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6章魔人襲来⑥独りじゃない。

 アラサラの血走る目の先には神々しい美しい女性によって拘束され動きを封じされているルイの姿。レオ達を乱暴に殴り、蹴りつけ、振りほどこうとする。しかし、彼らも諦めない。絶望と言う闇に一筋の光が差したのだ。三人は息もつかぬ攻撃を繰り出し、何とかアラサラの行く手を阻んでいた。


 拘束されしばらく暴れていたルイの動きが徐々に止まる。そしてピクリとも動かくなった。その女性は目を閉じ、緑色の耀きを纏う手をルイの頭に翳しているが、時折苦しそうに顔を歪めてた。




 度々訪れるそれ以外何もない暗い空間。ルイは目の前で大きく膨れ上がった邪悪な目玉の触手攻撃を必死に躱していた。


「いい加減抵抗するじゃない!さっさとお前の身体をよこせ!」

「なんなんだお前は!なぜ僕の身体が欲しがるんだ!答えろ!」


 目玉は「うるさい!」と声を荒げ、耳をつんざくような奇声を発しながらルイに襲いかかった。その時、触手がルイの足を捕らえる。


 ルイは「しまった!」と焦ったが滲む。瞬く間にルイの手足は触手に絡めとられた。


「捕まえた~。もうお前は終わりだな。」


 目玉が嬉しそうな声を出した後、ルイの身体を引き寄せる。目玉にルイの身体が取り込まれていく。ルイは身体を反らし必死に抵抗するが、巨大な力を前に抵抗する術がない。


「もうちょっと。あと少しだぁ……。」


 と上擦った声でルイの背中を触手で押し込む。身体がほとんど取り込まれ、ルイの顔があと半分だけといったその時。


 突如緑色に輝く鎖が目玉の触手を断ち切り、目玉全体を覆うように拘束。そしてそれが取り込まれていたルイの身体に巻き付き、ルイを目玉から引き抜いた。ルイがその鎖を目で追う。そこには神々しく柔らかい雰囲気のあの女性がそこにいた。ルイは彼女を見て懐かしい感覚を覚える。一瞬だけ気の抜けた顔をした後、


「あ……。助けてくれてありがとうございます!」


 とやや焦り気味の早口で言った。女性はそんなルイを見て柔らかく暖かく微笑んだ。その時、目玉が大きく震える。耳を塞ぐほどの奇声を発して、暴れまわり、緑色に輝く鎖を破壊した。


「毎度毎度現れやがって。いい加減俺の邪魔をするんじゃねぇ!」


 目玉が割れるような怒号を発し、その女性に激しい怒りをぶつける。身体がのけ反るような圧が二人に襲い掛かる。


 ルイは顔をしかめ(くそ。刀があれば。)と心の中で呟いた。すると不意に肩を突かれる。目を向けるとその女性がルイに刀を差し出した。丁重に扱うように両手の平に乗っている刀。


(なんでこの人が持ってるんだ……。)


と一瞬疑問に思ったルイが女性の色素の薄い緑色の瞳を見つめる。しかし、彼女の暖かい表情にその疑問は吹き飛ぶ。ルイは刀を受け取り、怒りで爆ぜそうな目玉に強い視線を送る。


「もういい加減目障りだ。お前たち二人ともなぶり倒してから俺が取り込んでやる!」


 目玉が叫び声を上げ、ミミズのようにのたうちまわる触手で襲い掛かる。ルイは意を決した面持ちでその触手に刀を振るった。しかし、その触手は鋼鉄のように硬く、ルイの刀が弾かれる。ルイはそれを防ぐが、素早い触手の攻撃がルイの腕や足を傷つける。


 そのたびに女性は痛そうな表情を浮かべた。目玉が「キェェ!」と奇声を上げると、触手がルイの水月を捕らえる。ルイは吹き飛ばされ、地面を転がった。


 コンクリートのような灰色の地面の上で浅い呼吸を繰り返す。その時、ギャン!ギャン!と甲高い音が。腹部の痛みで歪んだ顔を上げると、女性がルイの前に立ち、緑色の鎖を振り回して触手の攻撃を必死に防いでいた。


(このままだとあの人が持たない。でもどうすれば……。)


 ルイが心の中で呟くと、ルイの刀が呼吸をするように光り始めた。


(そうか。君もあの人を救いたいんだね。なら僕が君を振るう。君の力を貸してくれ。)


