表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フォーフーム戦機  作者: 女又心
真章 誰がために

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/32

あなたたちは騙されています

 赤と黒のHSに連行された先は、思いも寄らない場所だった。


「し、島が、浮いてる……」


 日本から遠く離れた太平洋洋上、見渡す限り島一つ存在しない大海原。


 その上空1000メートル付近の空域に、全長一キロに及ぶ巨大な岩塊が浮かんでいた。


 件の巨岩は何らかの結界に包まれており、その内部には外界と異なり色彩もある。


 地表の中央部にはドーム状の構造物が佇立しており、それ以外にめぼしい建造物は見当たらなかった。


 唖然としている正博にレイチェルが問う。


「あのような浮遊大陸は珍しいものなんですか?」


「う、うん。少なくとも、僕は見たことも聞いたこともない。ラストパラダイスも、初めて知った時はすごいと思ったけど、あれは宇宙ステーションの延長というか、常識の範疇内でのすごさというか……。でも、目の前のこれは別格だよ」


「そうなんですね……。確かに、あれだけの質量を苦もなく宙に静止させている方法については、わたしも気になります」


 何やら技術畑の人みたいなことを言い出したレイチェルに正博が思わず笑みをこぼしていると、二人を乗せたヴァームラウスは例のドーム状の建物内へと運び込まれ、その中にある格納庫と思しきスペースの一画に収容された。


 機体の両サイドは、今も赤と黒のHSによって固められている。中から搭乗者が降りてくる気配はないので、引き続きこの二体はこちらの警戒を続けるものと思われた。


「……妙ですね」


 不意に、レイチェルが不可解そうな声を漏らす。


「妙って、何が?」


「ちょっと気になって調べてみたのですが、この施設内には、生体反応が三つしか存在しないんです。その内の一つは正博さんのもの。残りの二つは、赤と黒、各HSの搭乗者のものでした」


「……? それってつまり、どういうこと?」


 話が見えず当惑する正博に、レイチェルは神妙な面持ちで告げる。


「わたしの推測が間違ってなければ……敵は、わたしと同じ――」



 と、その時だった。



 外部からロックが解除され、ヴァームラウスのコックピットハッチが強制的に開け放たれる。


 展開した内部ハッチの向こうには、銃口をこちらに向けた人影が、静かに佇んでいた。


『手を挙げて外に出てください。大人しく従っていただければ危害は加えません』


「あ、あんたが、地球を奪った敵性体、ってヤツなのか……?」


 逆光になって姿がよく見えない相手に、正博はおっかなびっくり尋ねる。


 これに対し、目の前の人物は『違います』と即否定した。


 正確には、それは人ではなかった。


 目が慣れてくるに連れ、次第に明らかとなっていく相手の全容。


 五体は白、関節部は黒といった、モノトーンカラーの金属ボディ。


 両目に当たる部位のみレンズのような材質となっており、時折HDDのアクセスランプのように黄色く発光しているのが見て取れる。


 全身機械仕掛けのその人形は、口を開く代わりにツインアイを点滅させながら言った。


『私は、この星から遥か彼方に存在する、とある星間文明より派遣されたメッセンジャー――追跡機構29号、その対話型インターフェイスユニットです。便宜的に〝チェイサー〟とでもお呼びください』





 機体から降ろされた正博とレイチェルは、チェイサーと名乗った機械人形によって、引き続き別の場所へと連行されていた。


 彼ら(チェイサー)が保有する施設は、ラストパラダイスに負けず劣らずの殺風景な所だった。正博が知る由もないが、彼が目覚める前、最初に光一が活動を開始した頃の生活感の無さに比肩すると言ってもいい。


 それはつまり、この施設も在りし日のラストパラダイスと同じく、人間が長期間滞在することをあまり想定していない、と言い換えることができた。


 やがて二人は取調室然とした簡素な一室へと案内され、そこに入室するなり、床からにゅっと飛び出してきた椅子的なオブジェクトに腰掛けるよう促された。


 正博たちが、謎テクノロジーの腰掛けを気味悪そうにさわさわした後、ようやく座ったのを見届けると、チェイサーは待っていたように『さて』と話を切り出した。


『まず始めに、あなたたちの誤解を解かねばなりません』


「誤解?」


 鸚鵡返しする正博に、チェイサーは首肯する。


『あなたたちはおそらく、衛星軌道上にある人工天体の管理者から〝この星は敵に奪われ封印された、奴らの手からこの星を取り戻さなければならない〟といった趣旨の説明を受けているかと思います』


