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天下る竜5

 

「……っ」


 軽い頭痛がして目を覚ました。身体の節々がだるくて痛む。


 ああ、そうか。私ずっと竜の背に乗って……


「お、起きたか?気分はどうだ?」

「ふあっ!?」


 耳元で低く声がして、意識が完全にクリアになる。まだ竜は移動中で、目立たないように飛行を止めて、今は森の中を歩いているようだった。陽は既に高く、夜が明けて時間が経っているのか。


「………はあ、姿勢が保てるか?俺の、限界が近いっ」

「あ、きゃあ!」


 私は、後ろにいる紫苑に凭れかかって眠っていたらしい。彼の上着が毛布代わりに掛けられていて、両手が私の肩と腰を固定している。


「ごめんなさい!ずっと支えてくれてたの?大変だったよね」


 飛び起きて、前屈みになって彼から離れると、紫苑は荒く息をついて自分の両手を見ている。


「……はあはあ、もう理性が擦りきれ……すごい、ローゼの体の感触が手に残って……」

「な、なに?」

「………別に……気を静めろ俺、番の引力に負けるな俺……」


 紫苑はたまに、黒苑様とは違う怖さを感じる。

 私の視線に気付いた彼は、赤い顔をして目を反らし両手を下ろした。


「……体の具合は悪くないか、ローゼ?」

「え?」


 急に聞かれて目を瞬いたら、横を向いたままの彼は不安そうだった。


「体温が高めだし、身体を動かすのがしんどそうだ。疲れているのか」

「そんなこと……大丈夫。平気よ」


 本当は頭痛もするし辛いが、この状況では言ったら困るだろう。この感じは幼い時から覚えがある。多分後で熱が出るパターンだから、気を付けないと。


 笑って否定したら、紫苑が眉根を寄せた。

 竜の顔の方に少し身を乗り出して、軽くその腹を手で叩くと、彼は指示を出した。


「竜よ、この辺りで降ろしてくれ。後は二人で行く」


 直ぐに聞き届けた竜が、立ち止まると脚を折り畳み香箱座りになった。

 私は抱えられて、竜の背から草地に降ろしてもらった。


「竜よ、礼を言う。ここまでご苦労だった。白霧にも礼を伝えておいてくれ」


 名を聞き忘れた紫苑が礼を言うと、竜が小さく応えて鳴いた。


「ありがとうございました。気を付けて」


 私もお辞儀をすると、頷いた竜はくるりと向きを変えて元来た道を戻って行った。


「………………………」

「………………………」


 遂に二人きりになってしまった。微妙な緊張感が漂う。


「こ、これからアースレンのどこら辺に、え?」


 おもむろに私の前で背を向けて座る紫苑に驚いていると、両手を後ろ手にした彼が、私に顔だけ振り向く。


「俺におぶされ」

「ええ!」

「ここからツィタの町まで出るのに、まだ少し歩く。疲れているお前が歩くよりも、この方が早く辿り着ける」

「ツィタへ行くの?」


 ツィタの町は、私の家のあるシリルの町に近い。


「家が気になるか?」

「ううん、いいの」


 当然私の家は、追っ手が見張っているだろう。


 紫苑は、そんな私を黙ってみていたが、痺れを切らしたのか立ち上がると素早く私を横抱きにした。


「きゃあ!ま、待って!」

「早くお前を休ませたいだけだ。はあ、さ、触りたいとか抱っこしてえとか、そんな他意は無い」

「ならおんぶがいい!まだおんぶの方がいい!」


 私がジタバタ暴れると、紫苑はしぶしぶといった風に私を軽々とおんぶした。

 視界が高くなり、おずおずと彼の首に掴まる。


 紫苑は片手に鞄を持ったまま、私を支えて大股で森を歩き出した。


「道、分かるの?」

「何度も来たことがある。この前も来たから覚えている」

「そうなの」


 王子様だから、緊急時以外は城にいるのかと思っていた。


「何しにここまで?」

「………色々とな」


 他国にわざわざやって来るなんて、知られたくないのだろうか。遠慮した私は話題を変えることにした。


「私、重くない?」


 白銀国に来てからは、上げ膳据え膳食っちゃ寝だった。

 いくら今までの私が胸あるくせに痩せすぎと言われていたとしても、さすがに他の部分にも肉は付いてるだろう。


「軽い。もう少しむっちりしていてもいい。その方が俺も………」

「何か言い掛けたよね?」

「別に……ああ、ローゼの全体重を受け止めているなんて……何てことだ」

「失礼ね!やっぱり歩くから降ろしてよ!」

「な、違っ、ダメだ」

「何でよ?」


 降りようともがく私を御しながら、紫苑は頑なだった。


「そうやって疲れているのに無理をするから、いつも最後に熱を出すんだ!その度に、俺がどんな思いでいるか……あ!」

「……え?」


 何て言った?私は、彼と会ってから熱を出したことはない。


「……………あ、う」

「え?」










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