第18話 勇者、温泉で平和を噛みしめる
姉さんたちの部屋に行くと、俺に服装チェックをしてほしいと言う。それでオーブリーの前に出るのが問題かどうか、判断してほしいらしい。
俺と姉さんはほぼ同じ感覚を持っているんだから、姉さんが問題ないと思っているなら俺も問題ないと思うに決まっているのだが……。
パレオを巻いた姉さんを見た。やはり何の問題もないように見える。かなり長い布らしく、二重に巻き付けて、首の後ろで結んでいる。
これを着て会社には行かないけれど、リゾート地なら普通にいるし、昔は渋谷あたりでも見かけたというのを何かで読んだことがある。
姉さんは、温泉に入るというより、みんなでプールで遊ぶというような感覚なんだろう。俺も、どちらかと言えばそっちに近い。
レオンは、これをオーブリーに見せるのも嫌なのだろうか? そうだとすると、日本で海水浴など行けないな。
「どうだ?」
レオンが聞くので、正直に思ったままを言う。
「日本なら余裕ッスね。リゾート地なら普通に外歩けるレベル」
一瞬の沈黙があったが……
「……なら、四人で入るか」
ついに折れたレオンの顔は悲壮感に満ちていた。
パレオ一枚で何をそんなに……と思ったが、オーブリーは「やった!」と無邪気に喜んでいる。
レオンは「俺は適応力が高い」と言っていたが、オーブリーのほうがはるかに適応力が高そうだ。
そして温泉へ行く。部屋のテラスから直接入れる。
川底から温泉が湧いているらしく、せき止められてプールのようになっている。
隣との間には目隠しがあって、プライベートも確保されている。
なんだかとっても贅沢だ。
川の中に椅子が設えられてあって、みんなでそこに座った。
レオンが姉さんに言う。
「今日は俺の膝に乗らないのか?」
思わず椅子からずり落ちそうになった。
「乗りません」
姉さんは、余計なことを言うなという顔をしている。
(レオンさん、こういうとこあるよな。人からどう見えるとか、人からどう思われるとか、気にしない鋼のメンタル)
羞恥心とか、持ち合わせていないのかもしれない。さすが最強の騎士だ。でも、姉さんは苦労しそうだ。
「え、乗ってたの!?」
一応、食いついておこう。
「椅子が低かったのよ!」
「俺たちに遠慮しなくていいのに」
「遠慮してません! タオルを敷いたから平気です!」
姉さんの顔が赤いのは、温泉のせいだけじゃないと思う……。
「泳ぐか?」
レオンが言う。
確かに、この川だと泳ぎたくなる
せき止められているので流れはほんのわずかしか感じない。
水深も胸の下あたりでちょうどいい。
「いいッスね」
「三人で競争ね」
結果は、俺の圧勝だった。初めて騎士たちに勝てるものがあった!
「若さか……」
「筋肉重すぎなんじゃないッスか?」
だが、レオンは子どもの頃に風呂で泳いだことしかないと言う。それでここまで泳げるのはさすがだと思う。
そんな中……
「これ、誰のですかー?」
向こう岸で姉さんが布を振っている。
「あ、俺だ!」
オーブリーだ。泳いだときに外れたらしい。
姉さんが後ろを向いているうちに戻る。
「外れたのが戻るときじゃなくてよかったッスね」
姉さんの眼の前で外れていたら、レオンがどうなったかわからない……。
ひとしきり騒いだ後は、みんなで静かに温泉に浸かった。
見上げれば満天の星空。
川面にはうっすらと白い湯気が立ち上っている。
ぬるめのお湯が心地よかった。
この馬鹿馬鹿しくも愛おしい時間は、日本に帰ったらもう二度と味わえないんだな……。
そう思うと、温かいお湯の中にいるはずなのに、胸の奥が少しだけ、きゅっと締め付けられた。
温泉を堪能した後、俺とオーブリーは部屋に戻った。
「すっごい、いいとこですね」
心からの感想だった。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。俺の実家の領地だからな」
「実家にはよく来るんですか?」
「最近はそうでもないな。両親は王都にいるし……」
兄夫婦との仲は良いらしいが、兄の家だと思うと、なかなか気軽には来にくいのかもしれない。
「レオンさんて、すごいヤキモチ焼きッスね」
「ああ、俺も驚いた。今までは相手がいなかったから知りようもなかったけど」
「あまり束縛されすぎると、姉さんが窮屈に思うかもしれないな……」
「そうだよな。機会があったら、それとなく忠告しておくか」
「聞く耳持つかどうかわかりませんけどね。俺やオーブリーさんにまでヤキモチ焼くくらいだから……」
「それもそうだな」
それだけ姉さんのことが好きでたまらないのだろうな。
そこは評価できる。
だが、姉さんが日本に帰ったあと、あの人はどうなってしまうのだろう?




