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第2章 リリン(2)

魔王様の部屋へ飛び込み、目の前の『障害物』を切り裂いたとき、この持て余す感動をどうしたらいいのかといった様子の少年(・・)の声が耳に飛び込んできた。


「なんて素敵なんだ! その冷徹さ……さすが、マイハニー!」

「こ、この声……」


魔王様の部屋にいた残りの医者のひとりが、両手を広げて私を迎え入れる。その医者は他の医者と同じように、真っ黒な生地に赤い刺しゅうの入ったローブを頭からかぶっていたが、すらりとした長い脚と健康そうな小麦色の肌、よく鍛えられたしなやかな肉体のせいで、全然医者に見えなかった。


「ベセル……」


つい私はその名を口にする。フードのふちから彼女(・・)の金色のショートヘアと、切れ長の青い瞳がきらきらとした輝きを放っていた。私に呼ばれて嬉しかったらしい。ベセルは女だが、少年のような声と、少年のような無邪気さを持っていた。こういうの、なんて言うんだろう。兄貴系女子?


「侵入者だぞ!? あの女から魔王様をお守りするんだ!」


まわりの医者たちが口々にそうわめくのを心底めんどくさそうにベセルは流し見た。ベセルの青い瞳が一瞬、紫色の電光を放ち、残っていた医者たちすべてが、『身体の内側から』同じように紫色の電光を放って燃え上がった。


「あははは! 見てよ、リリン! よく燃える。さぞ(よこしま)な心に支配されていたんだろうね」


ベセルはそう言いながらローブを脱ぎ捨てて肌着だけになると、私を抱きしめて口づけした。ベセルの柔らかい胸の感触。こう見えて、ベセルは私より胸がある。はぁ……。抵抗するのも面倒だったし、ずいぶんとベセルには会ってなかったような気がしたから、私はベセルにされるがまま唇を預けた。


しかし、放っておくとベセルは何時間でも私とつながっていようとするので、ベセルを突き放すかたちで、少し無理をして彼女から身体を離した。


「あんたが何でここにいるのか、本当は聞くまでもないけど、教えてくれる?」

「リリンを守るためさ」


ベセルは白い歯を見せて、私の頬にキスをした。


「アース・フリントは細かいことを気にしないように見えて、気が抜けないからね。例えば……」


ベセルはツカツカと部屋の入口へ歩いていき、私が切り刻んだ『障害物』を指さした。


「この切り傷から、コイツを殺した犯人がリリンだってことくらいはきっとわかっちゃうと思ったんだ。だから……」


ベセルの青い瞳が輝く。『障害物』の身体は内側から燃え上がり、あっという間に黒い塊へと変わった。


「こうして証拠隠滅をしようと思ってね」

「ふーん」


私はあんまり興味がない風を装って、ベセルとは反対側、つまり部屋の中央に向かって歩いて行った。歩数にして約50歩。魔王様の部屋としては大きいのか小さいのか、私にはわからないけれど、部屋の中央にあるそのベッドは間違いなく大きいと思った。


魔王様のベッド。


まっ白なシーツが敷き詰められ、まるで森の中の湖畔にも見えるそのベッドの中央に、小さな影が横たわっていた。

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