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新たな課題

 振替休日も明けて、今日から通常日程だ。

 アパートから車で通学する学校にもすっかり慣れて、毎日に少しずつだけど余裕が生まれてくるようになった。


 文化祭も終わってすっかり落ち着きを取り戻した日常の1日目も、終わりを迎えつつある5限の終わり、日直の男子から教師水野が呼んでいると言われたので、部活に出る前に職員室へと行った。

 私を見るなり、教師水野は言った。


 「七海君に何か言ったのは君か?」

 「は!?」


 私の表情から悟った教師水野はぼりぼりと頭を搔きながら


 「申し訳ない。実は今朝から彼女に車を探して欲しいと何度もせがまれていてな。別に探すのはやぶさかではないが、彼女の場合はその前にするべきことがあるだろうと思うのだ」


 と本音を吐露した。

 七海ちゃんったら、昨日の舞華ちゃんの話を真に受けちゃったんだ。

 いや、真に受けるのは悪い事じゃないんだけど、いくら善は急げと言っても、七海ちゃんはその前に免許を取らなきゃいけないし、七海ちゃんの誕生日まではゆうに半年はあるのだ。

 いくらなんでも、気が早すぎだ。

 七海ちゃんは真っ直ぐな娘なんだけど、その真っ直ぐさが間違ったベクトルに向かうと、始末に負えなくなってしまう。


 「ちなみに、七海ちゃんは何を探してくれって言ってたんですか?」

 「やっぱり何か知っているのか?」


 興味が湧いて訊いてみたのだが、教師水野に感づかれそうになってしまったので


 「いえ、知りませんけど、個人的に七海ちゃんがどんな車に興味があるのかを知りたくて……」


 と誤魔化した。

 教師水野は、疑惑の視線で私を見ていたが、諦めたのかため息をつきながら


 「特に指定しないがFR車だと言うのだよ」


 あぁ、七海ちゃんは昨日舞華ちゃんに半ギレされた押し問答の意味が分かってないんだね。

 だから、何でも良いけどFRなんて言ったら、軽トラックだって条件に当てはまるんだよ。

 すると、教師水野が


 「なので、彼女に言ったのだ。貴殿の条件だとキャリィも当てはまるが良いのかと、そしたらそれは困るというのだよ。まったく……」


 頭を抱えながら言った。

 やっぱりそこにツッコんだんだね。

 七海ちゃんも、なんでも良いなんて言われた人を困らせるような事を言っちゃダメだよ。

 あとで注意しなくちゃ、そう思っていたところ


 「本人にも直接言ったのだが、燈梨君からも七海君に、まずは免許取得の事に集中するように伝えて欲しいのだ」


 と教師水野に念を押されてしまった。

 まさか用事って、その件だったのかと思ってその場を立ち去ろうとしたところ


 「待ちたまえ。ここからが本題なのだ……」


◇◆◇◆◇


 教師水野から長々と説明を受けた内容はこういう事だった。

 部員も鰻登りで増え、出場した大会は2つとも初年度から優秀な成績を収めた事から、来年度からの部費の大幅アップが認められた上、部車の増車にもOKが出たそうだ。

 そこで、現状シルビアだけになっている校外移動用の部車を増車する事にしたのだそうだ。

 こうすれば、春以降、仮免許を取得した部員の練習と、校外への用事で出かける事がバッティングしても、どちらかを中止せずに済ませる事ができるようになるのだ。


 更に言えば、その車は前から待望されていた4WDの部車なのだ。

 今はサファリがあるので唯一の存在ではないけど、サファリの4WDは悪路走破のために必要とされているもので、私たちの部として必要なハイパワーを有効に地面に伝えるという目的とはちょっと外れているのだ。


 そして、教師水野は3年生にその車を『卒業制作』という名目で修理させて使えるようにしているのだという。

 なので、当日にやって来た3年生を驚かせるような出迎えを考えて準備するのと、3年生はあくまでサプライズとして動いてもらうので、当日まで気付かれないようにして欲しいという話だった。


