第4話 勇者、姉の護衛の変化に気づく
姉さんが第二騎士団で働き始めた。
書類係のダニエラは、レオンが近くにいることに舞い上がっている。
レオンはすごく不機嫌そうだ。
あれでは確かに……女嫌いになるのも無理はないのかもしれない。
なぜかレオンも一緒に事務作業をしている。姉さんが「優秀な人材は活用すべき」と言ったらしい。
でも、あんなに素直に言うことを聞くレオンは珍しいと、騎士たちが言っていた。
(あれは、惚れたのか……?)
姉さんを見る顔がますます優しくなっているし、ダニエラに対する態度とまったく違う。自覚しているのかどうかはわからないが……。
まあ、姉さんといつも一緒にいて惚れないほうがおかしい。それだけの人だから。
最近、話をする機会が増えたので、レオンの人となりも大体わかってきたが、あの人なら、今のところは排除しなくてもいいだろう。
無愛想で口数が少ないが、真面目な人だ。姉さんを遊んで捨てるようなことはないと思う。
しばらく様子見だ。
◇◇◇◇◇
勇者教育の方は順調だ。
最初の頃ほど疲れなくなってきたし、身体も柔らかくなってきた。
レオも言うことを聞いてくれるようになった。
騎士たちと比べるとまだまだだし、筋肉も目に見えるほどはついていないけど、なんとか討伐には耐えられるんじゃないかという気がしてきた。
◇◇◇◇◇
今日は訓練後、城下町に出てみた。オーブリーと一緒だ。
銀色のマントを羽織っていると、勇者ということが一目瞭然だからか、あちこちで「勇者様~」と声をかけられた。そのたびに手を振り返す。
子どもなどは尊敬の眼差しで見てくる。実際は『戦力外』なのに……少しプレッシャーを感じてしまう。
差し入れをくれる人も多い。串焼きだの揚げ物だの、それだけでお腹がいっぱいになりそうだ。
この国の人たちが歓迎してくれていると思うと、嬉しくなってくる。単純だな、俺は……。
「人気者だな、ケントは」
オーブリーが笑う。
「みんな実情を知りませんからね。馬にもなめられる勇者とか」
「レオとはだいぶ仲良くなったじゃないか」
「最初の頃に比べれば、ですけど」
「十分だと思うぞ」
オーブリーは、俺がどんなにダメダメでも決して否定しない。
おかげで俺も萎縮しないでいられる。
城下町をぐるりと廻ったが、結局、菓子を少し買っただけだ。
服など必要なものはすべて支給されるし、もらっている生活費や手当はほとんど使わずに残っている。こっちのお金を日本に持って帰っても仕方ないから、姉さんに渡して使ってもらおうかと思う。姉さんは、服や化粧品など、必要なものがいろいろあるだろうし……。
◇◇◇◇◇
ある日、訓練場で剣術の稽古をしていると、レオンが一人でやってきた。
いつもは姉さんと一緒に来るのに珍しいなと思ったが、そういえば姉さんは今日、仕事が休みのはずだ。
レオンはオーブリーの隣に腰を下ろして何か話している。相談事でもあるのだろうか。まさか、姉さんと何かトラブルでも……?
二人の様子が気になって、騎士から一本取られてしまった。
「さっき、レオンさん来てましたよね」
「ああ、サーヤは部屋にいたらしい。食事のときに迎えに行くと言っていたぞ」
「姉さんとトラブルがあったわけじゃないんですよね?」
「そんなことはない。心配しなくて大丈夫だ」
「それなら、いいけど……」
だが、遠くから見たレオンの表情がいつもの仏頂面とは違って見えて、なんとなく気になった。
(根拠はないが、なんか気になる……)
◇◇◇◇◇
姉さんは、討伐隊が出発するまで第二騎士団で働くらしい。
詰所に戻って姉さんの顔が見えるとほっとする。
ときどきランチを一緒にすることもある。ほぼ、ダニエラが一人でしゃべっているが……。
レオンが姉さんを好きなのは、ほぼ確定だと思う。姉さんを見る顔が、最初の頃とはまったく違う。これだけわかりやすい人も珍しいかもしれない。女嫌いという話はなんだったのだろう?
だが、ものすごくモテるのに誰にもなびかなかった男が姉さんだけには惚れたと思うと、誇らしい気もする。
姉さんのほうはあまり顔に出ないのでわからないが、レオンを信頼しているのは確かだと思う。
俺が討伐に行っている間、姉さんはレオンだけが頼りなのだろうから、仲がいいに越したことはない。
任務はきっちりこなすと言っていたから、色恋がらみで護衛をおろそかにすることはないだろうが……。
遠征前に、レオンには一度きちんと姉さんのことを頼んでおこう。




