第7話 勇者、姉と最後の休日を過ごす
翌日の朝食後、姉さんたちと待ち合わせて城下町へ出かけた。
俺と姉さんが並び、レオンは後ろを歩いている。今日は護衛に徹するようだ。姉さんとは明日からしばらく会えなくなるから、気を遣ってくれているのかもしれない。
「勇者様~!」
街の人たちが声をかけてくれる。こちらも手を振り返す。
「明日から討伐だろ? これ、持っていってくれ!」
果物の差し入れをもらったので、姉さんに半分あげた。
「ありがと。人気者ね」
「あったり前だろ。俺、勇者だぜ?」
そう言って胸を張ると、姉さんは笑っていた。
だが、直後に不安そうな顔をする。
「どうした?」
「……ううん。ちょっと思い出しただけ」
何を思い出したんだろう?
それは、食事のために入った店で知ることになる。
「言ってなかったんだけど……あの山の麓まで行ったことあるの」
「えっ、いつ!?」
「こっちに来てすぐ」
「マジかよ……」
俺が行く場所を自分の目で見ておきたかったと言う。
そんなに早くから心配してくれていたんだ、と思うと胸が熱くなった。
そして、まだごく薄い瘴気で体調を崩し、レオンに浄化してもらったらしい。
浄化魔法を使えるものは少ないと聞いた。王都に戻るまで治療できなかったら、命も危なかったかもしれない。
(護衛がレオンでよかった)
心の底からそう思った。
「だから……ちょっと心配で」
姉さんが言う。俺もそうなるんじゃないかと心配してくれているんだ……。
「結界張れば平気なんですよね?」
レオンに向かって明るく言った。
「ああ。我々も濃い瘴気を受ければ不調をきたすから、常に張っておく。だが、ケントも同じ体質なら油断はするな」
「了解ッス」
わかっている。決して甘い旅ではないということぐらい。それでも、行くしかないんだ。でも、もしも俺が……。
「レオンさん」
姉さんは嫌がるかもしれないけど、言っておかなければならない。
「俺に万が一のことがあっても……」
「……」
「姉さんがちゃんと日本に帰れるようにしてくれますよね?」
「……ああ」
レオンは、一瞬間を置いたあと、はっきりと答えた。
「約束する」
「ねえ、やめてよ、そういうの」
やっぱり姉さんに咎められた。
「縁起でもないこと言わないで」
「だから万が一だって」
つい、視線を逸らしてしまった。
「ちゃんと帰ってくるからさ」
笑って見せたけれど、うまく笑えただろうか。
もちろん、ちゃんと帰って来るつもりではいる。
だが、どんなに過酷な遠征になるのか、誰にもわからない。
『万が一』なんて口にするのも怖かったけど、姉さんだけは絶対に日本に帰さなきゃいけない。
食後、店を出たところで姉さんに言った。
「巻き込んじゃって、悪かったな」
「何よ、急に」
「でもさ、一緒に来てくれて、どれだけ心強かったかわからないよ」
それが本音だ。
「一人だったら、たぶんめちゃくちゃ怖かった」
もう、強がりを言っても仕方ない。姉さんに申し訳ないと思うと同時に、感謝していることを知っておいてほしかった。
「私もよ。一人で心配してるより、ずっとよかった」
うん、姉さんなら、きっとそう言ってくれると思ってた。
「レオンさん」
頭を下げる。
「俺がいない間、姉さんのことお願いします」
「ケント、頭を上げてくれ」
レオンがまっすぐな視線を向けてきた。
「昨夜、誓いを立てただろう。命に代えても守る」
その言葉に嘘がないとわかる。
「……そっか。じゃあ安心だ」
ふと、レオンが護衛に選ばれた理由を思い出した。
「今思えばさ、国で一番強い人を姉さんの護衛にしろって言った俺、ファインプレーじゃね?」
過去の自分を褒めちぎってやりたい。
護衛がレオンじゃなかったら、瘴気に侵された姉さんはもっと危険に晒された。
護衛がレオンじゃなかったら、ここまで真剣に姉さんを守ろうとしてくれなかったかもしれない。
きっと、最善だったんだ。この人が護衛になったことは……。
「最初は迷惑そうだったけどね」
「……ああ」
レオンがわずかに目を逸らした。
最初はそうだったんだろうと思う。
オーブリーが言っていた。
魔法に長けて、魔力量も多いレオンは、姉さんの護衛にならなかったら間違いなく遠征に参加していたと。そして、本人もそれを希望していたらしい。それなのに、なぜ異世界の女の護衛なんか……と思ったに違いない。
だが、今はきっとそんなことは思っていないはずだ。他の騎士に代わってもらって休むことすら拒否するぐらいだからな。
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「そうだ、今日はこれを持ってきたの」
姉さんがスマホを取り出した。こっちではずっと使っていなかったから久しぶりに見た。
「なんだそれ」
不思議そうに見るレオンに説明もそこそこに、三人で並び、シャッターを切った。
「はい、撮れた」
「なんだこれは……」
レオンが目を見開く。
画面の中には、笑っている三人がいた。
家族や友人との自撮り。日本にいればごく普通のことが、この国では特別なことに思えた。
姉さんが保存してあった写真をレオンに見せる。
日本の町並み。スカイツリーからの風景。友人とのスナップ。なかでも……。
レオンは姉さんやその友人のビキニの写真に目を丸くしていた。
この国の騎士には刺激が強すぎたらしい。
「俺のスマホでも撮りたいな。オーブリーさんも呼んで」
そう言って宿舎に戻り、四人で記念撮影をした。
わいわいと楽しく……。
「魔獣王の写真も撮れたらいいな」
何気なく言った言葉に、
「どうだろうな」
オーブリーが短く答えただけで、誰も先を続けなかった。
冗談で言ったのに、誰も笑わなかった。




