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心を乞う竜3

 

 少女にポカポカと叩かれながら、青年はキョトンとしていたが、直ぐに自分の勢いまかせの言葉にミスがあったことに思い至った。


「は、違う違う、結婚はお前が大人になってからでいい!だから」

「へんたい!ろり!」

「よく知ってるな、そんな言葉、あ、待て」


 必死で腕から逃げようと暴れるローゼを、青年は慌てて捕まえる。


「うわあん、怖いよお!お母さん!」

「だ、大丈夫だから、何もしないから」

「へんたいこわいい!」


 青年に蔑みの目を向けていた彼女だったが、彼の肩越しに一人別の青年がこちらにやって来るのを見付けた。


「助けてえ、お兄ちゃん!さらわれるう!」

「だから違うと言ってる!あ、黒苑」


 黒苑と呼ばれた黒髪の青年は、傍に近付くと少女をじっと見つめて立ち竦んだ。


「あ……兄上、その子は?」


「俺の番だ、あ!?噛んだ!」


 青年の腕に噛み付いて、ローゼは黒髪の青年に飛び付いた。


「助けて、あの人こわい!へんたいなの!あ、あれ同じ顔?」


 ローゼを受け止めた青年は、彼女を抱き上げて兄を疑いの目で見た。


「兄上……本当にこの子が貴方の番なのか?こんな幼い娘に何をしようと」

「いいからローゼを離せ!ほ、ほら怖くないから……こっちにおいで。お菓子があるぞ」

「やだあ!嫌い!こっちのお兄ちゃんの方がいいもん!」


 黒苑の首にしがみつくローゼにショックを受けて、青年は地面に両手をついて項垂れた。


「……………とにかく報告だ、兄上。町の火は言われた通り、あらかた消した。民の救出は完了したし、負傷者は応急手当てをしている。死者数は、まだ分からないが数十人いるだろう」


「……自国の民を犠牲にするなど、アースレンは末期だな。あのバ……白霧がいたら火など雨で直ぐに消せたのに」

「そう言うな、兄上。あの方は産後の身だ。俺達の弟か妹が孵る卵を守っているのだから無理はできない。よしよし泣くな娘、名は何と言う?」


「ローゼリアだ!早く降ろせよ!」


 苛立つ兄に、黒苑はムッとした顔で彼女を降ろした。


「もうアースレンの戦力は底を尽きかけている。軍の統率は、見ての通り乱れているし、大砲等の武器は、手こずったが粗方破壊した。国王一族は王都を捨てて逃亡した。王都を制圧してアースレンを完全に占領下に置くのが父上達の意向だ。直ぐにでも向かうか?」


 弟の問いに、銀髪の青年は首を振った。

 黒苑の背中に引っ付き、自分を窺う少女を彼は見ていた。


「戦はもう終わりだ。これからすぐに父上と話して和睦に持ち込む」

「何?どうしたんだ、あと一歩でこちらの勝利だというのに?」

「これ以上ローゼに泣いて欲しくない」

「は?」


 青年は少女に近付くと、そっと頬に手を伸ばした。


「辛い思いをさせて悪かった。もう戦はしないし、させないと約束しよう」

「ほんとに?」

「ああ」


 頬に触れた手に、少女が警戒して後ろへ逃げようとするので、彼の指は、彼女の黒髪に触れるだけに留めた。


「だから俺と一緒に来……おいで」


 髪を掬っていた指を少女に差し出す。けれど、その指に彼女が手を重ねることはなかった。


「嫌、お母さんをあのままにはできない」


 家のある方角を指差したローゼは、また涙を溢した。


「そうだな、手厚く葬ろう。それから」

「嫌だ、行かない。私がいなくなったら、お家空っぽになっちゃう」


 家を離れれば、大事な家族の思い出まで無くなるようで、少女には辛かった。


「しかし一人では生きていけまい。お前はまだ幼い」

「やだ、ここが良いの!知らないとこなんて行きたくないの!」


 ひっくひっくと再び泣き出す彼女の頭を、黒苑は撫でてやった。


「兄上、俺に任せろ。ローゼがここで暮らせるよう俺が手筈を整えてやる」

「待て待て」


 途方に暮れた青年は、しばし黙って考えていたようだったが、少女の目元の涙を掬うと口を開いた。


「………お前が大人になるまでだ。確かアースレンでは成人は18の年。それまでは、ここで暮らしたらいい。我慢する。だが大人になったら、絶対に……よ、嫁に来い」


 泣いている彼女が、ちゃんと聞いているのかは分からない。

 怖がらせないように今度は優しく抱き寄せた。


「ローゼリア、会いに行くから。番の危機には必ず飛んで行くし、邪魔な奴がいれば排除する。だから早く大人になれ」


 *********************


「本当に大変だった。お前が人気の食堂で働くものだから、お前に気がある男がうじゃうじゃと湧いて、俺は一人一人排除するのに苦労したものだ、全く」


 私の膝に顔を擦り寄せたまま、紫苑は懐かしそうに話した。


「え、何それ。私に彼氏ができなかったのは……」

「脅して脅して脅しまくったものだ」


 ふっ、と黒い笑みを浮かべた彼を、呆れて見つめるしかなかった。














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