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愚か者のエッセイ  作者: 黒猫の凜


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1/5

①期待はしない方がいい

最初に———

私は別に、幸せな人生を送っているわけではない。

自分の人生を文章として残すべきだなんて思ってもいないし、それがエッセイを書こうと思った理由ではない。


いつ訪れるか分からない死をただ待っているよりも、こうして過去を振り返る方が幾分マシに思えただけだ。


だから、これを読むにあたって、変な期待はしないでほしい。

これは親切心からの言葉だ。

「期待」なんてものは、最初からしない方が自分の為になる。



……



子供の頃…

まだ私が、世界に色んな期待を抱いていた頃の話だ。

当時はまだ親戚付き合いも盛んで、年明けには一堂に会するのが慣例だった。


子供、年明け、親戚…とくれば、次に浮かんでくるのは「お年玉」だろう。

家庭環境によって変わってくるだろうが、多くの子供にとって「お年玉」という響きは甘美なものだ。


そして子供達は「お年玉」に様々な期待を寄せる。


お年玉が貰えたら、欲しかった〇〇が買えるかもしれない——

今年は学年が上がったから去年より多く貰えるかも——


現実がその「期待」に伴えばそれでいい。

本人も嬉しいし、お年玉をあげた側も喜ぶ姿が見られる。


だが、もし子供達の期待が大きすぎて、現実とのギャップが生じてしまったらどうなるか…?


期待通りではなかったという、ガッカリした気持ちが生まれるだろう。

それを表に出すか否かは性格によるかもしれないが、あげた側の大人からすれば、本当に喜んでいるかどうかなんて大半は見抜けるだろう。


子供達は、自分の望みが叶わず、本来抱くべき感謝の心すらも薄らいでしまう。

これらは全て、過度な「期待」のせいにほかならない。



……



この構造に気付いた子供時代の私は、「自分はなんて罪深いんだ」と大きなショックを受けた。


勝手に期待をしておいて、その通りにならなかっただけで感謝の心に濁りが出てしまった——


自他共に認めるほど、真面目な性格だったことも影響したのかもしれない…

それ以来、私は「常に最悪を想定する」ことが上手く生きるコツだと思うようになった。



……



“常に最悪を想定する”

それはつまり、何事も変な期待は抱かずに最悪のパターンを考えるということだ——


多くの場合、その「最悪」は実現しない。

だが、それでいいのだ。


ここで大事なのは、“自分が想定していた事態よりも良かった”と感じること。

不思議なもので、人間は想像していた地獄より少しマシなだけで安心する。

私も例外ではなかった。


この考え方を自分の主軸にしてからというもの、子供時代の私は、雰囲気がちょっぴり大人っぽくなった。

同級生から、「老けてる」と言われた時は、考え方が外見にも影響してきたのかと少しショックを受けたりもしたが…


それでも、本当に老けるまで、この考え方を貫いてきた。



……



じゃあ、現実に打ちのめされることは無くなったのか…?


そう聞かれると、そんなことはない。

実際、想定外の出来事で、現実に打ちのめされることは何度もあった。


「常に最悪を想定する」

という考え方は、物事に対して「期待」をしないことによる危機回避の手段に過ぎない。


だが現実は、想定する間もなく不意打ちのように問題や不運が舞い込んでくることもある。

そういう時は毎回ショックを受けたし、しっかりへこんだ。

世の中、全てのマイナス要因を排除する術なんてないのだ。


でも、それ以外の多くの場合は、この考え方に救われてきた……と思う。



……



どうして少し自信がないのか……

それは、社会に出てしばらく経った頃の話だ。


ある時、同僚との会話の中で、この考え方に触れる機会があった。

もう、顔はハッキリと思い出せないが、明るい性格で、私には少し眩しい人だった。


その同僚は私の話を聞いた後、こう言った——



『うーん…随分と後ろ向きな思考だね。』


『確かに危機回避にはなるかもしれないけど、それだと未来に希望を見出すことも難しいでしょ?』


『それで幸せに生きられるのかな…?』



———別に、心にグサグサと突き刺さったから一言一句覚えているわけではない。

自分でも、後ろ向きな思考だという自覚はあった。


確かに、この考え方を主軸にした時から、未来に希望を抱くことはなくなった。

でも、そのお陰で下手に傷付かずに自分を守ってこれたのも事実だ。


…分かっている。

私の考え方は、守りに徹するものであって、決して人生にプラスをもたらすものではない。



“常に最悪を想定する”



それでも、この考え方は、もう私の人生の一部であって、簡単に変えられるものではない。

だから、もう受け入れてるし、後悔はしない。



…それに、最初に言ったはずだ。


私は別に、幸せな人生を送っているわけではない。

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