153話 連合軍を殲滅せよ
天文15年(1546年秋)――15歳
定隆は、小田原城沖に日本丸を横一列に並べ終えた。
波音が微かに揺れる中、夜がわずかに白み始める。
静寂を切り裂くように、定隆は「攻撃開始」と叫ぶ。
手旗信号が送られ、迫撃砲による砲撃が始まる。
撃って、撃って、撃ちまくる。
トゥーンッ! トゥーンッ! トゥーンッ!
ドゴォンッ! ドゴォンッ! ドゴォンッ!
日本丸から一斉に放たれた砲弾が、密集する連合軍の中央に突き刺さる。
大地が揺れ、地鳴りとともに兵士が吹き飛び、地面に激突する肉体が土煙と血飛沫を巻き上げる。
土煙の向こう、何も見えなくなっても、砲撃は止まらない。
これは威嚇ではないし、降伏を促す戦いでもない。
敵を――連合軍を――殲滅するための戦だ。
トゥーンッ! トゥーンッ! トゥーンッ!
ドゴォンッ! ドゴォンッ! ドゴォンッ!
連合軍の兵が、次々と崩れ落ちていく。
景虎は戦場を駆け回り、声を張り上げる。
「集まるな! 広がれ! 隊列を崩して間隔を空けろ!」
命令は、長尾軍だけでなく他の諸大名の陣にも次々と伝令されていく。
だが――遅すぎた。
トゥーンッ! トゥーンッ! トゥーンッ!
ドゴォンッ! ドゴォンッ! ドゴォンッ!
砲声が鳴るたびに、兵たちは恐怖で足を止め、声にならぬ叫びを漏らす。
その中で、盟主・上杉憲政の姿は最も無様だった。
震え、歯を鳴らし、顔を蒼白にした憲政は、半狂乱で叫び出す。
「退けっ……退けぇっ! 死にたくないっ! 退けぇぇぇっ!」
憲政の軍は、恥も外聞もなく、勝手に退却を始める。
その動揺は瞬く間に連合軍全体へと広がっていった。
「うわああっ! 死にたくないっ!」
「逃げろ! 逃げろおおおっ!」
秩序は崩壊した。
兵は味方を押しのけ、跳ね飛ばし、将兵の区別なく暴走する。
逃げ道を求めて狂ったように走り、足をもつれさせた者を後ろの者が容赦なく踏みつける。
中には、恐怖と混乱で正気を失い、無差別に槍を振り回す者まで現れた。
地獄絵図の中で、連合軍は自壊し始めていた――。
小田原城の天守から、連合軍の混乱をじっと見つめていた氏康。
ついに声を張り上げた。
「総攻撃の狼煙を上げろ! 船に手旗信号を送れ!」
城の見張りが直ちに狼煙を上げ、手旗信号が振られる。
幸隆はそれを望遠鏡で確認し、素早く反応する。
「全船、砲撃中止! ただちに停止せよ!」
信号兵が日本丸へ次々と指示を伝えていく。
砲撃が止まり、海上は再び静けさに包まれた――その刹那。
小田原城の城門の内側では、北条の将兵たちが押し殺してきた激情を必死で抑えている。
「まだか! まだなのか!」
「絶対に生かして帰さんぞ!」
「殺れッ! 1人残らず殺れッ!」
城門で待機する兵たちは、狼煙を目にし、押し殺してきた激情を爆発させる。
ついにその時が来たのだ――怒りと歓喜の咆哮が、城の奥から轟き渡る。
「許さんぞ! この野郎どもがあああああっ!!」
「ウォオオオーーーーッ!!」
地響きのような雄叫びが、戦場に放たれる。
北条兵は城門を蹴破らん勢いで駆け出し、怨念すら帯びた怒涛の追撃戦が幕を開けた。
酒匂川上流部の山間部に隠れていた1万の兵が、砲撃音を合図に一斉に動き出していた。
「待ちくたびれたぞ! 連合軍の奴ら、逃さんぞ!」
怒号とともに、大急ぎで酒匂川の東側へ移動し、退路を塞ぐように陣を組み始める。
「よいか、1人も通すな! 1人残らず、全滅させるんだ!」
その怒声が山々に響く。
幸隆はすでに、工藤祐長が率いるライフル隊と爆弾クロスボウ隊を、酒匂川の東岸に上陸させていた。前方からは、潰走する連合軍の兵たちが血走った目で殺到してくる。
「邪魔だァァ! どけェェェ!」
「ウォ〜ッ! ウォ〜〜ッ!!」
それはもはや兵ではない。怒声をあげながら突進してくる、暴走した狂人の群れだ。
ライフル隊は無言で構え、引き金を引いた。
ダーン! ダーン! ダーン!
