第22話 勇者、痴話喧嘩を仲裁する
今日は、討伐隊の解散式……その後は晩餐会もある。
騎士の正装の上に、ボロボロのマントをつける。ちょっとみっともない気もするが、これは戦いの証だ。恥じる必要はないと思う。オーブリーも、「それでいいと思うぞ」と言ってくれた。
もっとも、オーブリーは決して俺を否定しないから、本当にいいのかどうかはわからないが……。
会場に入った瞬間、視線が集まった。
勇者として見られているのだと、嫌でもわかる。
姉さんを探すと、すぐに見つかった。
ふんわりとした華やかなドレスが多い中、金色の刺繍が施された漆黒のドレス。とても目立っている。
あれは、レオンの髪と瞳の色だ。たぶんレオンから贈られたのだろう。どこまで愛されてるんだ、姉さんは……。
レオンは誇らしげに姉さんをエスコートしている。周りの視線なんか、これっぽっちも気にしてない様子だ。強い……。
姉さんに声をかけた。
「……すごいな。それ」
「やっぱり?」
「完全に『自分の色に染めました』って感じ」
思ったままを言うと、姉さんは少し目を伏せた。
レオンの髪と同じ漆黒に、瞳と同じ金の刺繍。
これはもう、ドレスの形をした『結界』だ。
「余計な虫は近づくな」という無言の圧力が、会場の隅々まで届いているのがわかる。
そこへ、例のアデリーナ嬢がやってきた。
「そのドレスも、レオン様に『ご用意させた』のですか?」
また嫌味を言いに来たのか? 姉さんに近づけるなと侯爵に言ったはずなのに。
「やめろ」
レオンが姉さんの前に立つ。
「俺が望んだ」
一言だけ。だが、それはクリティカルヒットだったに違いない。
「お嬢様、姉さんには近づかないでって言いましたよね?」
俺もレオンの横に立った。これで姉さんはアデリーナの視界から消えたはずだ。
「勇者様はなぜお姉様を連れていらしたのですか?」
何を言ってるんだ。こっちは好きで来たわけじゃないと言うのに……。
「そっちが呼んだんだろう」
「ルーキスが迷惑をかけたというのに、何を言っている」
レオンも冷たい声で言う。
「どちらでもよろしいですわ」
アデリーナは微笑んだ。
「どうせ、もうすぐお帰りになるのでしょう? お淋しくなりますわね、レオン様」
「お前……」
レオンがアデリーナに憎悪の目を向ける。当たり前だ。レオンにとって、一番触れられたくないことだろう。
「アデリーナ。こちらへ」
ヴィスカルディ侯爵が現れた。
「侯爵様、討伐が終わったら約束は反故ですか? 姉に近づけないと……」
「ああ、わかっている。すまなかった」
侯爵はそう言うと、無理やりアデリーナを引っ張っていった。
去り際、二人の会話が聞こえた。
「もう関わるのはやめなさい」
「ですが……あのように全身をレオン様の色で飾るなど……非常識ですわ」
「レオン君が望んだのだろう。お前が口を出すことではない」
それでも、アデリーナは納得していないように見えた。やっぱりちょっとおかしいよな、あの子……。
+++++
その後、ダニエラがやってきた。姉さんがアデリーナに絡まれていたので心配になったらしい。
やはり、アデリーナは貴族の令嬢の間でも評判がよくないようだ。
ダニエラが突然、「ディスる」の意味を聞いてきた。姉さんが答えると……。
「えっ……、サーヤさんがレオン様をディスったって……」
どうやら、バレンタインデーの日のことが耳に入ったらしい。すると……
「そうだ、ひどいだろう?」
レオンがダニエラに反応した。これはきっと、スイッチが入ってしまった。
「俺は生まれて初めて、容姿を否定された」
やはり……。なぜレオンはいつも衆人環視の中でスイッチが入るのだろう。
「否定してません! ダニエラさん、私は『好みのタイプではない』って言っただけなんです」
姉さん、それは悪手だと思うぞ。ダニエラが固まっている。
「姉さん、それ普通に失礼だと思う」
やんわりたしなめたが……。
「ケントもそう思うだろ?」
レオンが勢いづいてしまった。
「じゃあこうです!」
姉さん、やけになってないか?
「たとえ不細工でも……」
「俺は不細工か?」
被せ気味に言われている。
「違います! 最後まで聞いてください!」
さて、次は何を言うのか……。
「もう見慣れたし……」
……言っちまったな。姉さんの爆弾発言に、周囲の貴族たちが一瞬、彫像のように固まった。
あの『ルーキスの太陽』に向かって「見慣れた」? そう思っているに違いない。
案の定、ショックで眉間に深い皺を刻んでいるレオンを見て、俺は深く溜息をついた。
仕方ない、助けに入るか……。
「姉さんは失言が多すぎるし、気持ちを伝えるのが絶望的に下手だな」
「ソウデスカ……」
「レオンさん、姉さんが言いたいのは……今の見た目じゃなかったとしても好きになっていたし、もし顔に傷がついても気持ちは変わらない。中身が好きだ、ってことだと思います」
翻訳した。
「そうなのか?」
「そうです」
「なら最初からそう言え」
「レオンさんが話を最後まで聞かないからです」
「そうか?」
「それに、レオンさんは察しが悪いです」
「はっ!? そんなことを言われたことないぞ!」
「普通、言わなくてもわかりませんか?」
「わからん!」
この二人はもう……。
「姉さん、それ日本人的な感覚だから、この国だと通じないと思う」
「私が……言葉が足りないのが悪いんですね」
小さく呟く。
「そうだな。俺も言葉が足りないと言われるが、サーヤほどではないな」
「そのとおりです。私は『変な女』ですから」
「俺はサーヤの変なところも好きだがな」
「それなら……よかったです」
結局はそこに落ち着くのか……。
傍から見てる分には面白いが、姉さんは針のむしろだろうな。
心なしか姉さんは身を縮めている。だが、レオンは姉さんの肩を抱き寄せた。
守っている。口喧嘩はしても、そこはぶれない。
(やっぱり、強い……)




