導く竜3
食事を終えた私達は、アーケードのある商店街を歩いていた。
「紫苑、本当に巣籠もりする気なの?」
「自由を奪う気はないが、冬は籠る。俺が動けなくなるから、お前を守るためにもその方が良い」
寒い時期は、確かに人間だって外に出たくないけれど、たまには外に出ないと干からびちゃいそうだ。
こういう感覚のズレが、このヒトが竜族だと思い知らされる。
「嫌か?」
「嫌というか……ずっと籠ってたら退屈しちゃうかなって。紫苑は平気なの?」
「半分冬眠状態だからな」
「私、人間だからね」
「退屈はさせない」
チラッと私を見て、直ぐに目を反らした紫苑が小声になった。
「番と巣籠もりするんだ退屈なわけない」
「ん?」
「………その間、存分に睦みボソボソ……俺の、せ…ボソボソ与えて、ローゼが熱を出さないようにすれば……」
うん、言いたいことは分かったよ。
「………何考えてるの?」
「は!べ、別に、やましいことなんて考えてない!」
赤い顔で、あさっての方向を向く彼に、複雑な気持ちを抱く。
キスもままならないのに。番ったら心臓がもたないみたいなこと言ってなかったっけ。
それに、本当にこれでいいのかという疑問が私の中に常にある。だから紫苑の想いを嬉しいと思う反面、申し訳ないと思ってしまう。
彼は、国も城も地位も身分も名誉も誇りも信頼も失ったのに。それでも私を選んで幸せといえるのだろうか。
アーケードの屋根を、ひっきりなしに水滴が叩いている。
しばらく止みそうにない。
「雨は好きじゃない」
紫苑が香水の店に目をやって言った。話を逸らしたのかな。
「気温は下がるし、大地に水気の匂いが染み込んで土や水の匂いが全ての匂いを打ち消す。そうでなくとも俺は竜族にしては匂いを嗅ぎ取る力が弱い。だからローゼ、傍を離れるな」
「うーん、このお店にも一緒に入るの?」
「は?うわ」
女性下着専門店の戸を開けながら振り向くと、紫苑はさすがにたじろいだ。ショーウインドには、マネキンがセクシーな下着姿でアピール中だ。
「ま、待て、今必要か?」
「うん、女の子は色々と物入りなの。下着は可愛いのがいいからね。何色にしようかな」
「………むらさ…くろ…いや待てちょっと待て」
「何を?」
店を見ないように、地面や向かい側の花屋に視線をさ迷わせる紫苑。
「ええっと……」
「ねえ紫苑、少しだけこの辺りで待っててくれるかな?すぐに戻るから」
「…………ぐ」
「それとも」
「分かった」
動揺しながら、彼はくるりと背を向けた。
「何かあったら呼べよ」
「うん」
恥ずかしそうな彼に、笑いを隠して戸を開けた。
店内に入ると、ラブリーな下着がハンガーに掛けてあったり、宝石箱のような大きな箱に色によって分けて並べられている。
私は、あらかじめ決めていた水色と黄緑それに桜色の下着のセットを買った。目移りすることは、あまりない。即断即決だ、物に関しては。
カラフルなキャンディー柄の紙袋に入れてもらい、それをまた手提げ袋に詰める。
ちなみに大きな荷物は紫苑持ちだ。
袋を提げて店を出ると、意外にも彼は店前にはいなかった。
「しえ……」
だが直ぐに、彼が向かいの花屋で会計をしているのが、店のガラス越しに見えた。
花屋なんかで、何を買っているのだろう。
不思議に思って立ち止まって、こっそり見ていたら、彼が小さなブーケを店員から受け取った。
3輪ほどの同じ花が、可愛らしくブーケに仕上げられていて、私はその花が何であるかに気付いて泣きたくなった。
目を細め受け取ったブーケの花の香りを嗅ぐ紫苑は、キザっぽいけど、とても幸せそうに微笑んでいた。
澄み渡る空の青さのような色で、薔薇によく似た花弁のあの花は、ローゼリア。
彼は知っているんだ。私の名が、薔薇より目立たず、野にひっそりと稀にしか咲かない花だと。
「…………紫苑」
私に贈ってくれるのだと分かり、胸の奥から温かさが広がる。彼しか視界に入らなくて、彼の元へと駆け寄ろうとした。
もうダメだ。紫苑がやっぱり愛しい。
駆け寄って、抱き締めて……
そう思ったのに。
「ん?!ん………」
背後から、私の鼻と口に布が押し当てられて、同時に体が持ち上げられて目立たない暗がりに運ばれる。
驚く前に、一呼吸した瞬間、私は無理やり眠りへと誘われてしまった。




