166話 三河攻略と小谷城陥落
天文16年(1547年秋)――16歳
三河攻略作戦、ついに発動だ。
まずは商人を通じて、三河一帯の米を買っていく。いろんな場所に分けて、最初は少しずつ、そしてだんだんと買う量を増やした。
どうせ秋になれば収穫がある。米がなくなっていくことに誰も心配などしていない。
松平家も一向宗の寺も、米が売れたことによる臨時収入にホクホク顔だ。
そして――秋。
三河は見事な豊作に恵まれた。
松平家も一向宗の寺も、臨時収入の銭を使うべしと、焼酎をどっさり買い込む。あちこちで豊作を祝う宴が開かれ、浮かれた酒盛りが続いたのである。
警戒心など、まるでなし。
――その隙を突いて、“忍者撹乱隊”が動き出す。
米が大量に保管されている米蔵を、すべて――ことごとく――焼き払ったのだ。
宴の余韻が残る中、松平家と一向宗の寺は気づく。
この冬に食うべき米がないことに。
松平家や寺の動きは素早い。農民たちが冬を越すために蓄えていた米を奪う。
当然、民は飢える。彼らはそんなことお構いなしだ。
民などどうせ、勝手に生まれてくると思っているからだ。
だが――民から奪った米の量など、たかが知れている。
やがて松平家も、一向宗の寺も、深刻な食糧不足に見舞われていくことになる。
(作戦通りに進んでいくな)
作戦通り、そのタイミングで“忍者撹乱隊”を動かした。
松平家の兵士の格好をさせて一向宗の信者を襲わせ、今度は一向宗の装束で松平家の家臣を奇襲させる。疑心と憎悪を巧みに煽ってやった。
その結果――松平家と一向宗はついに全面衝突。
血で血を洗う泥沼の戦が始まった。腹が減ると短気になるのだよ。
互いに消耗しきったその隙を突いて、蝦夷軍が三河へと進軍。
迎え撃つ力など、もはや残っていない。信者も家臣も、すでにボロボロだった。
農民たちは帰郷させ、偉い坊主以外の坊主、松平の一族、武将たちにはすべて消えてもらった。残った寺も、必要ないから綺麗さっぱり更地にした。
表向きには――蝦夷国が三河に一切関与していない、という体裁を守らねばならない。
さらに、三河の中に“松平家”や“一向宗”が健在であるように見せかけておかないと、この策は破綻してしまう。
幸い、三河の周囲は北畠領に囲まれており、しかも“忍者警備隊”が外への出入りを徹底的に封じている。この厳重な警備体制のもとでは、万に一つも情報が漏れ出すことはないはずだ。
これから仕掛ける“一向宗独立騒動”は、才蔵を通して既に主上に伝えているし、了承もしてもらっている。朝廷側は主上が上手くコントロールしてくれるはずだ。
さあ、日の本始まって以来の大作戦を始動するか!
***
ある日、“三河一向宗国”が朝廷に対して独立宣言を行ったのだ。
しかも、三河の松平家は、すべて一向宗が討伐したという。
かつてない、大事件の始まりだ。
いきなりの“三河一向宗国独立宣言”に、朝廷は慌てて右往左往するばかり。統治能力も、実務経験もまったくない公家たち、どう対処していいのかまったく分からない。
右往左往するばかりだ。
そんな時に……こともあろうか……“石山本願寺が三河一向宗国と共闘”すると、朝廷に宣言してきたのだ。
慌てふためき、震え上がる朝廷の公家たち。
しかし主上が上手く誘導し、“一向宗の禁教指定”と“三河一向宗国の討伐”を決議する。
しかし、さらにどうしようもないことが起こる。
“加賀一向宗国”までもが独立宣言してしまったのだ。
朝廷の公家たちは、もはや完全にパニック状態。
しかも“忍者撹乱隊”があらゆる噂を煽って回っているせいで、事態はさらに混乱を極めていた。
(これが南蛮からの侵略だったどうするつもりだ!)
(公家は日の本に必要ないことが判明!)
