↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/26

第20話 勇者、規格外の侯爵邸に震える

 翌日は、約束どおりオーブリーの実家を訪れることになった。


 姉さんは、昨日のうちに花束を用意してくれていたらしい。

 さすが秘書だ。そのあたりはぬかりない。


 やがて馬車は屋敷の門をくぐる。

 ん? 違ったのか? 門の先は並木道だが、行けども行けども屋敷はない。


「さっきの門は、オーブリーさんちの門じゃなかったんスか?」

「うちの門だが」

「じゃあ、ここ全部、オーブリーさんちの敷地?」

「そうだ」

「どんだけ広いんスか!?」

「さあ、俺もよく知らん」


 東京ドーム何個分だよ……と思ったが、もはやそういうレベルではないな。

 きっと、自分の家の敷地でも、足を踏み入れたことのない場所とかあるんだろう。


 そして、ようやく見えてきた建物は、どう見ても『城』だった。


「……ねえ」

「うん」


 姉さんと顔を見合わせた。言葉が見つからない。


 玄関に足を踏み入れた瞬間、後退りしそうになった。

 足元の絨毯は、一歩踏むたびに沈み込むほど厚い。

 これが個人の邸宅なのか? どう見ても宮殿だ。オーブリーは、ここで育ったのか? お坊ちゃんとかいうレベルではないな……。そんな人に、俺は半年も面倒を見てもらっていたのか……。

 魔の山で一緒に野営した記憶が、急に夢のように感じられた。


 隣の姉さんも固まっているようだった。レオンは公爵家だ。オーブリーよりもさらに上の家柄。確か、王族とも親戚だったと思う。姉さんは、そんな人と付き合っているのだ。


(……苦労するな……姉さん)


 しきりに自分の服を気にしているように見える。それでも姉さんはまだいい。ちゃんとしたワンピースだから。俺は完全に普段着だ。

 騎士二人はきちんと騎士服を着ているから、この場でもまったく違和感がない。俺も勇者のマントで来るべきだったか。ボロボロだけど……。


 姉さんが小声で囁く。


「ねえ、私たち……帰ったほうがよくない?」

「俺も、ちょっと思った」


 正直な気持ちだ。だが、それを耳にしたレオンが穏やかに言った。


「問題ない。顔を上げろ。ここにいることは、誰にも咎めさせない」


 この人は、ここでも姉さんを守るつもりでいる。そう思うと安心できた。


 執事に案内され、応接間へと通された。豪華な部屋だ。

 そこに立っていたのは、ひと目でオーブリーの兄とわかる青年と、美しい夫人。


「ケント、サーヤ、兄のジョスランとその妻のヴァランティーヌだ」

「はじめまして。本日はお招きいただき、ありがとうございます」


 二人で挨拶をし、姉さんが用意してくれていた花束を差し出した。


「ありがとう。とても素敵だわ」


 夫人はそう言って受け取ってくれた。


 ジョスランから、討伐に対して感謝の言葉を受けた。姉さんも、巻き込んでしまったことを謝罪されていた。


「いえ、俺はほとんど何もしていません。オーブリーさんをはじめとする騎士たちのおかげです」

「私も、弟と一緒に来られてよかったと思っていますので」


 俺も姉さんも、それが本心だ。こちらの都合も聞かずに呼び出されたことにはちょっと思うところもあるけど、今はいい経験をさせてもらったと思っている。


「そう言っていただけると気が楽になります。本日は食事をご用意しておりますので、ぜひご一緒に」


 ふと見ると、オーブリーの義姉であるヴァランティーヌがレオンをうっとりと見つめていた。……うん、やっぱりファンなんだな。


                 +++++


 その後、ダイニングへと案内された。

 そこで目にしたのは……広いサイドボードいっぱいに並ぶ、色とりどりの料理。


 何を、どうやって、どれくらい取ればいいのか、まったくわからない。

 姉さんと顔を見合わせる。どうやら同じことを考えているようだった。


 そのとき……


「サーヤはこれが好きだろう?」


 レオンが姉さんのために慣れた手つきで皿に料理を盛り付けていく。

 そういえば、こちらに来た頃、メニューを見ても何の料理かわからず、レオンに選んでもらっているうちに、それが習慣になったと言っていた。


(やっぱり、この人は貴族なんだな……)


 この場でも一切動じる気配がない。

 だが、かしずかれる立場なのに、愛する恋人のために料理を取り分けている。とても自然に……。


 俺も、それを真似して料理を取る。正直、助かった。


 やがて全員が席につき、食事が始まる。

 ナイフを持つ手が少し震える。

 何から食べるのが正解なのか……?

 周りを見て真似することにした。

 遠征中は魔獣の肉にかぶりついていたオーブリーが、今は銀食器を完璧に使いこなしている。


(やっぱり、違う世界の人なんだ……)


 少し淋しく感じてしまった。


                 +++++


 ヴルカリスの感想などを聞かれていたとき……


「昨日と一昨日は四人で温泉に入ったんですよ」


 オーブリーの一言に、部屋に微妙な空気が流れた。


「……サーヤさんもですか?」


 夫婦が姉さんを見る。


「ええ、布を巻いて入りましたので」


 姉さんは堂々と答えているが、おそらくこの国の貴族からしたら、あり得ないことなんだろうなと思う。

 そして、オーブリーが事故を起こしたという話になったとき、


「大丈夫ですよ。私には見えませんでしたから」


 姉さんがそう言うと、また場の空気が止まった。

 夫妻は顔を見合わせている。これも貴族的にはNGだったんだろうか。見えなかったんだからいいじゃないかと思うが……。


 そのとき、


「問題ない」


 レオンだ。


「この場にいる以上、彼女の振る舞いはすべて俺が保証する」


 はっきりと宣言した。


「彼女に非があるとするなら、それは俺の責任だ」


 さすがだと思った。姉さんのことは、どこまでもかばう。決してぶれない。

 貴族の常識を知らない異世界の娘。その言動のすべてに責任を持つと言っている。


(姉さん、よかったな)


 心から、そう思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。