って吉崎御坊に現れる。その者の言葉に従え』と……。そのお告げに従い、私たちはここに集まりました。どうか、私たちをお導きください」
その言葉と同時に、大勢の信者が一斉に額を地につける。
「お前たちに語りかけたのは、我らが神──“豊穣神様”である。その豊穣神様を信じるというのなら、我らはお前たちを助けよう。どうする?」
「村々に“豊穣神様”の祠を建て、皆でお参りをしたいと存じます」
代表の信者がそう告げると、俺は大きくうなずいた。
「そなたたちを欺き続けた一向宗は、もはや滅んだ。村に帰り、畑を耕すのだ! 食料となる米は、この通りここに用意してある」
「火山の灰で耕作が難しくなった田も、“豊穣神様”がきっとお救いくださるだろう。豊穣の土地となるはずだ。日々、豊穣神様に祈りを捧げるのだ」
そのときだった。
浜辺の一角に信長が現れた。
来たか……待っていたぞ、信長。
俺は信者たちに向き直り、はっきりと告げる。
「この者は、豊穣神様の加護を受けし我が代理──将軍・北畠信長である」
「この国を治める者だ。今後は、この者の導きに従えば、お前たちは真に幸せな暮らしを手に入れることになるだろう。……よいな!」
俺は地面に、清らかな布を丁寧に敷かせ、その中央に“豊穣神様”の像を創り出す。
空中から忽然と現れた像に、周囲に集まった信者たちは息を呑み、どよめきが広がる。
「豊穣神様の加護、その力を見せよう。……この中に、病気や怪我で苦しんでいる者はおらぬか? 1人でなくても構わぬぞ」
すると、信者の群れの中から、数人の子どもが抱えられて運ばれてくる。
顔色は悪く、意識も朦朧としている様子だった。
「この子たちは、熱が下がらずにいます。医者も打つ手がないと……どうか、助けていただけないでしょうか?」
俺はゆっくりと子どもたちに近づき、一人ずつ体に手をかざす。
すると、俺の手から柔らかな光が放たれ、その光に包まれた子どもたちの顔色がみるみるうちに良くなっていく。
ぐったりしていた子らは、まるで何事もなかったかのように、ぱっと立ち上がった。
奇跡のような光景に、信者たちは感極まり、地面にひれ伏すようにして再び土下座を始める。
(これで……彼らが一向宗に戻ることはないだろう。あとは、信長に任せよう)
そう思いながら、俺は静かに蝦夷丸へと乗り込んだ。




