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作業はじめ

 1年生が入ってきてから数日が経ち、部内の案内もひと段落ついたところで本格的な活動に入る事にしたんだ。


 これからの活動のメインは、ジムカーナに出場するノートの整備や準備、更には仕様の見直しと、並行して私が進めているRB20DEエンジンのオーバーホール及びクルーへの搭載の作業をやっていって、後半は1年生をメインとした運転練習の時間に充てようと思って、既に2、3年生とは打ち合わせてあるんだ。


 最初に班割りをやったんだけど、最初に私が作った班割りでは、クルー班は私と莉緒ちゃん、真由ちゃんと志帆ちゃんくらいだったんだ。

 だけど、何故か1年生がこっちの作業に興味津々だったせいで、七海ちゃんたちから


 「こっちで手も余ってるし、メカ強そうみたいだから、何人か回すっス」


 って言われて8人もこっちに来たおかげで、少数精鋭のはずのクルー班がちょっとした所帯になっちゃったんだ。


 すると、直後に新入生が入って以来、はじめて教師水野がやって来たんだ。

 まぁ、相変わらず黙って入って来る癖は変わってないんだけど、その格好と言い、発するオーラと言い、全てが変わってさっぱりとした、新任教師みたいな調子になったんだよ。


 「話は聞いています。取り敢えずの物資と、ちょっとしたパーツはこれなので、このUSBメモリーに入っているデータを参考に組んでみてください」


 と言うと、後ろにある椅子に座って活動を眺めていた。

 これも以前の教師水野には無かったんだよ。

 いつもなら『これを使って仕上げてくれたまえ』とか言って、そのままぬぼーっとどこかへと姿を消していって、部活の監督に入る事なんて無かったんだよ。


 「水野先生って、初々しいんですけど、どこかミステリアスな感じがあって良いですよねぇ」

 「男子からもちょっと人気になっているみたいですよ」


 なんて1年生が言っているのを聞いて、それはついこの間までの教師水野を知っている私たち2、3年生からすると信じられない現象が起こっているなと思っちゃったよ。

 教師水野なんて、男子の流行りに疎い私ですら知っているほど男子生徒からの人気なんて皆無で、普通に「キモい教師ワースト3」の筆頭に名を連ねるほどの不人気ぶりだったので、それはそれは信じられない事だった。


 ただ、私が机の上にあるパソコンにUSBメモリーを挿してファイルを開いた時に教師水野の携帯が鳴ったので、慌てて外に出ていったきり教師水野は戻ってこなかったのは、ちょっと昔を彷彿とさせるものがあって、ちょっとだけ微笑ましさを感じてしまったんだ。

 

 「水野先生は、D組の担任で忙しいらしいですよ」


 それを見ていた1年生が言った。

 そう言われてみれば、私は教師水野が担任を持っていた話は聞いた事が無いんだけど、どうなんだろう?

 そう思って莉緒ちゃんに訊いてみたところ


 「水野はね~、お姉ちゃんの頃から担任持ってた事はないねぇ~」


 と言っていたよ。

 莉緒ちゃんのお姉さんが入学した頃に新任の教師としてこの学校に来たらしいけど、最初の頃を除いて私の知る昔のような感じだったらしい。


 どうして、今までのような教師水野が出来上がっちゃったのかは分からないし、積極的に知りたいとは思わないけど、今の教師水野が異様に忙しい立場だという事は理解したよ。


 それにしても、渡された部品と資料を見ると、私が以前にリクエストしたような仕様にはなっていそうな感じだ。

 私がRB20DEに感じたのは、ツインカムの直列6気筒らしい胸のすくような回転と音の良さの半面で、低速が足らないのと、もう一息高回転が伸びれば言う事が無いのになぁ……という偽らざる感想だったのだ。


 なので、低回転域を捨てたとしても、それに負けない高回転の爽快感が手に入ればこのエンジンの場合は正解だと思うんだ。

 そんな話を以前に教師水野に伝えたところ


 「私も、その考えには賛成です。なので、高回転でエクスタシーのあまり悶絶するようなエンジンを作りましょう!」


 と言って内容を詰めただけに、揃った部品もそれに沿ったものと、オーバーホール用の部品になっていたんだ。

 