 私はそれを聞いてちょっと気が重かった。

 人に秘密を持って生きるのはあまり好きではなかったからだ……。

 そして、もう1つ気がかりがあったんだけど、その日は特に何も言わずに部活動を進めた。


 文化祭も終わったので、今週は前半で文化祭用に作った車の片付け作業を行う事になっていた。

 特に、七海ちゃんの作ったナスカー風のチェイサーはカッコ良いんだけど、この車高でこの仕様だとダートコースの第二練習場では亀の子になっちゃうから、ノーマルに戻すみたいなんだ。

 教師水野から車高調が抜けてることを指摘されていたので、オーバーホールに出す事もあってのノーマル戻しなんだけど、なんかこのサスペンション、外した時と色が違ってない? 


 「ツアラーS用みたいですよ」


 そうなの沙綾ちゃん?

 確か、チェイサーは豪華グレードのアバンテ系と、スポーティなツアラー系に別れてたよね。

 確かにこのアバンテのノーマルって、ギャップを乗り越えてもしなやかに収まる反面、通常時はグニャグニャで、今一つしゃっきりしない感じがあったけど、ツアラー用になるとそれが緩和されるのかな?


「取り付けは任せるっスー!」


 七海ちゃんが張り切ってチェイサーをジャッキで上げている間、私は競技車の2台の後片付けを行っていた。

 ノートとエッセには、レギュレーション上取り付けできないウイングやカナードをつけて目立たせてたんだけど、文化祭が終わったから取り外す事にしたんだ。


 固定はさせていないから、サッと外して来年に向けてロッカーの中に仕舞っておいた。

 来年は出店もするだろうし、今年みたいなアクシデントも起こらないだろうから、車の展示も絞る事になるだろうけど、来年も成功すると良いな……と思いながらロッカーを閉めてから紙に『文化祭用 競技車エアロパーツ』と書いてドアに貼った。


 すると背後から


 「入らないっスー!」


 と七海ちゃんの声がしたので見てみると、車高調を外した後にノーマルサスが入らず、ハンマー片手に喚いている七海ちゃんの姿があった。

 私は、状況を見ると沙綾ちゃんと一緒に止めに入った。


 「ダメーー!!」

 「放すっスー!」


 七菜葉ちゃんと陽菜ちゃん、更には1年生の真由ちゃんと若菜ちゃんも入ってようやく七海ちゃんを取り押さえる事に成功したよ。

 ハンマーでロアアームを叩こうとするなんて自殺行為だよ……。


 「七海ちゃん。サス交換する時は左右両方ともジャッキアップしないと、スタビライザーが効いていてロアアームが下がってこないんだよ」


 私は説明した。

 スポーティ車や上級車の左右のサスペンションは、スタビライザーという鉄の棒で接続されていて、それによってカーブでの横傾き(ロール)を抑制してるんだけど、片方だけジャッキアップしちゃうと、接地して縮んでいるサスペンションに合わせてスタビライザーが働くから、ジャッキアップされたサスペンション側の伸びが抑制されちゃうんだよ。


 「ええっ!?」


 1年生と七海ちゃんが驚いていた。


 「ナミは、本とか読まないで実践で覚えるタイプなんです……」


 沙綾ちゃんが耳打ちした。

 だけど、車の場合はそれだと怪我する可能性があるから、予行演習的にネットででも調べてからやった方が良いと思うよ。


 「何か手伝う事はあるかい~?」


 という声とともに後ろからやって来たのは舞華ちゃんと3年生だった。

 文化祭後は、3年生は実質引退という事で月水金の3日だけお手伝いという形で来てもらう事になっていた。


 なので、七海ちゃんの作業の監督をお願いしている間に私たちは片付けに入った。

 今日は3年生が部にいる日なので、あのことに関しては触れないでおこう……。



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