求婚の竜、決断の番2
体のラインに沿うように誂えた、光沢のある白いシルクが腰まで続き、そこから幾重にも生地が重ねられて裾を引き、腰後ろには大振りなリボンが一つ飾られている。
黒髪は耳下辺りで結われて、小さな銀のティアラと長いベールで装われた。
紫苑との結婚の為採寸済みだったから、それを参考に作られたのだろう。
「綺麗だ」
黒苑様が、私を飽きることなく見つめて満足げに微笑んだ。
まさか自分が、こんな豪華なウェディングドレスを着ることになるとは、少し前の私なら考えもしなかった。
紫苑との婚約破棄を願い出たこともあったが、こんな喜ぶことのない式を挙げるつもりもなかったのに。
手を引かれて大人しく従って行くと、王宮の奥まった所にある一室に着いた。その扉の前には見張りの兵が何人もいて物々しい雰囲気だった。
「ここは?」
「あなたが喜ぶかと思い、連れて来た」
「あ!」
部屋に通されると白霧様と灰苑様がいて、私を見るや灰苑様が駆け寄ってきた。
「ローゼ!」
ぎゅっと抱き付かれて、よく見たら灰苑様の首には竜化を防ぐ首輪が付けられていた。
肩を抱き締め返そうとしたら、彼の襟首を掴んだ黒苑様によって剥がされてしまった。
灰苑様は悲しそうな顔をして、兄を見上げて一歩下がる。
「灰苑様………」
「ローゼ、元気だった?」
「灰苑様こそ、怪我は大丈夫なんですか?あんなに……」
少年の頬に触れようとした手を、傍らから黒苑様に握られ「むやみに他の者に触るな」と命じられる。
「大丈夫だよ。もう平気、だからそんな顔をしないで」
私はどんな顔をしてるのだろう。この子は身を挺して庇ってくれたのに、結局こんな形になってしまった。
「灰苑様、ありがとう。ずっとお礼を言いたかったんです」
「ううん」
力なく笑う灰苑様に、以前のような溌剌とした明るさがない。
見守っていた白霧様が、ゆったりとした足取りで歩いてくると、いきなり私を無言で腕に囲った。
「女同士じゃ、邪魔するでない」
制止しようとする黒苑様を睨み付け、彼女は母親のように頬を摺り寄せる。
「貴女の場合、それが問題だ」
嫌そうに述べる黒苑様を、視界に入れるのも癪に触るのか白霧様は無視すると、少し離れて私を覗き込んだ。
「哀れな……ローゼ、なんと健気なのじゃ。このような腹黒い竜に嫁ぐなど辛かろうに」
「し、白霧様」
その竜の目の前で言っていいのだろうか。
「良いのじゃ、灰苑を取られていたとはいえ、こやつを王になどしてしまったのじゃ。これぐらい言わねば気がすまぬ」
腹立たしげに吐き捨てる彼女にも首輪が付けられていて、黒苑様の意図に気付いた。
「白霧様、貴女に何を言われようが、どんな手を使おうが……例え汚く卑怯な手を使おうが、ローゼと番うことが俺の望みだ」
躊躇いもせずに言い切る彼が、なぜ私を二人に会わせたか。
「灰苑様と白霧様は、私にとっての人質なのですね」
「貴女次第だ」
応える彼は、私をいとおしそうに見つめるばかりで、怒りよりも悲しい気持ちが私の心を占める。そんな彼を白霧様が睨み付けている。
「ローゼ、時間だ」
私の手を再び握り、退出しようとする黒苑様の背中に、白霧様が追い掛けるように一言発した。
「そんな穢れた腕でローゼを抱くな」
「……元より覚悟の上の穢れ。理想を説いても彼女は手に入らない、俺はそれをよく知っている。だからそのように言っても俺は揺らがない」
僅かに目だけを背後にやり、小さく笑った黒苑様は式場へと私を誘った。
大きな広間には、アースレン国王夫妻や各国の代表者が大勢待っていて、私達は彼等の間の花で彩られた小道を歩いた。
皆の注目する中、前まで行くと彼等に向かうように並んで立つ。
すると、遅れて灰苑様と白霧様が見張り付きで入ってきて、後ろの方にひっそりと座るのが見えた。
黒苑様の手が私の手を下から添えて肩の高さまで掲げる。
細かく震える指に、彼が私を気遣わしげに見るので、私は唇だけを上げてみせた。
きっと緊張していると思ったのだろう。微笑み返した彼は、前を見据えて誓いを立てた。
「ここに白銀国国王黒苑は、アースレンのローゼリアを番と認め末永く愛することを誓う」
歓声と拍手が上がった。
白銀国とアースレンの関係が強固になったことを喜んでいるのだ。
向き合った黒苑様が、控える者から指輪を受け取り、私の手に嵌めようとする。
「……えません」
指をぐっと拳にして強く手を引いたら、驚いたのか彼の手から離れることができた。
「私は誓えません!」
勇気を振り絞って、今度ははっきりと告げた。
「このヒトを愛するなんて誓えない!」




