↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/28

第15話 勇者、血に刻まれた使命を知る

 食堂で皿に料理を載せていたら、「たくさん食べるようになったのね」、と姉さんに驚かれた。

 体つきが変わったと言うので、一緒に温泉に入ったら見せてあげるよと冗談を言ったら「楽しみにしてるわね」とあっさり言われて固まってしまった。


 一緒に風呂に入ったのは幼稚園くらいまでだ。まさか本当に一緒に入る気じゃないだろうなと思ったら、今度行く宿にはパレオみたいな布があって、それを巻けば大丈夫らしい。


 それなら四人で入れるねと言ったら、オーブリーが「俺もいいの?」と言い、レオンが「オーブリーもか!?」と言う。

 姉さんは「オーブリーさんもいいですよ」と言ったが、「サーヤはよくても、俺がよくない!」とレオンの物言いがついた。

 やっぱ余裕ないな、この人……。


 結局その件は保留になった。


 姉さんに、怖い目に遭ったりはしなかったのか聞いたら、魔獣が出た以外では、観劇に行ったときに化粧室で令嬢たちに囲まれて怖い思いをしたらしい。

 やっぱりあのアデリーナ嬢だけじゃないんだ。レオンが異世界人と付き合っているのを面白く思わない人たちは。

 だけど、姉さんが来る前から見向きもされていなかったんだから、姉さんのせいじゃないよな。


 そして、姉さんが思い出したように言った。

 博物館に行ったら、前勇者が俺たちのひいじいちゃんだったことがわかったと。戦死したと思われていたのに、違ったみたいだ。

 そこから、勇者はうちの家系から出るのでは、という話になり、オーブリーが「だったらサーヤも聖剣を抜けるのでは?」と言い出した。

 確かに、理論的にはそうなる。俺は姉さんに聖剣を渡した。「重い!」と言いながら姉さんが柄に触れると、俺のときと同じ、「カチリ」という金属音がして、白銀の光が刃の奥から溢れ出した。

 姉さんにも抜けた……聖剣が。姉さんも、勇者だった。


 姉さんは、自分が行ってもよかったのに、全部俺に背負わせてしまったと、震える声で言っていた。


「そんなこと、させるわけないだろ!」


 思わず言葉が強くなった。


「姉さんが行くくらいなら……、俺が何度でも行く」


 自分でも驚くほど低い声が出た。

 白銀に輝く聖剣を握る姉さんの手は、白くて細い。

 こんな手で、あんな化け物の返り血を浴びさせるなんて、想像するだけで吐き気がする。

 あそこに行くのは俺だけでいい。


「絶対に、行かせない」


 レオンが、弾かれたように俺を見た。その目にほんのわずか、敬意がこもっているように感じる。

 そして、どこか安心したような顔になった。


(この人も、俺がいてよかったと思ってるんだろうな)


 突然姉さんが俺の手を取って「賢斗。大好きよ!」と言う。「照れるじゃんか」と言ったら、「ちゃんと、言葉にして言わないと」と。

 レオンの件で学習したんだろうか。でも、俺はレオンとは違う。


「俺は言われなくてもわかるからさ」


 そう言ったら、またレオンが微妙な顔をしていた。

 ルーキス人は以心伝心って言葉を知らないんだろうな。いや、レオンだけかな?


 だけど、もし、あのときに俺と姉さんが一緒にいなかったら、どちらが呼ばれたんだろう?

 歳の順なら姉さんか? いや、それなら、じいちゃんや母さんのほうが上だ。

 勇者を召喚して八十過ぎのじいちゃんが来たら、この国の人も困惑しただろうけど。


 やっぱり若い男が優先なのかもしれない。俺が生まれていなければ、姉さんだったかもしれないけど……。


 あのとき、一緒にいて本当によかったと思う。万が一にも姉さん一人でこの国に召喚されていたらと思うと恐ろしい。


(やっぱり、過保護と言われても迎えに行ってよかった)


                ◇◇◇◇◇


 翌日、俺もオーブリーと一緒に博物館に行ってみた。


 姉さんが言っていたとおり、海軍の軍服と、色褪せた日の丸が展示されていた。その日の丸に、武運長久の寄せ書きと曽祖父の名前が書かれている。

 爵位を与えられても市井で暮らし、誰も娶らなかったという。

 帰れない故郷に残した家族のことを思いながら暮らしていたんだろうか……。


「ケントの曽祖父には本当に申し訳ないことをしたな……」

「いえ……」


 召喚されなかったとしても、生きて戦地から帰れた保証はない。

 それでも、二度と帰れないと知ったとき、曽祖父は何を思ったのだろう。

 妻子の顔を思い出し、二度と会えないことに絶望しただろうか。


 だが、曽祖父はそれでも役目を果たした。この国の人たちのために。


 戦地にいた人だ。魔獣王なんて恐ろしいとも思わなかったかもしれない。

 それよりもずっと、帰れないことのほうが恐ろしかったに違いない。


 俺の隣には姉さんがいる。

『帰れる』という希望がある。


 曽祖父は一人でこの国を救い、一人で故郷を想い、一人で生涯を終えた。

 曽祖父の孤独な心を思うと、涙が出てきた。


(俺が、姉さんと一緒に、ひいじいちゃんが帰りたかった日本へ帰るよ)


 展示ケースのガラスに落ちた涙を、俺は誰にも気づかれないように拭った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。