「このままでは国が滅びるぞ〜!」
「天変地異の前触れじゃ〜!」
公家たちは、まるで狂言じみた大騒ぎを始める。
冷静な判断を下せるような空気ではない。
「ちょっと待て、少し落ち着こう」
そう言った者がいたりすれば──
「お主、ことの重大さがわかっておらんのか!」
まるで冷静でいることが悪のような追求を始める始末。
誰もが我先にと“最悪の想定”でパニックとなり……
「この騒動、なんか変だぞ……」などと疑う者は一人もいない。
当初、“三河一向宗国の討伐”は、朝廷から幕府に命じる予定だった。
しかし、加賀一向宗国までもが独立を宣言したことで、幕府はそちらの対応を優先せざるを得なくなるのは自明だ。
なにしろ、加賀一向宗国の軍事力は、三河とは比べものにならないからだ。
幕府軍が加賀へ侵攻するルートにある浅井家と朝倉家に、御内書と勅命がダブルで下された。両家とも幕府軍の先陣として、討伐軍に加わることが決まったのである。
だが、浅井家も朝倉家も、加賀一向宗国の戦力が桁違いであることを熟知している。
そのため、行軍を意図的に遅らせている。いわゆる“牛歩戦術”だ。
ちなみに、朝倉の名将・朝倉宗滴はすでに老衰で亡くなっている。
生きていれば違った展開もあったかもしれない。
ノロノロとしか進軍しない両家が邪魔になり、幕府軍の加賀討伐は一向に進展しないのだ。
とはいえ、加賀の対応が進まないからといって、朝廷が三河一向宗国の討伐を中止するわけにもいかない。
こうして、朝廷はやむを得ず──蝦夷国に“三河一向宗国の討伐”を依頼することになるのだった。
三河一向宗国は、もちろん蝦夷国軍によって討伐済みである。
少し時間をおいてから、“討伐完了の報告”を蝦夷国が朝廷に届けた。
討伐の謝礼として──三河は正式に“蝦夷国の領土”となった。
一方、幕府はというと……浅井家と朝倉家に対し……
「加賀一向宗国の討伐を怠った」として詰問状を送りつけた。
当然ながら、両家は激怒する。
「やってられるか!」とばかりに、勝手に軍を引き上げ、帰国してしまう。
……もちろん、これは忍者撹乱隊の情報操作による“計画通り”の展開なのだ。
わざと怒らせるように仕向けておいたのだ。
そして幕府は、両家の行動を利用し、朝廷にこう訴える。
「浅井家と朝倉家は、加賀一向宗国に通じております!」
すっかり混乱しきっている朝廷は、ろくに確認もせず、それを鵜呑みにする。
かくして──浅井家と朝倉家に対する“討伐の勅命”が発せられたのだった。
幕府軍による浅井家への攻撃が始まった。
だが浅井家は「小谷城は難攻不落」と信じ込んでいるため、迷うことなく籠城を選択。
淺井家では――
「この城は難攻不落!」
「いずれ幕府も、攻めあぐねて手詰まりになる!」
「朝廷に賄賂でも送っておけば、きっと許されるはず!」
──そんな甘い期待を抱いていた。
幕府軍本体がまだ小谷城に到着していないこともあり、城内では作戦会議に没頭している。だが、話は堂々巡り。時間だけがいたずらに過ぎていく。
そして今日も、評定の間では熱のこもった会議が続いている──
まるで、現実から目を背けるように。
しかし、甲賀特殊部隊500人と甲州特殊部隊300人、尾州特殊部隊300人、越州特殊部隊300人の計1,400人が、夜間に小谷城の斜面を粛々と音を立てずに登っていくのである。
本丸まで矢が届くところまで登り終えると、特殊部隊それぞれが、クロスボウで榴弾を放ち始める。
ズドーン! ズドーン! ズドーン!
ズドーン! ズドーン! ズドーン!
数百発の榴弾が打ち込まれた小谷城は、一瞬で瓦礫と化した。
評定の間で会議を行っていた重臣たちも、一瞬で吹き飛ばされてしまったのである。




