心を乞う竜4
町の外れの墓地で、ローゼは埋葬される母親を見届けた。
男達が犠牲になった人々を、あらかじめ掘った穴へと並べて土をかけていく。布にくるまれた彼女の母親に土が掛けられる番となり、ローゼは目を反らさずにそれを見ていた。
「お母さん」
土の上に、ささやかな花束を置いた彼女は、長い時間その場に立っていた。もう涙は乾いていた。
そこかしこから微かに上がる煙が、青空に灰色を溶け込ます。
酷く孤独だった。淋しくて悲しくて怒りで一杯の心に、あの銀髪の青年の言葉が浸透することはなかった。
母親の遺体を目にし、その死を認めると、興奮状態から一変、虚無感に押し潰される。
幼い少女の心には、母親を失った衝撃が強すぎて何も受け入れる余地は無かった。
ぼんやりと地面を見つめる少女の、か細い背中を辛抱強く見守っていた黒苑は、後ろから彼女の肩に手を回して抱き寄せた。
「ローゼリア、貴女をやっと見つけたと思ったのに……兄上までも……」
悔しそうな声音を隠すことを止め、黒苑は膝を付いて、彼女の顔を自分に向けさせた。
「あの男の言葉は偽りだよ」
一言一言少女に教え込ませるように、同じような顔をした青年が、彼を否定する。
「信じてはいけないよ。信じれば傷付くのは自分なのだから。貴女を愛せるのは俺だけ。誰かが貴女に愛を囁くなら、疑って否定して、それは違うから。間違って誰かを好きになってはいけないよ、辛い目に合うから。ご覧……貴女の両親のようになってしまうよ」
「信じては、だめ……?」
「そう、ローゼは俺を見たらいい」
「みる?」
「そう、俺だけを」
彼女の頬にキスをして、彼は微笑んだ。
「今は情勢も落ち着かないし、貴女はまだ幼い。でも時が来れば、きっと貴女を救ってあげる」
虚ろな目で見上げる少女を、黒苑はうっとりと見つめて呟いた。
「ああ……貴女はまるで人形のようだ」
その直後、戦は終結し、自分で生活できるようになったら自宅に帰るという約束の元、ローゼは一旦孤児院へと預けられた。
銀髪の青年が再び姿を現したのは、最初に会ってから3ヶ月後のことだった。
彼女が庭で花を摘んでいたら、満面の笑みで駆けて来る青年がいた。
「ローゼ!俺の番!」
ひしっと少女を抱き締め、彼は泣きそうな声を出した。
「会いたかった!早く来たかったのに、アースレンとの戦後の交渉に時間が掛かってしまった。ローゼ、元気だったか?」
成長ぶりを確かめるように、彼女の頬やら肩に触れていた紫苑だったが、ローゼが彼を見たまま無言なのに、ようやく気付いた。
「どうした、ローゼ?」
「お兄ちゃん、誰?」
「え?俺だ」
「知らない」
「ほ、ほら、俺だ、変態とか言ってただろ?」
「知らない」
春風に少女の髪がふわりとそよぐ。
紫を映す彼女の瞳は透明に澄んでいて、怪訝な表情をしていた紫苑は、やがて唇を噛み締めて目を伏せた。
「……………そうか。辛かったものな」
そっと少女の手を取って、彼は淋しそうに笑った。
「いいさ、いずれは俺と共に生きてくれるんだ。お前を迎えるその時まで、俺がお前を知っていればいい。だから代わりに……」
頭を垂れた紫苑は、ローゼの手の甲に唇を押し当てた。
「いつか……ずっと先でもいいから、俺にお前の心をくれないか?」




