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愚か者のエッセイ  作者: 黒猫の凜


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②言葉は不完全だ

言葉というのは不完全だ。

特に日本語は不可解なことが多い。


例えば、セールスに訪れた販売員とのインターホン越しの会話。


「お時間よろしいでしょうか?」


「結構ですよ」


その後、数分間インターホンの前で販売員は待機していたが、家主は断ったつもりだった…

こんな行き違いはよくある話だ。



……



私が言葉の不完全さに気付き始めたのは小学校低学年の頃だった。


そのきっかけとなったのは、パジャマに着替える時の何気ない母の言葉…


『パジャマのズボンは履けた?パジャマの上は?』


当時、なんにでも興味津々だった私は母に聞いた。


「パジャマの下はパジャマのズボンだよね?じゃあパジャマの上はパジャマのなに?」


今でも、あの時の母の困った表情を覚えている。

こうして振り返るとくだらない疑問だが、子供の私には解き明かしたい謎だったのだろう。


……


母は、どう説明すべきだったのだろうか?


『パジャマの上は、パジャマのシャツよ』


これだと、きっと子供の私は…


「じゃあ中にシャツを着てたら、シャツの上からシャツを着ることになるの?下はパンツとズボンなのに、上はどうして同じ名前なの?」


とでも言うだろう。

実に理屈っぽくて可愛げのない発言だが、昔から私はこういうタイプの子供だった。

それについて否定はしない。



『パジャマの上は、パジャマのトップスよ』


この場合だと、きっと…


「お母さん以外がそんな言い方してるの、聞いたことないよ。本当にそう呼ばれてるの?」


なんて言ってたかもしれない。

想像上の子供の私とはいえ、実に生意気だ。


そう考えると、困った顔をして『うーん、なんだろうね?』としか言わなかった母はある意味正解だったのだろう。



……



子供の頃の私は、色んなことに疑問を抱き、理屈っぽい性格だったが…

なんと、頑固者でもあった。


これも言葉に関する話だが——

小学校に上がった頃、時間割に【体育】という言葉が現れた。


その後、国語の授業で、この言葉は【たいいく】と読む事を習ったのだが…


普段、先生は【たいいく】と発音していないことに気付いてしまった。

どれだけ耳を澄ませても、【たいくのじゅぎょう】と言っている。


まさか、先生が間違った言葉を使っているのだろうか…?

そんなことまで考えたが、家に帰ると母も『たいく』と言っていた。



「どうして【たいいく】って言わないの?」



子供の私は当然のように質問した。

その時、母は珍しく否定したのを覚えている。



『ちゃんと【たいいく】って言ってるよ?』



だが、自分の耳に自信があったからだろうか…?

当時の私は諦めずに食い下がった。



「ぜっったいに【たいく】って言ってる!」


「あと、【雰囲気】も【ふいんき】ってみんな言ってる…!!」



よほど納得のいかない顔をしていたのだろうか?

それとも、絶対に譲らないぞ…という空気を感じたのだろうか?


母は、『うん…そうだね。なんでだろうね?』と折れた。


こうして振り返ると、母には苦労をかけてしまったと思う。


だが、それは果たして子供の私が悪かったのだろうか…?

むしろ、子供が様々なことに疑問を持つのは、一般的には良いことだとされているはずだ。



……



パジャマの話も、体育の話も、そこには言葉の不完全さがある。

不完全だからこそ、疑問が生まれ、返答に困る。


ならば、疑問を抱いた子供や、答えられなかった母に罪はない…はずだ。

…別に責任逃れがしたいわけではない。



日本語は、アジア大陸由来の言語や西洋語など、様々な要素を吸収しながら形作られた混合言語らしい。

決して合理的とはいえない言葉の数々は、その過程で不完全に組み立てられた結果なのかもしれない。


だが、それでも人々の生活に支障はない。

理屈っぽい子供が疑問を抱き、しつこく聞いたりしない限りは、誰も困ったりはしないのだ。


もしかすると、日本語を使う多くの人には、不完全な言葉を違和感なく受け入れる寛容さがあるのかもしれない。



なら、私は寛容な人では無かったのかって…?

それについて否定はしない。

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