第2章 リリン(1)
魔王様の部屋へと向かう最強の衛兵、アース・フリントの動きを気にしながら、私はガーデンさんがララン姉さんと一緒に地下動力室へ向かうのを見届けた。
よかった。まだ仕事は完全には終わってないけど、ファーストステップはほとんど完了したと言っていいよね。
自分の心の奥底から、かりそめの達成感と強い罪悪感がじわじわと湧いてくる。気持ちの整理はしていたはずなのに……。
「おい、どうしたリリン! 早くしろ!」
アース・フリントの声で我に返るまで、私は一瞬ぼうっとしていた。しまった。最後まで仕事をやり切らないと、ララン姉さんやルルンを守れないじゃないか。アース・フリントに「すぐ行く!」と返事をすると、私はガーデンさんやララン姉さんたちの安全をひとり密かに願い、アース・フリントの後を追った。
この先には『奥の回廊』がある。そしてその先には魔王様の部屋。私はアースを見失わないように気をつけながら、今日のこの日を思い返す。
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「心配するなララン。魔王様の城に侵入者が来るなど日常茶飯事! これは俺の仕事だ。みんなはそれぞれの仕事を頑張ってくれ。将軍たちが帰ってくるまで、一緒に魔王様を守り抜こう」
「はいっ!」
「おっけー!」
「りょ~かい」
アース・フリントはララン姉さんと私たちの返事を聞いて満足そうにうなずくと、戦闘に最適化された銀と黒の軽鎧という姿で、『城門前の跳ね橋』へと向かっていった。
「それじゃあ、ルルン、一緒に行きましょう。リリン、お昼ご飯の前までには終わらせましょうね」
「うん、りょーかい」
ルルンが掃除を担当するキッチンは、ララン姉さんの担当である西館を抜けた先にある。そのため、ララン姉さんとルルンは一緒に西館の方へ向かっていった。
「さて、と……」
二人の背中を見送ってから、私は東館には向かわず、魔王様の部屋がある『奥の回廊』へと駆け出した。急がなくては。『共犯者』が時間を稼いでいる間に、私は私の仕事をするんだ。
『奥の回廊』は複数の次元が複雑に絡み合ってできた迷路のような場所で、迷い込めば二度と出てこれない。しかし、一部の将軍や魔王様の側近は抜け道を知っており、方法さえ知っていればものの数分で魔王様の部屋へ行くことができる。
私は決められた手順を淡々とこなし、魔王様の部屋へとつながる扉を開いた。
「貴様、いったい何事じゃ!?」
部屋の中に入ってすぐの場所に、丸々と太った医者が立っていた。怒り心頭といった様子で、顔を真っ赤にしてこちらを指さして叫んでいる。ノックや声掛けもせずに無礼だとでも言いたいのだろうか。医者と言ってもこいつらはろくな知識もなく、古い伝承を口にしては威張り散らすこの城の害悪と言っていい。私は懐に忍ばせたナイフに手を伸ばす。
「おい貴様! 返事くらいせんか! ここはただのメイドが入っていい場所ではない! アースの奴め、こんな礼儀知らずのクズにこの部屋までの行き方を教えるとは、やはりあやつ……は?」
私は無言で、目の前の『障害物』を切り裂く。
「……悪いけど、仕事の邪魔だから」
「なんて素敵なんだ! その冷徹さ……さすが、マイハニー!」
しかし魔王様の部屋では、思ってもみない相手が待っていた。




