最大派閥
入学式当日は、各部が殺伐としたものだった。
野球部とサッカー部、バスケ部とテニス部が体育館の出口近くを争って掴み合いのような状態になっていたけど、生徒指導の加藤が常駐してその辺を見張るようになったため、表面上は大人しくなっていた。
私は、正直加藤はいい加減にして欲しいって思ったんだよ。
だって、あれらの部同士でつぶし合って、挙句共倒れになった日には、自動車部が勧誘の先頭になってメリットだけしかないんだよ。
だから、下手に睨みをきかせて、みんなを委縮させないで欲しいんだよね。
でも新入生の第一弾が、体育館から校庭に出てくると、さっきの4部は我先にと争い出して、また掴み合いの状態に戻ってしまったんだ。
しかも、誰かが手を出したみたいで、私がひそかに望んでいた4部による潰し合いが始まってしまったんだ。
こうなったらこっちのもので、4部の揉め事を避けてきた新入生を、2年生が一斉に声をかけてブースに誘い込んだんだ。
なんか、例の4部に入部希望で話を聞きに来た新入生も、取っ組み合いまで始まっている状況に『ダメだこりゃ』と諦めて、彼らのブースを避けたんだ。
そこに、ダメ押しのシルビアの屋根のオープン実演をやってみせたもんだから、注目と、話だけでも聞いてみようという層が一挙に押し寄せてくるっていう異常な状態になったんだ。
あとは、若菜ちゃんたち2年生が勧誘してきて連れてきた娘に対する説明なんかに関しては、私たち3年生が引き受けたんだ。
元々あの4部を希望している娘も多いから最初は、ドライブしたりするサークル活動的なものを想像して、あんまり乗り気じゃなかったんだけど、大会に出て他校と闘う……なんてフレーズが出てきたら凄く乗り気になっちゃう娘も結構いたんだよね。
それから、柚月ちゃんがいたり、今でも七海ちゃんや沙綾ちゃん、七菜葉ちゃんがいるから、それらの娘を慕ってる格闘技系の新入生とか、若菜ちゃんのファンの娘とかが積極的に足を運んでくれていたんだ。
そう言えば以前に格闘技系の部やサークルの部長の娘たちが来て、有力な選手候補の娘が自動車部を希望して移籍するケースが多いから、掛け持ちを認めて欲しいってお願いされた事があって、その時は柚月ちゃんが調整してくれたんだけど、今回はその辺の調整は大丈夫かな?
「あぁ、その辺は大丈夫っスよ!」
「本当に? まさかとは思うけど、シメるとか言って暴力に訴えてるんじゃ……」
「私を誤解してないっスか? 一応、生徒会にいたんっスよ。きちんと話し合いで解決しました」
「だから、その話し合いの場を10人で囲んで有無を言わせなかったとか、自動車部に文句言ったら小指を……とか言っての話し合いなんじゃないの?」
「燈梨さん。いい加減にしないとホントに怒るっスよ。そんな事、するわけないっス!」
七海ちゃんの自信満々すぎる返答に不安を募らせて、突っ込んで聞いていったところ、七海ちゃんを不機嫌にさせてしまった。
「私もその場にいたけど、そんな事させてないから大丈夫。あんなナミでも、話し合いくらいできるから」
と沙綾ちゃんが言って
「沙綾っち! 聞こえてるんだよ。『あんな』ってどういう意味だよぉ!」
と七海ちゃんが言ったけど
「あそ、みんな~聞いて聞いて! ナミは中一の時に学校のプールにおし……」
「やめるっスー-!!」
「だったら、さっさと配置に戻る!」
沙綾ちゃんの言った衝撃の一言に慌てふためいていた。
うーん、何をやっちゃったのか何となくは分かる気がするんだけど、今日のところは聞かなかった事にしておこう。
しかし、舞華ちゃんもこうやってよく柚月ちゃんの秘密をネタに言う事を聞かせていた気がするね。この部の伝統なのかな?
でも、幼馴染ってこういう互いの色々な事を知っていて、楽しそうだなと思うと共にちょっと嫉妬しちゃうところがあるのは、私がずっと一人ぼっちで過ごしてきたからなんだろうね。
話を戻すと、話を聞きに来た新入生から多かった質問っていうのは、どんな部車があるのかっていうのと、競技ってどんなのに出場するのかって事だったので、答えたり、資料を見せたりして納得して貰ったんだけど、やっぱりと言うか、シルビア、スカイライン、RX-7の人気が圧倒的だったんだ。
反面、競技に関しては、ジムカーナは派手さが無いので今一つの反響だったし、耐久レースって言うと聞こえが良いので食いつきが良いんだけど、出場車両が軽自動車のエッセだって分かると、如実にがっかりしてるような感じも見て取れちゃって、出場競技に関しては、もうちょっと派手にアピールしても良いかもね。
せっかくの沙綾ちゃんの作ったPVを無駄にはできないよね。
1回目の反省点を踏まえて、モニターの位置をもう少し進行方向から見やすくて、印象に残る位置に向け直し、もうちょっと音量アップにする事と、通路に最もサイズの小さいエッセを持ってきたんだ。
さすがに通路に車が置いてあれば邪魔で、興味が無くても目をひかない訳がなく、また、近づいてみると実際の競技車の持つ雰囲気がひしひしと伝わってきて、中を覗かないわけにはいかなくなると思うんだよね。
実際にあの後、私の案でレイアウト変更してみたところ、通路に置かれたエッセを避けようとして目を留めると競技車である事が分かって、その本物感に目を奪われているうちに勧誘の2年生に声をかけられて……という感じの動線に上手く繋がっていったんだ。
なかなか最初から温度感の高い良いコンボが出来上がってきたんだけど、前回との違いは、やって来る娘が結構強い興味を示してくれていて、説明するこっちの気持ちも凄く軽くなった事なんだよね。
オープンカーのデモンストレーションを見るよりも、実際の競技車の持つオーラに触れた方が部活に興味が出てくるんだね……そこは、運動部だからかな?
結局、ブースに来た娘の興味は結構大きかったようで、蓋を開けてみると、入学式後の2週間で30人の新入部員が入ってきて、人数で言えば、体育会の最大派閥になるに至っちゃったんだよ。
私は、自分が引き継いだ自動車部を大きくできた事に嬉しさと感謝を感じていたんだ。
それじゃぁ、新生自動車部、行くよ!
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