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振替休日

 文化祭は盛況のうちに終了した。

 去年まであったキャンプファイヤーは、柚月ちゃんが去年、燃料にガソリンを混ぜて燃やして大騒ぎになって廃止されたために、片付けを済ませると解散になって翌日は振り替え休日になった。


 2日目はあの後、色々な展示をみんなで回ってみて、色々と参考になる工夫や出し物のアイデアの気付きがあって凄く良かった。

 フー子さんはあの後も相変わらずで、コーラと炭酸のペットボトルを思いきりシェイクして、どちらの蓋の方が遠くまで飛ぶか……なんて事を真剣にやってみせて、結果、沙織さんとミサキさんに物凄く怒られていた。


 あとで確認したんだけど、部のみんなも、しっかり他の展示とかを楽しんで来られたみたいだから、まずは一安心しちゃったよ。

 私が自分の事ばかりで周りが見えてなかったから、部のみんなまでブースに縛り付けちゃったんじゃないかって思って申し訳なかったんだけど、七海ちゃんや沙綾ちゃんが上手く時間配分を割り振ってくれたおかげで、1年生も初めての文化祭を堪能できたって喜んでいたんだ。


 そして、お休みの日の午後は舞華ちゃんが訪ねてきたんだ。

 例のサンバイザーの件で、折角だから善は急げでやっちゃおうって言われて、何故か舞華ちゃんが用意してきたS14の助手席のサンバイザーをバラバラにしてミラーを外して、私の車の運転席のサンバイザーを加工して取り付けたんだ。

 どんな凄い事をするのかと思ったけど、ミラーを外して、運転席サンバイザーをカッターで切って中身をほじくり出して、上手く整形した後でミラーをボンドで貼り付けるだけなんだね。


 あまりにあっさりできたので、ボンドが乾くまでの間、カー用品店に行って、唯花さんが言っていたサンバイザーの照明をつける作業に関して色々見てみたところ、LED照明工作キットみたいなコーナーが作られていて、それっぽいキットがあった。

 そこでの例は、グローブボックス照明が無い車につけてみるという題材だったけど、恐らくこの原理をそっくり応用すればサンバイザー照明にも使えるな……と思った。


 それを見て思ったのは、女子力に関して言えば、こういったカー用品店に売っているものを組み合わせていって完成させても、自分なりのセンスが光るものであれば女子力っていう点では完成していて、形にもなっているのではないか? という事だった。

 みんなからアイデアを募集して、1台の車に纏めていって来年の展示までに1つの完成体として展示するのもアリじゃないかな……と、おぼろげながら感じてきた。


 私は、舞華ちゃんと一緒に店内を回りながら、色々な無料配布のパンフレットなんかを貰いながら、カー用品についても勉強してみようと思った。

 すると、舞華ちゃんがある一点を見て止まっているので、何があるのかと思ってその先を見ると、そこにはマフラーの売り場の前で腕組みをしながら考え込む七海ちゃんの姿があった。


 免許も車も持っていない七海ちゃんの意外な登場に一瞬驚いたが、舞華ちゃんは人差し指を口に当てて『しぃー』のポーズを取ると、七海ちゃんの背後に音を立てずに近づき


 「オイ荻原! 振替休日に車を違法改造する準備か? 停学だな!」


 と敢えて低い声を作って声をかけた。


 「どわぁ!!」


 と言って飛び上がった。

 漫画やアニメで見た事あるけど、人って本当に驚くと飛び上がるものなんだって事を私はその時初めて知った。


 七海ちゃんはゲホゲホと咳込んだ後で


 「マイ先輩! 酷いっスよー。心臓が止まるかと思ったじゃないですかー!」


 と喚いた。

 舞華ちゃんは冷静に


 「驚くって事はだよななみん、違法改造する気、満々だったって事だよね」


 と返した。

 私は、七海ちゃんに


 「ところで七海ちゃんは今日はここに何の用事だったの?」


 と訊くと、七海ちゃんはちょっとドヤ顔になって


 「私は、車を入手したシミュレーションで、まずはどこからいじっていくのかを考えていたところです!」


 と言ったが、舞華ちゃんが


 「ちなみに、ななみんはどんな車に乗るつもりでいるんだい?」


 と訊くと


 「いや、特に決まってないっス!」


 と即座に返してきたので


 「それじゃぁ意味ないじゃん! どの車にするかも決まってないのにパーツを探してみても何の参考にもならないじゃん!」


 と舞華ちゃんが呆れ気味に言って放った。

 すると


 「いやいや、脳内でシミュレーションして準備することで、免許取得へのモチベーションも上がり、試験の合格率も上がるんです!」


 と凄い理屈を言うので、私も舞華ちゃんもそれ以上の追及はしないでおこうと思った。

 

