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求婚の竜、決断の番

 

「放して、下さい」


 黒苑様は聞こえないかのように、長い間私を腕に捕らえていた。何度目かの拒絶に、ようやく離れた彼を見て、その不安や喜びの混ざりあった表情に虚を突かれた。


「黒苑様……」

「ローゼ、結婚しよう」


 私の手を捕らえたまま、白銀国の王が膝をついた。


「貴女の為に、ウエディングドレスを仕立てて用意している。きっと似合うと思う。貴女は人間だし、式はここで挙げようかと思うんだ。急だが2日後には行おう」

「2日後?赤明様の喪も明けていないのに」


「喪の期間は、竜族では二週間過ぎていればいい。俺はできるだけ早く行いたい」

「なぜそんなに急いで」


 私の手をしっかりと握り、逃がさないように伝えるだけの言葉は答えを求めていない。


「早く貴女と本当の番になりたい。誰にも付け入る隙を与えないように」


 ヒタリと私を見つめる彼は、紫苑とよく似ている。このヒトを見るたびに私は紫苑を思うが、同時に別人だと思い知らされる。


「………私を愛しているのは本当ですか?」


 黒苑様の瞳は、紫苑と同じ色をしている。でも何かが違う。


「勿論」

「私が番じゃなくても、愛してると断言できますか?あの時、初めて出会った時に、私が番じゃなくても好きになって待っていましたか?」


 ゆっくりと立ち上がった彼は、私の手を引きソファーへと促した。距離を保ちたかった私は、素直にそこに座った。


「全て思い出したのか。先程の俺を卑怯だと言ったのは、それを踏まえての言葉か」

「………………」


 怒らせたかと思ったが、黒苑様は少しだけ首を傾けただけだった。


「幼い貴女を見守っていたのは、兄上だけではない。俺とて、貴女をずっと見てきた」

「……え?」

「気付かなかったか?兄上と同じように変装して、鉢合わせ無いようにしながら、働く貴女を見ていたよ」

「そう、だったのですか……」


 驚いたが、納得もした。二人のヒトが同一人物を装っていたから、記憶の中の紫苑が朧気だったのか。


「ずっと好きだった。最初は番だったからだけど、今は本当に愛している。兄上が貴女を思うよりもずっと」


 不思議だった。こんなにも想いを伝えられても心は静かだった。

 このヒトは、この想いはまるで違うと唯感じた。


「私は」

「今は答えなくていい。これからの長い時俺が気持ちを注げば、いつか心を開いてくれると信じている」


 黒苑様が背凭れに手をつき、私を挟むようにして見下ろす。


「…………いいですよ」


 私は視線を受け止めて少しだけ笑った、自嘲気味に。


「貴方と結婚しても」

「ローゼ」

「貴方は私が何て言おうが、自分の思い通りにするのでしょう?」


 答えなんか期待せずに言い、避けるように横を向いたら頬にキスをされた。


「………ローゼ、大切にする。それから……」


 私から離れて部屋の扉を開けた彼が、控えていた竜族と人間の侍従に命じた。


「2日後、白銀国国王と番の婚姻を執り行うことを、白銀国及びアースレン国中に今すぐ伝えよ」

「はっ、既に準備は整っております」


「……何を」


 目を細める彼の横顔を見て、不安が募った。


「番を求めて、さ迷う竜を一匹おびき寄せる。貴女が未練を残さないように、俺も……憂いを断ち切る」


 背を向けたまま黒苑様が告げたことに、ドキリと心臓が跳ねた。


「こ、黒苑様」


 来るはずがない、そう言いたいのに否定ができない。

 怖い。

 彼の傷付く顔を見るのが、とても怖かった。



 **********************


 それは2日後の式の最中だった。

 アースレン王宮の正門に、竜族の青年がいた。


 急いで来たのか荒い息をしながらも、阻止しようとした門兵を長槍で打ち倒すと、閉ざされた門へと槍先をぶっ刺した。


「返せ!」


 怒りに任せて、門を何度も突きながら彼は叫んだ。


「返せ!返せ!!俺の番をっ、返せぇ!!」



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