第16話 勇者、最強騎士の暴走に巻き込まれる
数日後、四人でランチを終えたあと、姉さんが小箱を取り出してみんなに配った。
「今日はバレンタインデーなんです」
ああ、今日は二月十四日だったか。
姉さんが、女性から男性へ愛を告白する日だと説明すると……
「……ちょっと待て」
低い声でレオンが割り込んだ。
「なぜオーブリーに渡す?」
ほんとヤキモチ焼きだな、この人は。でも、弟の俺にまでヤキモチ焼くのはやめたみたいだ。
今は『義理チョコ』とか『友チョコ』とかいろいろあると説明すると、分類が多すぎると文句を言う。さらに、姉さんが「変」なのは日本が「変な国」だからだと言い出した。
姉さんが「変」なのは俺も否定しない。
「姉さんは日本でもレア枠ッスね」
そう言うと、
「やはりな! 日本人全員がサーヤほど変だったら、国が成り立たない」
ものすごく納得している。
きっと、姉さんが「変」だと思わないと、精神がもたないんだろう……。
姉さんの初日の服装を「下着」だと言って譲らない。あんなに驚かされたのは生まれて初めてだとまで言っている。よっぽど激しいカルチャーショックを受けたのだろう。
最初は護衛任務が終わる前に精神が崩壊すると思っていたらしい。だが、
「安心しろ。すぐに慣れた」
「……慣れた?」
「俺は適応力が高いからな!」
ものすごいドヤ顔をしている。
「変なところも含めて好ましく思えるようになった」
そう言い切った。
こんなに面白い人だったんだな。いつもは無口なのに、今日は普段の三倍くらい喋っている。
俺は笑いを堪えられなくなった。
隣を見ると、オーブリーも肩を震わせている。
「賢斗も日本人ですけど、変じゃないんですか?」
「ケントは普通だな。……姉の性癖を熟知しすぎている点を除けば」
流れ弾が飛んできた。
性癖とは、美少年好きのことだろうか。あれは、横で見ていれば誰にでもわかる。姉さんの趣味みたいなものだ。そう割り切ってしまえば楽になるのに……。
「大体、ヘンリクのことだって……」
そう言い出して姉さんに「個人名を出すな」と口を塞がれていた。
『H君』と呼ぶことにしたようだ。
ヘンリクのことは、まだ完全に納得したわけではないと言っていたから、心の中で嫉妬の炎を燃やし続けていたのだろう
「『H君』をあんなに見つめるのは理解できない!」
「俺を見ていればいいだろう? 他の男を見るのは、面白くない!」
そう言って、とうとう姉さんに
「レオンさんは……客観的には美形ですけど……私の好みとは違うんです」
そう言われて固まってしまった。
ちょっと可哀想だなと思った……。
だが……
「サーヤは癒し系が好きなんだろう?」
「そうですね」
「なら問題ないな」
(何が問題ないんだろう……?)
「俺だって癒し系だろう?」
そう言えば、前にも同じことを言っていた。
なんで、この人は自分を癒し系だと思い込んでいるんだ?
癒し系とは一番対極にいる人なのに……。
悪いとは思ったが、机を叩いて笑ってしまった。
だが姉さんは真剣だった。
「自覚がないのが、一番の問題なんです」
そう静かに言っていた。
「なぜだ? 俺は浄化魔法も治癒魔法も回復魔法も使えるぞ!」
なるほど、それで癒し系だと思っているのか……って、全然意味が違う!
俺が説明する。
「癒し系って、身体じゃなくて心を癒すんですよ。癒し系の代表は、穏やかで朗らかで、天使みたいに愛らしい美少年スね」
言ってみて思ったが、ヘンリクそのものだ。
「俺は違うのか?」
「完全にワイルド系ッスね」
「……そうか」
納得したのだろうか?
オーブリーに「俺は何系だ?」と聞かれたので、癒し系とワイルド系の中間くらいでバランスがいいと言っておいた。
だが、外見はそうだが、内面は完全に癒し系だと思う。一緒にいてこんなに安心できる人を俺は知らない。レオンの反応が怖いので黙っておいたが……。
姉さんも、
「正統派のイケメンよね。爽やかだし、日本なら広くモテるタイプ」
と言う。オーブリーは嬉しそうだったが……
「ずいぶん褒めるな」
レオンの機嫌が悪くなった。
友人を少し褒めるのも気に入らないのか……。
やっぱり「オーブリーさんは癒し系」だと言わないで正解だったかも。
「でも、この国ではレオンさんが一番モテるんスよね?」
そうフォローしようとしたが……
「サーヤ以外にモテても意味はない。むしろ鬱陶しい!」
そういえば、モテすぎるせいで女嫌いになったんだった。
本当に姉さん一筋なんだな。そこは好感が持てる。
『変』なところも姉さんの魅力だという点では、レオンと意見が一致した。
そして、とうとう姉さんに
「好みを変えろ!」
と言い出した。さすが最強の騎士だ。言うことが強い。だが、姉さんも負けていなかった。
「レオンさんが悪いんです」
「なぜ!?」
「美少年じゃないから……」
「はっ!?」
「レオンさんが美少年なら、一日中でも見ていたのに……」
これにはレオンも驚愕したようだ。
レオンが美少年? 無理だ。あの彫刻みたいな完成された「ワイルドな美貌」を崩して美少年にするのは、魔獣王を生き返らせるより難しい。
でも、本気でショックを受けて固まっているレオンを見ていると、少しだけ……本当に少しだけ、同情の涙がこぼれそうになった。
姉さんも失言に気づいたのか、
「すみません。レオンさんが美少年になるより、私の好みを変えるほうが、まだ簡単ですね……」
フォローにならないフォローをする。そして……
「私も、容姿について人を批判できる立場ではないので……」
そう言ったが、
「何を言っている? サーヤより綺麗な女などいないぞ」
言い切った!
俺でも、そこまでは口に出せない……。
「俺、レオンさんにお株を奪われていませんか?」
オーブリーにそう言うと、「そうかもな」と言われた。
姉さんが、オーブリーにレオンを止めてくれと頼んでいたが、オーブリーもどうすれば止まるのかわからないと言っていた。
だが、レオンは言いたいことを言って満足したようだ。
「今日はだいぶスッキリした」
「…………それはよかったです」
「誤解のないよう言っておくが、俺はサーヤが変でも好きだからな」
「…………ありがとうございます」
ともかく、レオンが姉さんを大好きだということはわかった。
オーブリーも、あんなに喋るレオンを見たのは初めてだと言っていた。
恋は男を饒舌にするのだろうか……?




