第23話 勇者、仲間たちに別れを告げる
やがて、解散式が始まった。
「姉さん、俺、今日スピーチするんだ。ちゃんと聞いててくれよ」
「そうなの? がんばってね」
壮行会では一言だけだったが、今日はちゃんとスピーチをするつもりだ。ここでちゃんとしないと締まらないからな。
だけど、手のひらが少し汗ばんでいる。
「皆さん、本日は……魔獣王討伐の成功をご報告できることを、嬉しく思います」
大丈夫だ。思ったより、あがっていない。
「ですが、俺は最後にトドメを刺しただけです。魔獣王を追い詰めたのは、騎士の皆さんです。そして、結界で俺たちを守ってくれた魔道士の皆さんがいたからこそ、ここに立っています」
会場を見渡す。一緒に戦った仲間たちが、そこにいた。
「だから……本当の意味での勇者は、俺ではありません。ここにいる、皆さんです」
拍手が収まるのを待つ。
「正直に言うと……最初は、何でこんなことをやらされるんだって思ってました。強制的に召喚されて、戦えって言われて」
会場のあちこちで、苦笑が漏れる。
「早く終わらせて帰りたいって、そればっかり考えてました。でも……騎士団の皆さんは、本当に良くしてくれました。特に……」
最前列に立つオーブリーに向いて言う。
「護衛兼教育係のオーブリーさんには、何度も助けてもらいました。どんなことでも相談に乗ってくれて、今では……本当の兄みたいな存在です」
オーブリーと目が合った。照れくさそうに頷き、親指を立てて応えてくれた。
オーブリーが教育係じゃなかったら、俺はここまでやれなかったかもしれない。彼には本当に感謝している。
「訓練は正直きつかったですけど、その分、身体も、心も、前よりずっと強くなれたと思います。この国での経験は、俺にとって一生の宝です」
本当にそう思う。ここ半年で、日本にいる何年分も成長できたように思う。
「それから……一緒に召喚されてしまった姉にも、感謝しています。巻き込んでしまったのに、ずっとそばにいてくれました」
……少しだけ、言葉に詰まった。
姉さんがハンカチで目元を拭っている。巻き込まれたんじゃない、なんて思っているかもしれないな。だけど、勇者は俺の役目だ。姉さんのじゃない。
「姉がいてくれたから、俺は最後までやりきれました。そして……命に代えても姉を守ると誓ってくれた、護衛騎士のレオンさんにも感謝します。姉を任せられるって思えたから、俺は安心して戦えました」
悔しいけど事実。レオンほど、姉さんを託せると思う人は他にいなかった。最後に少し付け加えた。
「レオンさんの姉に対する溺愛ぶりは、自分を見ているみたいで……親近感が湧きました」
騎士たちが皆笑う。俺とレオンの姉さん大好きぶりは騎士団でも有名だったから。
姉さんを見ると困った顔をしているが、レオンは嬉しそうだ。
「今では、皆さんと別れるのが本当に名残惜しいです。ここでのことは、きっと一生忘れません」
深く、頭を下げる。
「本当に、ありがとうございました」
言いたいことは全部言えたと思う。
大きな拍手が長く……長く続いた。
予定にはなかったが、オーブリーにもスピーチが求められた。
「ケントとは、この半年、ほぼ毎日を共に過ごしました。最初は正直、不安でした。細くて、これで剣が振れるのかと思ったくらいで」
やっぱり、そう思われていたか。
「だが、ケントはすべて乗り越えた。厳しい訓練も、実戦も。逃げずに、すべて。今では、誰よりも勇者らしい」
オーブリーの言葉に胸が熱くなる。毎日、夕食のたびにオーブリーに弱音を吐いていたことを思い出す。それでも、オーブリーはいつも励ましてくれた。
「性格もまっすぐで、すぐに周りに受け入れられました。ただ……口を開けば『姉さん』でしたが」
やっぱり言われたか……。
「ですが……その理由も、すぐにわかりました」
一瞬だけ姉さんを見た。そして……
「サーヤさんは、それだけの人だ。俺が護衛をしていたら、惚れていたかもしれません」
レオンに喧嘩を売った!
レオンを見ると、射殺さんばかりの視線でオーブリーを睨みつけている。
「ケントは、立派に役目を果たした。この国の人間として、心から感謝する」
こちらを見る。
「……そして、個人としても。俺もケントのことは弟のように思っている。お前と過ごした日々を、忘れることはない」
やばい。泣きそうだ。
「ありがとう」
しんみりしているところに、思いがけない発表があった。
「勇者ケント・マツバヤシに、侯爵位を授与する」
「はっ!?」
会場もざわめいている。騎士たちまでざわついていた。だって、侯爵って、オーブリーの実家と同じだ。あのお城の主人……。いや、あり得ないだろう。
「侯爵ですか? ナイトとかではなくて?」
「勇者の称号を持つ者に、ナイトでは足りまい」
『勇者』は名ばかりの称号だけど……。
「それにしても……侯爵とは」
「この国に留まらぬのであれば、義務は課されぬ。名誉として受け取ればよい」
「記念、みたいなものですか?」
「そういうことだ」
ノーブレス・オブリージュとかを期待されても困るが、義務が課されないなら、まあいいか……。くれるというものはもらっておこう。




