最初の練習
1年生が入部して遂に私も3年生になったという実感がわいたんだ。
そんな1年生を交えた最初の部活動では、自己紹介の後に私から活動の抱負について話したんだ。
「今年度は現段階で、ジムカーナとダートトライアル、そして軽自動車の耐久レースに出場する事が決まってるから、その近くでは、その車の製作に当たって、他は適時部車の整備と運転練習を行っていくよ」
と言うと、1年生から手が挙がって
「あの、1年生でも運転の練習ってできるんですか?」
と質問が出たので
「練習できる車は、助手席ブレーキ付きの1台だけに限定されるけど、できるよ。ただ、現段階で免許があるのが私だけだから、ちょっと1日で全員は難しいかな」
と言うと、1年生から『おおっ』という歓声が上がって、更に1年生から
「もしかして部長さんの車って、駐車場にあるシルバーのシルビアですか?」
と聞かれたので
「え? あぁ、そうだよ」
と答えると、1年生から物凄い『おおっ!』という歓声が上がったんだ。
まだ4月になったばかりの現段階では、3年生と言えども免許取得者は、留年したために2年生の段階から持っていた私だけなのだ。
恐らく、新入生はそこら辺の事情を知らずに無邪気に訊いてきたのだと思うので私も特に気負う事もなく答えたところ
「凄いですっ! 私もああいう車に乗りたいです!」
「カッコいいです! シルビアを颯爽と乗っているなんて」
と凄く感激されてしまったのには、私もどう対応したら良いのかが分からずにいたんだ。
新入部員の人数が多いため、沙綾ちゃんと莉緒ちゃんの三班に分かれて部車の紹介をしていったんだけど、やっぱり人気が高かったのはRX-7とスカイライン、そしてシルビアだったんだよ。
これは元々予想していたんだけど、私の予想をはるかに超える熱量だったのにはやっぱり驚いちゃったよね。
「実物のFCなんて初めて見ましたっ!」
「こんな沢山R32があるんですかっ? 凄すぎます!」
「S13のオープンなんてあったんですねっ!」
「これって、部長さんのと同じシルビアですかっ? カッコいいです!」
なんて感じで、歓声が止まなかったんだよね。
ただ反面、パルサーやミラージュ、クルーやブルーバードなんかにはほとんど反響が無いあたり、やっぱり彼女たちのクルマ知識は、恐らく偏ったソースから得た情報なんだろうね。
陽菜ちゃん曰く、ドリフト好きとかだったら、クルーやセフィーロもそれらの世界ではレジェンド級の車種だけに、あったら大騒ぎするはずだって言ってたから、恐らく漫画やら映画の影響かな?
ただ、沙綾ちゃんの班に当たった娘たちは、恐らくその熱い思いを懇々と聞かされたんじゃないかと思うんだよね……。
あとは第二練習場に行って、そっちの説明と部車の紹介もしたんだけど、意外に人気だったのはサファリだったね。
ここって降雪地帯だから、こういう車って珍しくないだろうって思ってたんだけど、さすがにサファリのクラスになると珍しい上に、もう車が古いから見かける事もないらしくて
「ゴツ可愛くて凄いです~!」
「このエグさがたまらないです!」
「こんな車に乗ってみたいですっ!」
なんて騒ぐもんだから、私がデモンストレーション代わりに運転して、ちょっと土手を乗り越えてみせたら、それはそれは大盛況だったんだよ。
これで文化祭の時みたいにウインチの実演なんかしたら、収集つかなくなっちゃうんじゃないかな?
ひと通りの部車の紹介が終わったところで、実際の運転練習がどんなものになるのかというのを知ってもらうために、七海ちゃんに教習車を運転して貰って、私が助手席、新入生2人が後部座席に乗って貰って練習体験をして貰ったんだ。
七海ちゃんにやって貰ったのは、もうすっかり慣れてきて運転に不安もないし、それにあることも体験してもらうためなんだ。
立候補してきた2人の新入生をスカイラインの後ろの席に座らせ、シートベルトをして貰うと、七海ちゃんに合図をしてスタートしたんだ。
「これがサンニーの室内なんだね」
「後ろじゃなくて前に乗りたいね」
なんて感激しながらも妙なところに冷静な事を言っている新入生たちに、私は運転の仕方をレクチャーしていった。
「運転の肝はハンドル操作もさることながら、上手な左足さばきだからね。七海ちゃんの左足の動きに注目だよ」
なんて言いながらも、私と七海ちゃんはこの後の展開を知っているのでほくそ笑んでいたんだ。
順調にいつもの練習コースを2周回って、本来ならそこで止まって交代っていうところでそれは起こったんだよ。
止まるはずの七海ちゃんが、突如急加速を始めたんだ。
「えっ!? 先輩どうしたんですか?」
「七海ちゃんどうしたの? もう終わりだよ」
新入生と私が声をかけると
「まだこれからっスー!」
と言って、猛然とスピードを上げ始めた。
「ダメだよ七海ちゃん! 次がいるんだからすぐに止まらないと……それに、飛ばし過ぎだよ!」
「これが自動車部だって、教え込むっスよー!」
私の問いかけにも七海ちゃんの暴走は止まらなかったんだ。
「いやー-っ!!」
「七海先輩! 怖いですーー!」
後席の新入生2人がすっかり恐怖に怯えるなかで、私はそろそろだな……と思い
「はい、1年生の2人、よく掴まって見てて」
と言うと、思い切りブレーキを踏んだんだ。
すると、車は見る見るスピードを落として、すぐに止まったんだ。
「こうやって、暴走した時もきちんと止められるように、1、2年生の練習走行は基本的にこの車メインで行ってるからね。そして、この車でも暴走したらこうなるからね」
私は、脱力しかかっている後席の2人に言った。
実は、このスカイラインは本物の教習車なんだけど、教習車ゆえに一番下のランクのエンジンが搭載されていて、それは今の水準で考えると低性能な1800ccのシングルカムエンジンなんだ。
だから、今の2年生からの評価はボロクソだったんだよ。
なので新入生には、何故、この車メインで練習するのかの理由と、この車の実力でもこのくらいの走りはできるっていう事を分かって貰おうと思ったんだよ。
このショック療法の効果はてきめんだったようで、肩で息をしていた後席の2人が
「車の運転を舐めていると怖いっていう事を知る事ができて良かったです!」
「パワーが無くても、運転次第で凶器に変わるっていう言葉の意味が分かりました」
と口々に言ったので、私は安心して、次の新入生に交代して貰おうと思ったんだ。
その時、七海ちゃんも後ろの2人の方を向いて
「分かったっスか? テンパチのR32でも、この練習場でなら、ちゃんとドリフトできるくらいのパワーがあるっスー!」
と言ったんだよ。
すると、後ろの2人の目が急に輝き出して
「ホントですか?」
「じゃぁ、私たちもこの車で練習して、ドリフトできるようになりたいですっ!」
と言い出したんだよ。
「せっかく、新入生に変な気を起こさずに運転の基本を覚えて貰おうと思っていたのに、アマゾンが余計な事言うからだよっ!」
私は思わず、空気を読まない事を言った七海ちゃん……もといアマゾンにイラっとして言ってしまった。
「アマゾンじゃないっスー!」
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