天下る竜6
「どうして私が熱を出しやすいと知っているの?」
「…………………」
彼の銀髪を見ながら問うが、背負われているので表情までは窺い知ることはできない。
「ねえ、私が貴方に会ったのって、白銀国で靴にキスの時が初めてだったのよね?」
そういえば、なぜ紫苑の番だと判明したんだっけ?
あれは本当に唐突だった。私が、成人として認められる18の誕生日を迎えた翌日、アースレン国王名義で遣いがやって来て告げたのだ。
「ローゼリア、貴女は白銀国の第一王子の番であると彼の国より使者が伝えに来ている。我々と共に今すぐ参られよ」と。
よく考えたら不可解だ。距離があるのに、なぜ気付いたのか?
「ねえ紫苑、貴方は私をいつから知って」
「知っているさ、ずっと前から」
「それって…」
「ほら着いたぞ。ツィタだ」
顔を上げると、森を抜けていて家が立ち並んでいた。遠くには港があって海が見えている。白い漁船やカラフルな遊覧船、大型の客船がひしめく光景に、帰って来たという気持ちが湧く。
「腹が減ったな、食事にしよう」
「………………」
どうやら上手く話を逸らされた気がする、というか着くの早くない?このぐらいの距離だったなら歩けたのに。
腹いせに、後ろから彼の頬を両手で押さえてみる。
「んむ!?」
「降ろして」
もう町中まで来てしまった。こちらを見る通行人の方々がおぶわれる私を好奇の目で見ていたが、急に笑いを堪えている。
こちらから見えないのが残念だが、頬を押さえられた紫苑の変顔が影響しているのは確実だ。
「恥ずかしいから降ろしてよ」
「ワグァッタ」
背中から降りたら、フラフラと平衡感覚が保てなくて彼の肩を掴んで、片手で目元を押さえた。
これはまずい。
「大丈夫か?!」
「………平気」
驚いた紫苑が支えようと伸ばした手から一歩下がる。
このままでは迷惑を掛けてしまう。
幸いここは私の故郷に近いし、紫苑のような銀髪の人も少なからずいるから彼だけなら町に溶け込むこともできるだろう。
黒苑様が私だけを狙っているなら、紫苑は一人の方がいい。
「ローゼ!」
私の頬に迷いなく触れた彼は、焦った顔で熱を確かめてくれている。
「……熱い」
熱を吸収しようとでも思っているのか、私の頬から首に触れて彼が辺りを見回す。
「どこか休める場所に……」
「紫苑、聞いて」
「何だ?それより」
再び私を抱えようとする手を私が両手で握ると、ようやく私の目に目を合わせた。
「紫苑、ここまで私を助けてくれてありがとう。第一印象は最悪だったけど、私の為に怪我をしたり、仲間だったヒト達や兄弟から守ってくれて、ここまで連れて来てくれた。今は本当に感謝してるし、たくさん迷惑を掛けてしまってごめんなさい」
「どうしたローゼ、待て」
不安な顔で私を見つめる彼に、私は諭すように続けた。
「これ以上は、私は貴方の足手まといになりかねない。だからここで別れたほうがいい」
「は、あ?!ああ?!」
信じられないといった感じで頭を抱えた紫苑だったが、直ぐにこちらを睨むように言った。
「そうか、そっちがその気なら………何言ってる、俺は別にお前を心配したりとか守りたくて傍にいるんじゃないから、お前が気を負うことはない。変に気を使うな」
「でも」
「余計なお世話だ。俺は自分の意思に従っているだけだ」
私が歩き出すと、彼も隣を歩く。
白い壁に濃い青の屋根の家が多くて、のどかな港町といった風情だ。
潮の香りが微かにして、船の出発の笛の音が間延びして聴こえる。
「………私、今まで一人で生きてきたの。だから大丈夫。勿論黒苑様には捕まらないから」
頭痛を堪えて元気そうに笑うと、紫苑が痛そうな顔をする。
「ローゼ、だから……!」
「私はこれからも一人で生きていけるから。元の生活に戻るだけだし、さあ、もう行って」
言いながら、右に見える家と家の間の狭い路地を、そっと見る。
坂道が多くて複雑な道が入り組んだツィタの町は、山を削って作られた町だ。初めて訪れた人は必ず迷うほどで、身を隠すには良い場所だ。
もしかしたら紫苑もそのことを知っていて、ここに来たのだろうか。
「…………ざけんな、こんな苦しそうにして何言ってんだ」
俯いて足元を見ながら、紫苑が開き直ったように呟く。
「仕方ないから一緒にいてやる」
「無理しなくていいから。私は一人で生き抜けるから」
今だ。
「……ふ、ふん、強がりを抜かすな」
まだ俯いている紫苑を背後に、するりと路地に入り込む。そのまま蟹歩きで奥へと進んでいたら声が聴こえた。
「うああいない!」
この路地は、かなり狭いから、気付いたとしても男性の体格では追っては来れない。
それに薄暗いから、奥へ行けば私がいるか見えないだろう。
「俺の番!お前がいないと俺は、俺はあああ!」
声だけ、めっちゃ聴こえてます。
それにしても、苦しい。
直ぐに息が上がってしまい、頭も胸の奥も痛いし、泣きたいぐらいだった。
やっと路地の終点に辿り着いたら、目の前は船着き場だった。
大きな船が停まっていて、人々が乗り込む最中だった。
「あ……あれに、乗れば」
遠くへ行ける。
踏み出そうとしても、体が上手く言うことをきかない。視界が回って倒れると思った時には、目の前が真っ暗になっていた。
ようやく、あらすじ回収!