 「ところで、七海ちゃんは今日は何で来たの? まさかとは思うけど、お祖父さんの軽トラックに乗ってきたりしてないよね?」


 私は思わず訊いてしまい、舞華ちゃんもちょっと表情を引きつらせていた。


 「いくらなんでもそんな事しないっスよ。今日はバイクで来たっスよ」


 私たちはホッとした。

 沙綾ちゃんの話では、七海ちゃんは気を抜くと、とんでもないことをしでかしたりするため常に注意が必要らしい。


 そして、2階のフードコートに移動した私たちの話題は自然と車のものとなっていた。


 「燈梨さんはいいっス! 最初からシルビアとかに乗っていて羨ましいっス!」

 「毎月の支払いがあるから、決して楽じゃないんだよ。それに、ガソリン代も高いし……」


 ちょっとやさぐれる七海ちゃんをなだめるように言ったが


 「でも、楽しいんですよね?」


 と訊かれたので


 「まぁね」


 と答えると、七海ちゃんは眉間にしわの寄ったような表情になって


 「はぁ~っ! 私も早く免許と車が欲しいっス!」


 と言うので、私は訊いた。


 「じゃぁ、七海ちゃんは何が欲しいの?」

 「何でもいいっス」


 困った回答だ。

 それは、料理を作る時に言われて一番困る回答と似ている。

 なにを食べたいかを聞かれて『なんでもいい』という回答をされる事ほど、困った事は無いのだ。

 そういう人に限って、出されたものに対してリクエストが多いのが相場なのだ。

 すると、私の脇でニコニコしながらも少しイラっとした表情になっていた舞華ちゃんが言った。


 「じゃぁ、ななみんには練習場の整備車に使ってるプレミオを贈呈するよ。校長の元愛車だから内申点もバッチリだ!」

 「いや、あれはいらないっス!」


 即答した。

 ホラ、やっぱり何でもはよくないんじゃん!

 すると、舞華ちゃんが


 「なんだよななみん、『なんでもいい』って言っただろ。柚月みたいな事言うなよ! アイツも好き嫌いが激しいくせに何か聞くと『なんでもいい』とか言ってさ」


 と詰め寄った。


 「いや、できればFRで……」

 「じゃぁ、クラウンだね。タマ数豊富だよ」

 「それは無いっス!」

 「なんでだよ、FRだろー!」

 「いや、スポーティなのがいいっス」

 「じゃぁ、クラウンアスリートだね」

 「だから、クラウンは無いっス!」

 「なんでだよ、スポーティなFRだろー!」


 七海ちゃんが逃げ道を作ろうとすると、舞華ちゃんが徹底的に退路を塞ぐ掛け合いの末、どうやら七海ちゃんも、七菜葉ちゃん同様FR車が良いみたいだ。


 「私は雪の日もバイクに乗っていたので、やっぱり後輪をコントロールするのが性に合ってるっス!」


 と言ってから


 「でもって、予算があまり無いので、それはまた夢の話になりそうっス!」


 とつぶやくと舞華ちゃんが


 「だったら、水野に相談すれば良いじゃん! 何か探してくれるよ」


 と事も無げに言ったので、私も七海ちゃんも驚いた。

 私のイメージする教師水野は、いつもボーっとしたような表情で背後霊のように現れるイメージで、おおよそ車好きそうには見えないのだが、よく考えてみるとこの部を創部したのは彼女だと聞いているし、一昨日、彼女の車がカプチーノだという事実が判明したのもあって、存外、あり得ない事も無いのではないかと思えてきた。


 そんな表情が、私たちからにじみ出ていた事を察した舞華ちゃんが


 「だって、結衣の最初のR32を探してきたのも水野だからね」


 と言うと


 「ええっ!?」


 と七海ちゃんが驚いていた。

 なるほど、舞華ちゃんはきちんと裏付けがあって言っていたんだね。

 次の瞬間、七海ちゃんの表情が妙に明るくなっている事に私は気付いていたけど、敢えて触れない事にした。

 


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