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フォーフーム戦機  作者: 女又心
真章 誰がために

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折り入ってお願いしたいことがあります

 チェイサーのツインアイがちかちかと明滅する。


『……何のことでしょう?』


「誤魔化しても無駄です。声紋から、さっきの赤と黒のHSに搭乗しているのが、わたしの知るお二人だということは既に分かっています」


『そうですか……。彼らが自分の意思で私に協力しているとは考えないのですか?』


「あり得ません。あの二人は、何よりも自由意志を尊んでいました。博士の指示にも嫌々仕方なく従っていた彼らが、今のあなたの話を聞いて反発もせず、すんなり助力を申し出るとは到底思えません」


「……え? 何? どういうこと?」


 一人蚊帳の外だった正博が目顔でレイチェルに説明を求めるが、それよりも先にチェイサーの方が口火を切る。


『別に隠すつもりもなかったので構いませんが、彼らは単なる保険ですよ。当初より、追い詰めたアンフィビアンを捕獲する最後の役目は私自ら全うする予定でしたから。そこに偶然、彼――光一さんと、彼の乗るレイルバインでしたか。死に体の両者が海の次元断層に流れ着いたものだから、念のため回収し、解析を進める内に、再利用を思い付いたに過ぎません』


「あの時、光一さんたちの身に何があったのか、あなたは知っているのですか?」


 半ば乞うようなレイチェルの問いに、チェイサーは特に嫌がらせをするでもなく、素直に回答する。


『私も、そちらの内部事情については分かりません。空の次元断層解除後、レイルバインが突然パージしたバックパックが直後に大爆発を起こしました。そして、自ら切り離したバックパックに対し、何故かレイルバインはその手を伸ばし――結果的に、機体は爆発の余波を受けて行動不能に陥り、そのまま海の次元断層へと墜落した……というのが、私が観測した客観的事実です』


「では、未知のウイルスというのは……」


『? 何の話ですか?』


 先程と違い、本気で知らない様子のチェイサーに、レイチェルはやおら瞑目すると、徐々に俯いていく。


 やがて。


「……セシルお姉様が、光一さんを守ろうとしたんだ……やっぱり、あの二人は進んで自爆したわけじゃなかった……!」


 喜怒が()い交ぜになった狂気じみた表情を浮かべるレイチェルを一瞥しつつ、チェイサーは続ける。


『保護した光一さんは右目を損傷しており、また、ほぼ廃人同然の状態でした。うわ言のようにセシル、セシルと繰り返すばかりで、満足にコミュニケーションも取ることができず……やむなく私は、義眼型の洗脳デバイスを彼の右眼窩に埋め込むことで、差し当たり彼の傷を治療しつつ、心身を制御下に置いています。そうでもしないと彼は、あのまま衰弱死していたことでしょうから』


「……色々と言いたいことはありますが、ひとまず、光一さんを救助してくれたことには感謝します。ですが、葉月さん――もう一人の女性の方は……」


『彼女については手負い(じし)というかなんというか……会話が全く成立せず、暴れて手が付けられなかったため、安全保障上、強引にでも制御下に置く必要があった、というのが正直なところです』


「どういうことです?」


 訝しげに目を細めたレイチェルに、チェイサーは当時を思い出すように虚空を見上げると、


『空の次元断層での戦闘記録、並びに手に入れたレイルバインの解析結果から、アンフィビアン()が編み出した新技術に関する情報を得た私は、早急に対抗手段を講じました。それが、アンチバリアフィールドシステムであり、スーサイドキャンセラーです。これら新機能の動作テストも兼ねて、私は葉月さんが駆るギルクラスターなるHSを、ほぼ万全の状態のまま海の次元断層の核まで(いざな)い、そこで、あらかじめこちらで開発を進めていた格闘戦用機ビスロエルクン――先刻の黒い方のHSと交戦させました。なお、本来ビスロエルクンは生体エネルギーが不要な無人機でしたが、レイルバインのコアブロックが無事だったことに加え、これに内蔵されているバリアフィールドが、思いの外汎用性が高く有用だったことを鑑み、捨て置くのは勿体ないので移植を決めた経緯があります』


「それが、識別信号がレイルバインと同じだった理由……」


『まあ、光一さんが先に話したような体たらくなので、現状は本領を発揮できているとは言い(がた)いのですけどね。……閑話休題、最終的にテスト結果は良好。アンチバリアフィールドは、相手がHDCEと呼ばれるオーバーブースト中でも問題なくエネルギー防壁の中和に成功し、苦し紛れに先方が起動した自爆装置も、無事キャンセラーで強制停止させることができました――が、この際の抵抗が予想を遥かに超えて苛烈だったこともあり、これを押さえ込む過程でギルクラスターは大破、葉月さんも左目を失う重傷を負うことになったのです』


「姉弟同士で争わせた上に、なんてことを……」


 いくらその背景を知らずとはいえ、微塵の罪悪感もなさそうに話すチェイサーに、レイチェルは空恐ろしいものを感じるかの如く自身の腕を抱いていた。


「……葉月さんが激昂するのも当然ですね。あなたは、それだけのことをしてしまったんです」


『いえ、彼女が憤慨したのは、それとはまた別の理由のようでした』


「別?」


 当てが外れてきょとんとするレイチェルに、チェイサーは、その理由とやらを明かす。


『回収したギルクラスターのコックピット内には、気を失った葉月さんとは別に、機能停止した自動人形が一体、リアシートに座していました』


「! シーラお姉様のこと――」


『レイルバインの時にはなかった要素ゆえ、念のため件の素体を解体して調査を進めていたところ、意識を取り戻した葉月さんが、偶然その作業現場を目にしてしまいまして……』


「解体って……ばらばらに、分解した、ってことですか?」


 世間話のように軽く口にしたチェイサーの証言に、レイチェルは戦慄した様子で言葉も出ないようだった。


『おそらく、人間と勘違いしてパニックを起こしたんでしょうね。後は、先にお話しした通りです。急に襲い掛かってきて、こちらの釈明には一切聞く耳を持たない葉月さんを、治療も兼ねて彼女の左眼窩に埋め込んでいた洗脳デバイスで制御することで、今は大人しくしてもらっています』


「……葉月さんは、シーラお姉様のために怒ってくれたんですね」


 レイチェルの力無い独白に、今度はチェイサーの方が怪訝そうにツインアイをしぱしぱと点滅させる。


『……よく分かりませんが、あなたがそう思うのなら、そういうことなのでしょう。――ちなみに、先程話題に上った〝あるもの〟というのが、この自動人形のことです。機械と生物のハイブリッドにして、この星の人間とほぼ同じ人体構造を持ちながら、何故か生殖器に相当する器官だけが模倣されていないという――』


 その後も、チェイサーの話は一方的に続けられた。


 幸い、鹵獲したギルクラスターのコアブロックも無事だったことから、こちらも、ビスロエルクンと共に開発を進めていた白兵戦用の赤いHS――アンナーストウィルクに移植を行ったこと。


 他にも、インザクアの次元断層を自発的に解いたのは、アンフィビアンに攻略作戦が成功したと見せかけることが目的であり、生体エネルギーのストックが底を突きつつある敵に、最後の攻勢に打って出させるための(ひと)押しであったことが明かされる。


 しかし、そういった諸々の余談も、すっかり心が折れてしまった様子の正博とレイチェルの耳には、ほとんどと言っていい程入っていなかった。


 抜け殻のように塞ぎ込んでしまった二人に対し、チェイサーは平然と相談を持ちかける。


『実は、あなた方に、折り入ってお願いしたいことがあります』

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