「……それが何か?」


 疑わしげな眼差しを向けてくるレイチェルに、チェイサーは続ける。



『それは全くの嘘、事実無根の虚構です。あなたたちは騙されています』



「「は?」」


 揃って呆けた声を上げる正博たちに、チェイサーは淡々と新(珍?)情報を列挙していく。


『あの人工天体に巣食う存在こそ、最初にこの星の人間を襲った厄災そのもの……。そして、()の者が取り払おうと躍起になっている、この星を覆う次元断層……。これは決して、この星を閉じ込めるための封印などではなく、むしろ、この星の人間を護るべく張り巡らされた防御機構なのです』


 そこで一旦言葉を切り、少し間を置いた後、チェイサーは告げる。


『次元断層を構築したのは、この私……。私を遣わした文明もまた、彼の存在――実体と思念体、二つの(そう)を持つ生命体アンフィビアンにより害を被った罹災者でした』


「二つの相を持つ生命体……」


「アンフィビアン……」


 途方もない話に完全に気圧されている正博たちに構うことなく、チェイサーの話は続く。


『アンフィビアンは、実体から思念体に自らを昇華させることで、肉体の束縛を離れ、半永久的に存続が可能な高次生命体です。とはいえ、彼らも完全無欠ではなく、思念体の状態維持には多大な生体エネルギーが必要でした』


「生体エネルギー……。まさか、それの大量確保が目的で、そのアンフィビアンってのは地球やチェイサーの星を狙ったの?」


 正博の問いに、チェイサーは頷く。


『その通りです。この星の人間や、私の生みの親である文明人のような知的生命体の生体エネルギーは、アンフィビアンにとって効率のよい格好のエネルギー供給源。なので、その数を不必要に減らすことは彼らにとっても望ましくないため、基本的に彼らは直接的な武力行使はしてきません。思念体という捉えどころのない特性を活かして対象の星にじわじわと忍び寄っては住民のアブダクトを繰り返し、あらかじめ用意しておいた根城に生体エネルギーのストックを貯蔵していく……それが彼らの常套手段となります』


「ま、待ってください。それって、もしや、ラストパラダイスは……」


 顔を青ざめさせて口を挟んだレイチェルに、チェイサーはただただ機械的に応じる。


『衛星軌道上の人工天体のことを指しているのであれば、察しの通りです。あの施設は、この星の人間が種の保存のために建造した人工冬眠施設などではなく、彼らアンフィビアンが資源を保管しておくために拵えた冷凍睡眠装置に過ぎません。そして、今にもそのストックは尽きようとしているはずです』


「そんな……」


 自身も知らされていなかった衝撃的な真相に、さしものレイチェルも言葉を失う。


 彼女と入れ替わりに、正博はチェイサーに食って掛かる。


「ま、まるで見てきたように語るけどさ、君の話が荒唐無稽な法螺じゃないって根拠はあるの? 出会い頭にいきなり僕らは騙されているだ、真実はこうでしたなんて言われても、すぐには信じられないよ」


『論より証拠、ですか。確かに、その疑問はもっともだと思います』


 チェイサーの両目が、暫し考え込むように消灯する。


『――一つ、確たる事実をお伝えすると』


「?」


 目顔で次を促す正博に、チェイサーは事も無げに告白した。


『何を隠そう、この星の現況を導き出したのは、ここにいる私です。いわゆる黒幕のポジションに当たります。アンフィビアンが全ての元凶であることに変わりはありませんが、かの厄介な存在も、今の所は私の想定通りの動きしか見せていない、単なる脇役でしかありません』


 気持ちドヤ顔で告げてきた機械人形に、正博は頭を抱える。


「……ごめん。君が何を言っているか、僕にはよく分からない」


『ふむ、それは困りました』


 言うほど困ってなさそうな軽い感じでチェイサーは肩をすくめる。


『……とりあえず、今の前提を踏まえた上で、私が知得しているこれまでの経緯を、順を追ってあなた方に開示したいと思います。私の母星とアンフィビアンの間に起こった事の顛末。私たち追跡機構が全宇宙に派遣されることになった理由。それがこの星の現状とどう繋がっていくのかを。その過程で、あなたがあの人工天体で眠りに就いていた背景なども明らかになることでしょう。俗に言う、ネタバレ、種明かしという奴ですね』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