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フォーフーム戦機  作者: 女又心
終章 誰も知らない戦い

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わたしたちと、手を組みませんか?

 舞台は再び、絶対障壁に覆われたラストパラダイスへ――



 紫のHS――リステルクレイトのコックピットモニター越しに、ラストパラダイスの展望室で驚愕を露にしているアルバート改めアンフィビアンと対峙した正博とレイチェルは、一転、感情を押し殺した声音になって、正体が発覚した諸悪の根源に対し交互に語り掛ける。


「時の牢獄と化した地球で、僕らは博士の真の目的を知りました」


「地球を取り戻し、人類を救うだなんて真っ赤な嘘……自分の欲望を満たすために他星の人々の命を食い物にしておいて、盗人猛々しいにも程があります」


「そんな傍若無人の限りを尽くしたあなたも、僕たちの接近を許し、こうして絶対障壁内に閉じ込められた時点で詰みが確定。いよいよ年貢の納め時となりました」


「博士に残された道は次の二つ……一つは、大人しくお縄につき、あなたたち思念体のサンプルを欲している星間文明に引き渡される、モルモット生活が約束された惨めな末路。そしてもう一つは、このまま閉塞する絶対障壁内で押し潰されて圧死する、辛うじて尊厳が残された孤高の最期……」


 正博とレイチェルは声を揃えて、告げる。


「「さあ、どっちを選びます?」」


 事実上の降伏勧告に、アルバートの姿をしたアンフィビアンは、狂乱とも憤怒ともつかない歪な表情でリステルクレイトを凝視する。


『……く、くく……真実に辿り着いたのが、まさか一番愚鈍だと侮っていた君たち二人だったとは、流石のこの私も予想だにしなかったよ』


 言いながら、アルバートは傍らに表示させていたホログラムタッチパネルを片手で操作した。


 すると、彼が立っていた展望室中央の床が円形に切り抜かれ、上に乗っている博士ごと床下に沈み込んでいく。



 刹那、ラストパラダイスに異変が生じ始める。



 展望室の下部――ラストパラダイスの動力炉などメインシステムが存在するコアブロックが、HS格納庫や人工冬眠施設などが存在する区画から分離し、徐々に変形を始める。


 それはやがて人型を成し、リステルクレイトよりも一回り以上大きな巨大HSと化して、正博たちの前に顕現した。


『地球解放後、生体エネルギー確保前に万一戦闘が発生したケースに備えての保険だったが、よもやこのような形で役に立つ日が来ようとはな』


 巨大HSの両手指をにぎにぎと動かしながら、アルバートは語り始める。


『貴様らがアンダーソンに出立した後、密かに私はレプリノイドの素体を捨て、非常用に残しておいた本物のアルバート・ファルシオンの身体に憑依しておいたのだ。こんな盛りを過ぎた中年の生体エネルギーでも、少しの間なら十分戦えるからな』


 四肢を大きく広げ、巨大HSは臨戦態勢を取る。


『この機体で貴様らを打ち倒し、そのHSもどきが発生させている結界を解除することによって、私は独力で、この絶体絶命の苦境から抜け出してみせようぞ!』



「無駄ですよ」



 アルバートの血気盛んな意気込みを、正博は言下に全否定した。


「今頃この結界の外では、地球の次元断層を構築した連中が、博士を捕らえるために二重の鳥籠を形成しています。さっきも言った通り、完全な王手、チェックメイトなんですよ」


『なん……だと……』


 機体越しでも分かるほど目に見えて戦意を喪失しているアルバートに、レイチェルは畳みかけるように、ある相談を持ちかけた。



「そこで博士に提案なのですが……わたしたちと、手を組みませんか?」



『手を組む、だと?』


 耳を疑っている様子のアルバートに、正博とレイチェルは、その結論へと至った事情を明かし、真摯に説得を試みる。


「僕は、同じ、騙し利用されるにしても、赤の他人であるあなたや星間文明以上に、同胞でありながら、何の罪もない僕らを売り渡した地球の連中の方が、よっぽど許せないんです。他者を犠牲にして、今ものうのうと惰眠を貪っている輩に、何とか報いを受けさせたい……その復讐のために、博士(アンフィビアン)の力を貸して欲しいんです」


「この共同戦線を受け入れるのであれば、今すぐ結界を解いて、星間文明の目論見を破綻させることも(やぶさ)かではありません。もちろん、あなたを野放しにさせないための首輪は付けさせてもらいますけど」


『……ふ、ふふ……何だ、それは。下手(したて)に出ていると見せかけて、とどのつまり、ただの脅迫ではないか……!』


 正博たちの要求を、アルバートは断固突っぱねる。


『……私は、肉の枷から解き放たれた高次生命体。何者にも縛られぬ、自由にして至高の選ばれし存在なのだ! (いま)だ肉のしがらみに囚われている下等生物の分際で私を使役しようなど言語道断! あり得ん! あってはならぬッ!』


 癇癪を起こし、無様に喚き出したアルバートは、自暴自棄気味に巨大HSの右腕を振り上げ――


 そんな時、オープン回線を通して、声が聞こえた。



『――そうかい。そいつは残念、だ!』



 目にも留まらぬスピードで黒い影が一閃したように見えた、次の瞬間、巨大HSの右腕は、何もない宇宙空間に斬って落とされていた。


『…………な』


 制御を失った自機の(かいな)を呆然と見遣りながら、アルバートが絶句する。


『バリアフィールドを抜いて攻撃を通した、だと? そ、それに、今の声は……』


『意趣返し成功、っと。……この前はよくもやってくれやがったな』


 黒影の正体――黒道化然としたHS(ビスロエルクン)は、紫電を纏わせた鉤爪をちらつかせながら、巨大HSを威嚇する。


 アルバートがごくりと息なり唾なりを飲み込む音が、通信越しにはっきりと聞こえた。


『……光一、君……生きて、いたのか……』


『死んでいたさ。ほんの少し前まで、名実ともにな。……だが、訳も分からず()められて黙っていられるほど、俺は人間出来ちゃいないんだよ』


『そんな……馬鹿な……』


『おっと、驚くのはまだ早いぜ。なんせ、奇跡の生還を果たしたのは俺だけじゃないんだからな』

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