捧げる竜6
「………………………………」
「………………………………」
私は星を眺めていた。あの後、あまりよく覚えていないが、気付けば木の幹に背を預けて、ぼんやりと座る自分がいた。隣には彼がいて、同じようにぼうっと星を見ていた。
紫苑に濃いチュウをされてしまった。刺激が強過ぎたようで、私は魂が抜けたようになっていた。かました方も魂抜けてる。「よくやった俺………」って独り呟いてるし。
「…………………あ、紫苑」
流れ星を見た時に、寒さを感じて意識を取り戻した。暖かい季節とはいえ、夜は冷える。じっとしていたら尚更寒いし、竜族は冷えに弱いんだった。
「大丈夫、紫苑?寒くない?」
隣にいる彼の腕を揺すっても無反応で、頬に手を当て肌の冷たさを確認しようとしたら、目を瞬かせて大げさなぐらい驚いていた。
「うわあ、ローゼ!」
「やっぱり冷えてる」
動きの鈍くなっている竜に薄手の毛布を巻くと、小枝を集めてランタンの火を移し、暖を取った。
「すまない」
ノロノロと火に手をかざす紫苑にホッとして、私も隣に座って鞄を漁ると、誘拐される前に買っておいた焼き菓子五個セットがあった。(あ、買った下着もある!)
「一週間過ぎてるけど……大丈夫だよね」
水筒を取り出すと、新鮮な水がたっぷり入れられている。
「紫苑、水いつ入れたの?」
「いや、知らない。そういえば灰苑が小川で汲んでいた気がする」
「そっか、気が利……く、待って!紫苑貴方まさか?!」
減っていない焼き菓子、飲料水に頓着していない彼の様子に、嫌な予感がした。
「な、どうし、んあ?!」
無遠慮に紫苑の頬に触れて、肩を撫でる。触っただけじゃ分からないけれど、確かめずにはいられなかった。
「…………食べてないのね?いつから?」
「………え?分からない、覚えがない」
今気付いたように首を傾げる紫苑の口に、無言で焼き菓子を突っ込んだ。
「むぐ?!」
「食べて!」
「お前も、もぐもぐ、食べっ、もぐ」
「いいから!」
涙を堪えている私を見て、大人しくなった彼は焼き菓子を三個食べて、差し出す水を半分飲んだ。
「馬鹿」
私の勢いに押されて懸命に食べ終えた紫苑に、つい毒づいた。
このヒトは、おそらく10日以上食べずに、私を探していたのだ。食べることも忘れるなんて、尋常じゃない。
「大丈夫だ、少々食べなくても死にや」
「竜族でも、生き物なんだから食べないと死んじゃうでしょう!お腹空いてたんなら早く言ってよ」
「いや、なんか自覚なくて」
「馬鹿、チュウかましてる場合じゃないでしょ!キスしなくても生きていけるけど、食べないと死んじゃうのよ!」
「あ、う、いや、必要!どっちも必要だ!」
ここで抵抗を見せた紫苑に、残りの焼き菓子を突っ込もうと迫ったら、逆に私の口に押し付けてきた。
「むぐ、いらな、しえんが食べ」
「それをローゼが食べたら、最後の一個を半分づつ食べよう」
「…………ん、もぐ」
紫苑が食べたのを見て安心したのもあって、私は渋々それを食べた。
「今日は、このまま野宿だな」
全部食べ終わり、彼が唇を舐めて言った。
懐中時計を見ると、もう深夜を回っているらしい………なぜ、いつの間に?
彼も体が動かないし、私も疲れている。体調を崩したくないから素直に休むことにした。
火の回りの草がふかふかで寝やすい場所を探すと、ぼうっとしたままの紫苑をそこへ引っ張って連れて行った。
そして押し倒した。
「あうっ!?何だ仕返しかご褒美か!」
「いいから寝て!ろくに眠ってもいないんでしょう?ぐす、ふえぇ」
疲れで泣きが入った私に驚いて、紫苑は横になると無駄口を閉ざした。
「ふえ、寒くない?」
目を丸くして、毛布を掛け直す私を見ていた彼だが、ふっと笑うと手招きした。
「こっちに来いよ」
言いながら、横向きになっている自分の前の毛布を開けた。
「……………寒いの?」
「寒い。ああ、ローゼの体温で暖まりたいなあー」
はにかみながらも、期待感で瞳をキラキラさせている彼を見たら、あー元気なんだな、と安心して泣きが引っ込んだ。
「あ、そっち………」
彼の背中側に回って横になると、少し残念そうな声で毛布を掛けてくれた。
柑橘系の香りが鼻を擽る。
「…………心配してくれたんだな」
「馬鹿、当たり前でしょう?」
顔は見えないが嬉しそうだ。
本当に暖めてあげようと背中に引っ付くと、「あ、あたたかい、これは……ご褒美を通り越して、拷問……」と、小さく身動ぎして落ち着かないようだった。
今までは、宿では別々の部屋を取っていたから、こんなに近くで一緒に眠るのは初めてだ。
背中からでも、紫苑の鼓動の強さが響いてきて、こっちまでドキドキしてきた。
こんな感じで、よく前側を勧めてきたものだ。
でも彼の鼓動が私によって跳ねるのを感じると嬉しい。
「これは、ね、眠れ……眠れな……」
「暖かい?」
「暖……かい」
「そっか………おやすみ」
「ああ……おやす……」
やっぱり無理してたんだ。紫苑はすぐに寝息を立て始めた。
竜族でも、何日も食べずに眠っていないなんて体が辛かったはずだ。自分の体のことも気にかける余裕が無かった彼を思うと、胸が締め付けられるようだった。
後ろからお腹の辺りに手を回して、眠る紫苑を抱き締めた。
おかしいな。私が抱き締めているのに、彼に包まれているようで落ち着く。
紫苑の寝息と香りと、渡した体温で仄かに暖かい体を感じて、私も目を閉じた。