ダーン! ダーン! ダーン!
狂乱の群れが、銃声に次々と沈んでいく。
爆弾クロスボウが炸裂し、宙を舞った肉体が地面に叩きつけられる。
ズドーン! ズドーン! ズドーン!
ズドーン! ズドーン! ズドーン!
小田原城から飛び出した北条兵が、連合軍の後方に追いついた。
挟撃された連合軍は、もはや統制を失っていた。
「逃げ道は、どっちだ!?」
「味方が邪魔だ、通れねぇ!」
「どけよ。もたもたするな!」
前へ進もうとした者が、後ろから押され、味方の槍に串刺しにされる。
密集しすぎた兵の群れは、もはや“軍”ではなかった。立ちすくむだけの者、槍が刺さったまま逃げる者。動きを止めれば、無慈悲な刃が突き立つ。
絶望と恐怖のなか、諦めた兵たちが、膝をつき、泣きながら頭を抱える。
だが、北条兵に情けはない。
「許さん……!」
「殺られた分、殺り返せ……!」
これまでの“偽装撤退”で流された血と、積もり積もった恨みが、容赦ない怒りとなって爆発していた。
殺戮は加速する。
戦場は、修羅と化していた。
景虎は悟った。
(……北条征伐は、罠だったのか……)
(誰だ……誰が、こんな策を……)
脳裏には誰の顔も浮かばない。
策に嵌められたという確信だけが、胸を締め付ける。
四方から押し寄せる味方兵の波に囲まれ、身動きひとつ取れぬまま、景虎は呑み込まれていった。
(負けだ……)
(俺は……何もできぬまま、終わるのか……)
(才能のまま戦場を駆け回りたかった……無念だ……)
***
そのころ、小田原城では。
連合軍を追撃中の氏康のもとに、ひとりの使者が駆け込んでくる。
「降伏の申し出にございます!」
氏康は、事前の打ち合わせ通り、静かに返答する。
「上杉憲政と長尾景虎の首をよこせ。さらに、連合軍に加わったすべての大名の首をもな。さすれば、降伏を受け入れてやろう」
一刻も経たぬうちに──
上杉憲政と長尾景虎の首が届けられた。
憲政の首は、恐怖に歪み、涙を流した形で切り落とされていた。
景虎の首は、穏やかな表情のままだった。
負けを受け入れた、ということか。
続いて、大名たちの首も次々に届き始める。
どれも争った形跡があり、刀傷と血に塗れている。
おそらくは家臣に押さえつけられて斬られたのだろう。
かくして、戦は終わった。
北条軍の勝鬨が、空を裂くように響き渡る。
「エイエイオー! エイエイオー! エイエイオー!」
「エイエイオー! エイエイオー! エイエイオー!」
5万の兵を誇った連合軍は、降伏時には5,000人にまで減っていた。
降伏した兵たちは、命と引き換えに、武蔵・上野攻略戦の最前線へと送り込まれる。
攻城戦の先陣を何度も引き受けることになるのだ。
戦の渦の中で、全員がその命を散らしていくことになる。
***
その頃……
幸隆が率いる日本丸48隻と兵5,000人は、大島で補給を終えていた。
5,000人のうち2,000人が再び乗船。さらに、氏親と綱成が率いる精鋭7,000人、そして風魔特殊部隊400人が合流する。
総勢1万近い大軍は、波を切り裂き、越後・直江津の港を目指して進発するのである。
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※戦闘シーンなどのイメージ画像を、YouTubeで作成してみました。
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戦国NINJAストーリーズ 公式チャンネル
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