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導く竜4

 

 ガタンと強い揺れに、私は目を覚ました。


「ん!んん?」


 口に、いわゆる猿轡を噛まされ、手は後ろ手に縛られて長椅子に転がされているらしい。顔を捻って辺りを見回すと、どうやら馬車の中だと分かった。


 小窓は閉められていて、馬車の扉部分は厚いカーテンが引かれていて、薄暗くて昼か夜かは分からない。


 床からの振動を感じながら、途方に暮れる。


 どうしよう、私拐われたんだ。もっと警戒するべきだったのに、彼とデート気分で浮かれてたのかもしれない。


 私を拐う目的なんて、考えなくても分かる。

 だからそこは重要じゃない。


 今凄く凄く心配なのは、紫苑のことだ。

 まあ1割ぐらいの心配は、受け取れなかったブーケだったり、置き去りにした新品の下着のことだが、それよりも彼が私をどんな気持ちで捜しているかと思うと辛い。


 私が意識を失っている間、どれくらいの時間が経ったのかは分からないが、彼はちゃんと食事をしただろうか?眠っているだろうか?


 ローゼリアの花を幸せそうに見つめていた彼の顔が、私のせいで苦しみに変わるのは見たくない。


 あの時、雨が降っていなければ、私が離れなければ、彼が花の香りに囲まれていなければ状況は違っただろう。

 思えば白銀国の王宮にいた頃、私は彼から逃げて、花の咲く中庭の奥にいた。私の匂いを辿れない彼は、どんなに不安だっただろう。


 なんとか抜け出せないだろうか。

 縛られた手を動かしていたら、馬車が止まった。扉が開けられると、明るい日射しが眩しい。


 外から女性が一人乗り込んできた。私が目を開けているのを、彼女が外にいる誰かに報告すると、「10分休憩したら再び移動を開始する」と男の声が返ってきた。


 数人の男達が戸口を塞ぐように立って、私を見張っている。その服装や髪や目の色から竜族ではないのが分かる。


「あなた達は誰?」


 拐ったのは、てっきり竜族だと思っていた。女性に猿轡を外されて問うが、彼らは答えない。ただ、好奇心を含んだ視線を私に向けるだけだ。

 叫んで助けを呼ぶことは、複数の人に囲まれている状況では得策ではない気がする。



「食べて下さい。あなたは2日眠っていました。お腹が空いているはずです」


 丁寧な口調で言うと、女性がパンをちぎって私の口に半ば強引に押し込む。吐き出そうかと思ったが毒入りでは無さそうだし、空腹で動けなかったら逃げる時困る。


 寝転んだままなので、噎せないように慎重に噛んで呑み込む。


 2日か……馬車でずっと走っていたなら私が拐われたゴーラから大分離れてしまっている。


「へえ、喚いたり暴れると思ったが、大人しいな」

「竜族の番になる娘だ。一味違うってもんだろ」


 戸口で若い男が二人話している。やはり私のことを知って拐ったんだ。

 女性は男達を意に介せず、淡々と食事を手伝う。


「強力な眠り薬でしたから、なかなか起きないので心配しました」

「心配?」


 つまり私の命を取る気は無いということか。


 焦げ茶の髪をした30代ぐらいの彼女を、どこかで見たような気がする。


「どこへ行くの?白銀国に連れて行く気?」

「答えるなよ」


 戸口でこちらを見ていた男が、低い声で女性を制すると、彼女は分かっているという風に頷いた。

 それから彼女は無言で私にパンと水を与えた。

 そして猿轡を元のように噛ませ、僅かな休憩の後、扉が閉められた。


「行くぞ、あの竜が探している。見つからないように急ぐ」

「ああ、しつこく旋回してたからな」


 外から、男達の話し声がする。物音からすると、馬車の周りを馬が囲んでいるようだ。私一人に5、6人の人間が付いているのか。


 ………紫苑、やっぱり捜してる。


 番を失った竜は狂うという。私は死んだわけではないが、彼はきっと苦しむ。


 隙を見て逃げ出せたらいいけれど、これからどうなるか分からない。

 私がいなければ、紫苑に危害が及ぶ可能性は少なくなるだろう。そのことだけは有難い。

 だから……追って来ないで欲しい。


 苦しんでも、傷付く彼を見るよりはマシだ。


 馬車は10日間走り続けた。

 私はアースレンの首都ソリュシアに辿り着いた。










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