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捧げる竜5

 

 暗いので紫苑の表情は、はっきりとは窺えないが、どうやら私の言動にいたく喜んでいる様子だ。


 気持ちが高揚すると、本音を口に出して自爆しがちな彼は「違う違うんだ、これ以上俺を変態みたいに思わないでくれ」と言いながら、私の脛にすり寄っている。


「ローゼの足………」


 恍惚とした声音にも、慣れてきた私は通常運転だ。


「白霧様の話聞いていたら、やっぱり少し怖かったけど、貴方がそう誓ってくれるなら大丈夫、かな………ん、でもその……」

「でも?」


 不安げに問いかける紫苑を見下ろす。


「正直に言うと、まだ私は貴方とずっとずっと番って暮らすことに自信が無くて……決心が着かないというか」

「………分かってる。ローゼは人間だからな。その、ゆっくりでいいんだ。性急にコトを進めたりはしない。今は俺といてくれるだけで……いいから。な、何年でも待てるから、うっ」


「泣いてるの?!」

「ぐっ、泣いてなど………だがローゼ、寿命が尽きるまでには俺と番ってくれ。先に逝ってしまうとか、俺は嫌だ狂ってしまう」


 足に強く絡まる紫苑を慰めようと髪を撫でながら、私は白霧様に疑問だったことを聞き忘れていることを思い出した。


「紫苑、一つ分からないことがあるので教えて欲しいの」

「番うのは、ひ、人型を取るから、大丈夫だから、人間と変わらないから、その平気だからな」


 口元を隠しながら、目を泳がせた紫苑がボソボソと話すが、それもだけどそれじゃない。


「その、あのね、竜族と番ったら不老長寿になるのは知ってるんだけど…………竜の精って何?それを受け続けたら、僅かに竜族のようになるから長生きするんだって聞いたんだけど」


 恥ずかしい意味合いだとは、何となく感じる。感じるけれど、はっきりとは渡された本には書いてなかったし、私は当事者になるかもしれないのに知らないわけにはいかないんじゃないかな。


 ***************


 夜空の星を眺めながら直ぐに後悔した。聞くんじゃなかった。


「し、紫苑?」

「……深呼吸……させて……くれ」


 私の足元に蹲り、長いこと気を落ち着かせようと深呼吸を繰り返す彼を見ていたら、やはり答えを聞かない方が良い気がする。


「や、やっぱり」

「ローゼリア、お前は知っておかねばなスーハー」


 ユラリと立ち上がった紫苑の覚悟を決めた瞳に、後退する。


「竜の精とは……つまり」


 難なく、手首を掴まえられた。そしてそこに紫苑の唇が近付いて、遠慮がちに舌が辿る。

 柔らかく湿った感触に体を強張らせる私を、彼は少しだけ見て目を反らした。


「……………唾液や血液、つまり竜族の体液のこと。アースレンがなぜ昔戦を吹っ掛けてきたか、表向きは領土拡大と言われているが、実は我々の体液を摂取することで長寿を求めたからだ」

「え?!」


「竜族は人間に易々と体液を渡したりしない。自らの気を許した番や伴侶にならまだしも、金を積まれて人間なんかに渡すほど卑屈な種ではない。また数人束になっても竜族には勝てないから、アースレンは武力で国を侵略してそれを得ようとした」


「そんなことで戦を?」

「そうだ」


 呆然とする私に再び目を向けた彼は、ゆっくりと距離を詰める。


「怪我をした竜の血を一度浴びたぐらいでは、風邪を引きにくくなる程度。本当に不老長寿になるには、長く定期的にそれを摂取し続けなければならない。体液を肌に浴びてもいいし、な、中に取り込んでも………いい。だから竜族の番になった人間は長生きになる」


 灯りの下で、かああっと赤くなる紫苑を見て、私は両手で頬を覆った。


「体液って、唾液や血液や………何でも?」

「ナンデモ」

「ナンデモって、あの、もしかして」

「言うな………察しろ頼む」


 うん、予想………通りだった。

 多分そうじゃないかなと思っていたんだ。アースレンの戦の目的には驚いたし呆れて怒りを覚えたけれど、竜の精に関してはそれほど驚かなかった。なるほど、一般的にストレートな単語は色々不味くて、竜の精なんて神秘的な風を装っていたのか。


「私は、不老長寿は望んでいない。でも……紫苑を狂わせたくない」

「あ、ああ」


 ぎこちない空気を漂わせながらも、私は何とか話した。

 胸元を飾るくすんだ花に触れる。

 大丈夫、私はこのヒトをちゃんと好きだ。


「私、紫苑と一緒にいたい。貴方となら、きっと毎日が楽しそう」

「ローゼ」


 今更迷うことはない。アースレンの王宮から身を投げた時から、もう心は決まっている。番になる決心がつかないって、本当は途方もない時を過ごすことが僅かに怖いだけなんだ。


「私、紫苑が好きよ」


 くしゃりと顔を歪ませる彼に、自分から抱き付いた。


「大切にするから、ローゼ。ゆっくりでいい、お前のペースを尊重するから番うのは急がない」

「うん、分かってる」


 大事に背中を抱いていた紫苑の手が動き、そっと私の瞼を覆った。


「でも………少しだけ、試してみないか」


 囁いた唇が、見えなくても私の唇に重なったのは分かった。


「ん、ふあ?!」


 小さく震えた彼の唇から、私の唇を割って舌が入り込んだ。

 口内を舐められて驚いている内に、すぐにそれは去ると誤魔化すような言葉を乗せていた。


「熱が、出なくなればいいな」


 掠れていて、熱を持っていたのは彼の声の方だった。

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