第3話 勇者、姉の護衛を観察する
勇者教育にもだいぶ慣れてきた頃、庁舎の食堂で姉さんと昼食を共にした。オーブリーとレオンも一緒だ。
食堂では、なぜか注目を浴びた。勇者や騎士が珍しいのだろうか。
騎士はともかく、俺は名ばかりの勇者だというのに……。
今日のレオンは、最初に見たときより、わずかに表情が柔らかくなっていた気がした。少しは姉さんと打ち解けたのだろうか。
(あまり打ち解けすぎるのも気に入らないけど……)
姉さんに、剣はうまく使えるようになったかと聞かれた。
「うん! オーブリーさん教えるの上手いし!」
「ならよかった。討伐失敗第一号は避けたいものね」
「大丈夫、大丈夫。俺、トドメ役らしいから!」
「……なるほど、若君の初陣ね」
「それそれ!」
俺もまったく同じことを思っていたので可笑しかった。
(『寄生プレイヤー』とも言えるけど……)
公爵家の若君の初陣はどうだったんだろう? レオンは最強らしいから、お膳立てなど必要ないのか……。
オーブリーは二十三歳と言っていたが、レオンに年齢を尋ねると、「二十一だ」とさらりと言われた。
姉さんはお茶を吹き出しかけていた。護衛の歳を知らなかったんだろうか。
それにしても、レオンはやたら老成していて、とても二十一には見えない。
俺と二つしか違わないのに、実力は雲泥の差だ。ちょっと悔しい……。
「私はこの中で一番年上なことに衝撃を受けてるわ」
「そうなのか? いくつだ?」
「二十五です」
「そんなにか! 俺より年下だと思っていたぞ」
レオンは姉さんを年下だと思っていたらしい。
「姉さん、老けて見えたってこと?」
「逆でしょ、逆!」
即座に否定された。やはり歳のことは気になるのだろうか……。
「いつも一緒にいるのに年齢も知らなかったの?」
そう尋ねると、個人的な話はあまりしないと言っていた。
少し安心した。
「どんな話をしてるの?」
「主にお互いの国のことですよね」
「俺も『日本』についてだいぶ詳しくなったぞ。空飛ぶ乗り物があるらしいな」
「それ騙されてないか?」
オーブリーは信じられないらしい。
「飛行機のことですよね。嘘じゃないッスよ」
「魔法も使えないのに、どうやって空を飛ぶんだ」
「ジェットエンジンとかかな。逆にこの国は魔法があるんだから、箒で飛べるでしょ?」
そう言ってみたが、レオンとオーブリーは何のことかわからないと言うように「飛べない」と言っていた。
ルーキスの魔法使いは箒に乗れないらしい。
乗り物も馬車くらいしかないし、あまり高速移動には関心がないようだ。
のんびりした国だ。
「レオンに護衛されるなんて、この国の女たちだったら有頂天になって質問攻めにしそうだけどな」
オーブリーが苦笑混じりに言う。
「確かにサーヤはそういうのがないから、やりやすいな」
レオンがあっさりと言った。
さすが姉さんだ。レオンほどの美形にも関心がないらしい。
「レオンみたいのは、『日本』では人気ないの?」
「いやいや、日本でもモテますよ、レオンさんのような超絶美形は」
一応事実を言っておく。
「でも姉さんの好みとは違うかな」
これも事実だ。レオンの表情が、ほんのわずかに硬くなった……気がした。
「姉さんは癒し系が好きだから」
「『イヤシケイ』とは?」
「穏やかで優しくて……、一緒にいると安心できるタイプの人です」
レオンは一瞬考え、
「それなら俺は癒し系だな」
と断言する。こんなに『圧』のある癒し系は見たことがない。
この人でも冗談言うことあるんだな。だが……
「冗談ではないが」
真顔で言っている。なぜだ? 本当に自分が癒し系だと思っているのか?
結構面白い人だな。
「レオンさんは、優しいとは思いますけどね」
姉さんがフォローすると、
「そうだろう?」
と、得意げな顔になった。やっぱり面白い人だ。
「サーヤは独身だって聞いたけど、日本では二十五で独身って普通なの?」
オーブリーの言葉に、姉さんは少しだけ傷ついた顔をした。
この国では「行き遅れ」と思われるのかもしれないが、日本なら二十五なんて、仕事が一番楽しい時期なのに。
「姉さんは一生独身でも俺が面倒見るからね」
そう、姉さんは、無理に結婚なんてしなくてもいい。
するなら、心から好きな人としてほしい。
「君たちは本当に仲がいいな」
レオンがそう言うと、
「ケントはいつもサーヤの話をしているぞ」
オーブリーが言った。自分でも自覚があるので笑うしかない。
姉さんの皿を見ると、相変わらず食が細い。
「姉さん、相変わらず少食だな」
「あまり食べると太るから」
「なぜ、そんなことを気にするんだ?」
レオンが言う。
「え?」
「……君はとても細いだろう」
レオンは、自分でそう言っておいて固まった。まずいことを言ったという自覚があるらしい。
「……なんで知ってるんです?」
そう問いかけるが、レオンは答えず、視線を逸らした。
(どういうことだ?)
姉さんがこの国で着ているようなゆったりした服では、体型なんてわからないはずなのに……。
そこで姉さんが口を挟んだ。
「あ、あのね。初日に私、かなり軽装で出かけようとして……」
「ああ、聞いた聞いた。レオンが『朝から誘惑されたかと思った』って」
「おい、言うな!」
「『若い娘が嘆かわしい』って言われたんですよ。年下のレオンさんに」
「姉さん、何やってんの!?」
そういうことか。姉さんは夏になるとよく脚を出していたし、身体にフィットするタンクトップのようなものもよく着ていた。この国は保守的だから、初日にそんな格好で出かけようとして驚かれたんだろう。
(でも、『嘆かわしい』とか言いながら、しっかり見ていたんだな)
姉さんに、仕事とかしないのか尋ねると、「したいと思ってるんだけど……」と言っていた。
娯楽も少ないこの国で、毎日何もしないでいるのは退屈なんだろう。
「故郷では働いていたのか?」
「秘書をしていました」
「姉さんは、ちょっと天然だけど優秀ですよ!」
すかさず援護射撃をしておく。
「書類の作成や整理はできるか?」
「得意分野です」
「なら、うちに来てほしいな」
オーブリーが言う。
話はあっさりとまとまり、団長や人事に話を通してもらえることになった。
姉さんが第二騎士団に来てくれたら、毎日会える。
「勇者のやる気も上がるだろうしな」
レオンがそう言っていた。なかなか話がわかるやつかもしれない。




