第19話 勇者、二十歳の誕生日を仲間と祝う
翌日……。
四人で朝食をとった後、宿でランチを用意してもらって、オーブリーと渓谷へ向かった。
「寒かったら結界を張るか?」
「歩けば暖かくなるんじゃないッスか?」
日本なら真冬の季節だが、この国は温暖だ。あまり寒さは感じない。
渓谷は気持ちのよいところだった。季節外れだからか、人影はない。聞こえるのは、キツツキの音や渓流のせせらぎだけだ。
「けもの道の先に滝があるって言ってましたよね」
「ああ。見つけられるかな?」
慎重に歩いていると、それらしき道が見つかった。
「ここじゃないかな?」
「きっと、そうだな」
道はよくなかったが、草が茂っていないので、それほど歩きにくくはなかった。
しばらく進むと、急に視界が開けた。
「……ありましたね」
岩肌を白い糸のように水が伝い落ちている。
「この渓谷には何度も来たが、こんな滝があるとは知らなかったよ」
「そうなんですか? 姉さんたち、よく見つけましたね」
これも姉さんたちから聞いていた、見晴らしの良い岩棚でランチを広げた。
「ほんとに、気持ちのいいとこだなぁ」
「ああ、ランチが美味く感じるな」
「確かに!」
その後、山頂にたどり着いた。そこに広がる雄大な景色に圧倒された。
「すごい絶景だな! オーブリーさんは何度も見てるでしょうけど」
「いや、ケントと一緒に見られて嬉しいよ」
「そう言ってもらえると、俺も嬉しいッス!」
その後、茶屋に入った。
「いらっしゃい……これはこれは、オーブリー坊ちゃま」
茶屋の主人はオーブリーと顔見知りのようだ。
「ぷっ! 坊ちゃま……」
思わず吹き出した。
「坊ちゃまはやめてくれ。勇者に笑われたじゃないか」
「えっ! こちらは勇者様?」
「そうだ。この国を救ってくれた勇者だぞ」
「それは、どうもありがとうございます」
「いえ、俺は大したことしてないんで。オーブリーさんたち騎士の功績ですよ」
「謙虚な勇者様だ」
事実なんだけど。
「ここには前に勇者の姉も来てると思うぞ」
「そうなんですか? あ、あの人たちかな。赤いマントの美形の騎士様と一緒だった」
「きっと、それだな」
茶屋で一休みした後、店の裏から続く細い道から帰ることにした。
「姉さんたちも、こっちから帰ったって言ってましたね」
「ああ、こっちのほうが眺めがいいんだ」
その道は、静かだった。
落ち葉が敷き詰められた道に、足音だけが響く。
大樹は葉を落としているが、夏には空が見えないくらい葉が生い茂るのかもしれない。
しばらく進むと、突如として視界が開け、息を呑むような絶景が現れた。
川が大きく弧を描き、白銀に輝いている。対岸には畑が広がり、遠くに街が小さく見える。
「綺麗ですね……」
「そうだな……」
ついこの間までいた、魔の山の殺伐とした景色とは対照的だった。
これが、この国の本来の姿なんだ。そう思った。
「そろそろ行くか」
「……はい」
さらに下って行くと、カリエンティラにたどり着いた。小さな扉を開けると、宿の庭園へとつながっていた。そこを抜けると、自分たちの部屋はもうすぐそこだった。
部屋に戻ると、オーブリーがレオンに連絡した。呼ばれて姉さんたちの部屋に行く。
「わー、何これ!?」
姉さんたちの部屋は、パーティ会場のように飾り付けられていた。
「サプライズ! 賢斗、お誕生日おめでとう!」
「あ、俺……誕生日か!」
「忘れてたの?」
「すっかり」
今日から二十歳か……。
席につくと、グラスに飲み物が注がれた。ケーキも用意されている。挿してあるろうそくは二本だが、やたらと太い。
ろうそくに火をつけると、姉さんがハッピーバースデーの歌を歌う。それが終わったところで、ろうそくに息を吹きかけた。姉さんの幸せを願いながら……。
ろうそくは一息で消えた。きっと願いは叶うだろう。
小さな拍手が響いた。
姉さんから小箱を差し出される。
開けてみると、腕輪が収められていた。俺の誕生石のアメジストが埋め込まれている。
「……災いから守ってくれる石なんですって。お誕生日おめでとう、賢斗」
姉さんは、そう言っていた。これから先、きっとこの腕輪が俺を災いから遠ざけてくれるだろう。そう、信じられた。
レオンも、綺麗な色だと言ってくれた。お礼を言って、前から気になっていたことを聞いてみた。
太陽の形をしたレオンのクラスプ。そこには姉さんの瞳の色の石が埋め込まれている。
「レオンさんのクラスプって姉さんから?」
「ああ」
「やっぱり! レオンさん、『ルーキスの太陽』だもんな!」
そう言うと、
「あと、これとこれもだぞ」
剣の形のペンダントとアラベスク模様の腕輪を自慢げに見せる。
出発前夜に、オーブリーから紹介された店で用意したものらしい。
レオンはものすごく嬉しそうだ。こんなに喜んでもらえるなら、俺も協力した甲斐があったというものだ。
レオンからもプレゼントをもらった。ワインとペアグラスだった。
とても綺麗なグラスだ。光にかざすと、グラスの縁がかすかに虹色を帯びた。
ルーキスに来た日、大広間で見たシャンデリアの光と同じように見えた。
きっと、とても高価なものなのだろう。
お礼を言って、ワインはみんなで飲むことにした。
最後にオーブリーから渡された包みには、アッシュブラウンのマフラーが入っていた。オーブリーの髪色と同じだ。オーブリーが言う。
「シンボルカラーは、必ずしも異性にだけ贈るものではない」
その言葉に含まれた深い親愛の情に、胸の奥が震えた。
日本にいたら、友達と騒いで、『二十歳のつどい』に行っていたのかもしれない。
だけど今は、そんな『つどい』なんかより、よっぽど貴重な経験をしたと思える。
ここ半年で、心も身体も驚くほど成長したという自覚もある。
ルーキスに来たことは、長い目で見れば、絶対に俺にプラスになったと思う。
(二年生はもう一度やり直しだけどな……)
だが、そんなことはどうでもいいことに思えた。
その後は、四人で遅くまで騒いだ。ワインもかなり飲んだ。
初めて飲む『公認』の酒は、少しだけ苦くて、最高に美味かった。




