第5話 勇者、晩餐会で姉の護衛の本気を見る
気づいたら、こっちに来てから二ヶ月近くたっていた。
剣術もだいぶ上達したし、筋肉がついてきたのもわかる。
レオとはすっかり仲良しだ。
「ケント、討伐の出発が十日後と決まったぞ」
「十日後か……」
思ったより近い。
ちゃんと戻ってこられるんだろうか。
「俺、トドメ役無事にできると思います?」
「ああ、問題ない。よくがんばったな!」
「よかった」
「出発の前々日に壮行会と晩餐会があるぞ」
「そうなんスね」
「ケントは簡単な挨拶を求められるだろうな」
「えっ!」
「いってきまーす! って言っときゃ大丈夫だ」
「それくらいなら……。そうだ、討伐中も生活費や手当って出るんですよね?」
「ああ、もちろん」
「それ、姉さんに渡してもらうようにできますか?」
「預けておくのか?」
「預けるっていうか、俺は使い道ないから姉さんに使ってもらおうと思って……」
「そうか、サーヤは晩餐会のドレスなんかもいるだろうし、助かるかもな」
「ですよね」
晩餐会のドレスか……。やっぱり女性は大変だな。
少しは役に立てそうでよかった。
◇◇◇◇◇
壮行会の日が来た。普段の騎士服より豪華な正装が用意されていた。それに銀色のマントを羽織る。
「ケント、似合ってるぞ!」
「オーブリーさんも、男前に拍車がかかってますよ!」
男同士で褒め合う。少し、虚しい……。
式典が始まると、まずはお偉いさんの挨拶だ。
その後に勇者として俺が紹介された。
何か一言と言われたので、
「がんばって討伐してきます!」
本当に一言だけ宣言した。それでも、拍手は大きかった。
式典が終わると立食形式の晩餐会が始まった。
姉さんを探すと、薄いベージュのドレスを着ていた。周りは皆ふんわりしたスカートのドレスの中、タイトなシルエットが目立っている。
近づくと、同じような色の糸で刺繍がされているのがわかった。さりげなく上品だ。
「姉さん、綺麗だ。馬子にも衣装だね!」
そう言ったら、それは褒め言葉じゃないと怒られてしまった。
でも、綺麗だと思っていることは伝わったようだから、いい。
いつの間にか、周りに令嬢たちが集まってきた。貴族の令嬢なんて、どう扱っていいのかわからないから困る。
姉さんに目を向けると、微笑ましそうな顔でこちらを見ていた。
レオンにもときどき令嬢が寄ってくるが、冷たくあしらっているようだ。護衛の任務中なのだから当然だ。
気がつくと、姉さんがいなくなっていた。オーブリーに聞くと、レオンとテラスに行ったらしい。
姉さんにもやたらと注目が集まっていたので、レオンが連れ出したのかもしれない。
俺に対する注目と違って値踏みするような感じで、あまり気分がよくなかったから。
レオンに大切にされていることが気に食わない連中もいるのだろう。
しばらくすると、気位の高そうな令嬢がやってきて言った。
「勇者様。お姉様とレオン様がテラスで不埒なことをなさっていますわよ。お止めになったほうがよろしいのでは?」
何を言ってるんだ、この人は……。オーブリーを見ると、肩をすくめている。
ちょっと、おかしい子なんだろうか?
「アデリーナ嬢と言ってな、レオンにぞっこんなんだ」
オーブリーが小声で教えてくれた。
なるほど……。姉さんはそのとばっちりだな、たぶん……。
テラスに出てみると、二人は普通に話していた。……が、レオンはなぜか悲壮な顔をしている。
「なんか貴族のお嬢様が『二人が不埒なことをしている』って言いに来たんだけど」
そう言うとレオンが応えた。
「あれは、自分のことを俺の婚約者と思い込んでいる頭のおかしい女だから、気にしないでくれ」
「あー、ストーカーか! 了解ッス!」
やっぱり、ちょっとおかしい子だった……。
レオンほどモテるなら、ストーカーの一人や二人いてもおかしくない。
あまりモテ過ぎるのも大変だな。
ふと思い立って、姉さんに言う。
「姉さん、明日は騎士団全員休みなんだけど、一緒に街でも行かない?」
姉さんと外出したことは一度もなかった。しばらく会えないから、一度くらい一緒に城下町散策でもしてみたい。
「瘴気が流れ込んで来ているから、あまり長くはいられないぞ」
レオンがそう言う。
「ちょっとぶらぶらして、ご飯食べるくらいだけど……」
「その程度なら大丈夫だ」
お許しが出た。
オーブリーは、恋人はいないみたいだけど家族と過ごしたいかもしれないので、
「レオンさんがいるからオーブリーさんは来なくていいッスよ~」
と言っておく。明日は三人で出かけることになった。
姉さんが言う。
「そう言えば、レオンさんて一日も休みとってませんよね? お休みできないんですか?」
「誰かに代わってもらって休むことは可能だが、そうするつもりはない。俺に与えられた任務だからな」
あんなことを言っているが、絶対、姉さんと離れたくないんだと思う。
その証拠に、もう毎日護衛は要らないのではないかと言われて「俺をクビにする気か?」と怒っていた。
「そのうち、部屋の中でも護衛するって言うんじゃね~?」
俺がそう言うと、レオンは黙り込んでしまった。否定しないのかよ? まさか本気で検討してんのか?
「俺たち、もう宿舎に戻るね」
そう言って、宿舎に戻りかけた。だが、王宮を出たところで、頭上から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「サーヤは関係ありません! 巻き込むな!」
レオンの、今まで聞いたこともないような怒気に満ちた声。
見上げると、テラスの手すりに背中を預けた姉さんと、それを守るように立つレオンがいた。
(姉さんに、何かあった!?)
さっきまでの緩い空気が一瞬で吹き飛んだ。
俺の心臓が警鐘を鳴らす。
勇者とか討伐とか、そんなの関係ない。姉さんに手を出そうとする奴は、誰であろうと許さない。
俺は王宮に戻る道を夢中で駆け出した。