 「ハイカムっていう事は、ターボ化しないでメカチューンを進めるって事ですか?」


 今までの新入生の集まりの中ではちょっと目立たなかった、背の低い明るめの髪色のボブカットの娘が喰いついてきた。


 「まぁね。せっかくの直列6気筒のツインカムなら、突き抜けて回る方が気持ちいいしね」


 私は、敢えて感情を隠さずに言うと、その娘は


 「ですねっ! 私にもやらせてください!」


 と凄くニコニコしながら言ったんだ。


 早速、取り掛かろうとしたところで


 「燈梨さん! ヘルプです!」


 と沙綾ちゃんから声がかかったので、私は中座してノート班に合流した。

 舞華ちゃん達がジムカーナに参戦するために、教師水野が持ってきた初代のノートなんだけど、この車のネックはマイナー過ぎてパーツが少ないというところなんだよね。

 2代目となる先代モデルになると、ニスモバージョンなんかがあってスポーツ走行に関するパーツも結構あるんだけど、初代だとほとんどがファッション系のパーツなんだよ。

 それでも、舞華ちゃんたちは無いなりにダウンサスと、音の大きいマフラーだけでなんとかジムカーナに出場して総合3位につけたんだから凄いよね。

 ただ、去年の3位は故障者車が出たりした上でのラッキー面も見過ごせない状況だったから、今年も同じ状態で出場して同じ結果になるとはちょっと考えづらいんだよ。

 だから、今年は見直せるところは見直してから出場に漕ぎつけようと思うんだ。


 取り敢えず、冬前に試乗した時には、サスペンションの状態とかは悪くなくて、ショックアブソーバーの減衰力も充分あって……という感じだったんだけど、変身前の教師水野から


 「以前のは暫定的な仕様だったので、足回りと駆動系の抜本的な見直しが必要だ」


 と言われてたんだよ。

 だけど、足回りは解体屋のおじさんが制作中という話だったし、駆動系に関しても特に何も言われていないんだ。

 ただ、私自身が試乗した経験と、舞華ちゃんたちの感想から同じ不満が思い浮かんだんだ。

 これに関しても、何とかしたいって教師水野には依頼しているので、後はどうなるか……なんだよ。


 ノートに関しては、連休前にタイム計測をやって、ある程度選手を決めておきたいから、その時までには車が仕上がって欲しいところだね。


 「ノートって、おばさんが乗る車じゃないの?」

 「ホントにこれで競技とか出られるのかな?」


 この車の勇姿を知らない1年生がヒソヒソと言っているのが聞こえてきて、私は思わず反論したかったけど、ここで私が感情的になっても仕方ないので、務めて冷静に沙綾ちゃんに対応した。

 

 「どうしたの?」

 「なんか……水が漏れてるっぽいんです」


 そう言われて見てみると、ノートのリザーバタンクはすっかり空っぽになっていて、ノートが止まっていたあたりを見ると、液体が垂れていた染みができていた。


 「なんか、前からアイドリング不調もあったっスしね」

 「どうする?」


 七海ちゃんと陽菜ちゃんが次々に言った。

 確かに、このノートには以前からアイドリング不調があって、それがセンサーに起因するものなのか、エンジン本体の問題化が分かっていなかったんだ。

 これを直していくのが吉なのか、それとも、他の車に替えるのが吉なのかは私には判断できないんだ。

 ただ、今現在足回りの制作を依頼している関係上、キャンセルして他の車に替えるというのもなんだし、それに、替えたからと言って、予算の関係上、似たレベルの車になるのは間違いない。


 「この際、違う車に替えるってのはどうでしょう?」

 「私は、スイスポが良いなぁ」


 若菜ちゃんが言って、七菜葉ちゃんが便乗してきた。

 分かるよ。他の学校もスイフトスポーツだし、あれが速いっていうのも知ってるよ。

 ただ、予算上、ウチで狙えるのは不格好な初代になるし、正直、他校と同じ車で勝っても、代わり映えしないっていうのがあるよね。

 ……それになにより、さっきの1年生の感想を聞いちゃった以上、卒業生たちの思いの詰まったこのノートの速さってのを見せてあげたいんだよね。


 そう思ったら、私の身体は勝手に動いていたんだ。


 「それじゃぁ、早速エンジン降ろしちゃおう!」

 「えっ!?」


 沙綾ちゃんが驚いて言ったけど、私はそれを敢えて無視して続けた。


 「折角だから、オーバーホールして、万全の態勢で今年のジムカーナに参戦するよ!」

 「えええー-っ!?」


 今年の新入生の最初の作業は、クルーとノートのダブルオーバーホール作業から始まったんだ。

 きっと、新入生にとって卒業まで忘れられない思い出になったんじゃないかなぁ……。

 


  

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『1年生の忘れられない思い出に本当になったの?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。

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