 ルイは刀をグッと握り、立ちかがった。そして唱える。


「息吹け。天碧の刹那。」


 ルイはチェインを発動した。それを見た目玉が触手の動きを止めた。「あぁ。あぁ。あぁ」と狂ったように声を溢す。


「俺の前で……。それを見せるな!」


 と奇声と怒号が混ざり合ったような声を出し、一斉に触手がルイに襲い掛かる。勢いが増した触手の攻撃を真正面から受け止め、ルイは大鎌を振り下ろす。触手が断たれる。切れた触手は地面をのたうちまわった後、溶けるように消えた。


 プツンと何かが切れたように目玉がさらに多くの触手を生み出しルイに向けて放った。しかし、ルイは大鎌を振り、その触手を切り続けた。切っては前に進み。それを繰り返す。そしてルイは目玉の前に立つ。


「あぁ……。こんなことになるんだったらさっさと取り込んでおけばよかった!あぁぁぁ!くそ!くそ!くそが!」


 目玉は声を震わし、今にも泣きだしそうだった。ルイは目玉の怒りに塗りつぶされたその奥の恐怖を感じ取っていた。


「君は何に怯えているんだ……。君が何もしなければ、僕は何もしない。だから……そんなに怖がらないで。」


 ルイはガタガタと震える目玉に手を差し伸べた。ハンターになった理由。それは困っている人助けを求める人に手を差し伸べるため。目の前にいるものが人かどうかはわからない。しかし今のそれは例外ではない。今は小さな子供のように震えている。


 ルイの手が目玉の震える触手に優しく触れた時。目玉がにやりと笑い、「馬鹿が。」と吐き捨てるように呟いた。


 大量の触手がルイの身体に絡みついていく。焦ったように女性は鎖で拘束しようとするが、触手で吹き飛ばされた。その女性は地面にへたりと座り、立ち上がれなくなった。


「本当にお前はお人好しだよ。誰に似たんだろうな?そのバカみたいな性格は。」


 触手がルイの首、そして身体巻き付くと、グググッと苦しめるように締め上げていく。


 目玉は声高々に笑い、あざ笑うように触手で地面を軽快に叩いた。目玉の笑い声がこの空間に響き渡る。


 ルイは必死に首に力を入れ、意識を保とうとした。意識を失えば、この目玉に取り込まれるのが分かっていたから。手に持っていた大鎌から手を放し、両手で首に巻き付いた触手に抵抗するが、力が強すぎて引き剥がせない。


 (く……そ。)ルイの意識が徐々に薄れていく。意識が落ちかけた時、ふいに首に巻き付いていた触手の力が弱まった。ルイは突発的に息を吸い、首に巻き付いた触手を無理やり引き剥がした。咳き込むように呼吸を繰り返す。縛られ、持ち上げられていたルイの身体がゆっくりと地面に降りていく。


「お前……なんで。なんでよりにもよってお前が実体化してるんだ……。」


 目玉は細い声を発し、赤黒い瞳を激しく震わせている。ルイがちらりと横を向くと、ルイの大鎌を肩に担ぎ、長い浅葱色の髪を後ろで結った男性が勇ましく佇んでいた。紺碧と、汚れなき白が織りなす軍装。垂れ下がる青緑の飾り紐は、彼が動くたびに龍の髭のごとく揺らめいた。その男性はルイを捕らえている触手を一太刀で斬る。そしてルイと目玉の間に立つ。大鎌を振り上げ、目玉を一刀両断。半分に切られた目玉の瞳がルイをじっと見つめる。


「今回は邪魔が多すぎた……。諦めよう。……ただ忘れるな。俺はずっとお前を見ているからな……。」


 そういうと目玉が崩れるように消えていった。地面に座り込んでいるルイは男らしい端正な顔立ちを見上げた。そして彼がパチンと指を弾く。




 ルイの鼻を豊かな緑の匂いがくすぐる。周りを見渡すと遺跡のような場所。恐らく初めてチェインを発動した時に来た場所。視線を走らせていると、自分の胸から鎖が。その鎖は目の前にいる男性の胸に繋がっていた。ルイは勢いよく立ち上がり、


「あの!一体ここはどこで。あの目玉はなんなんですか!」


 その男性に困惑した表情を向けた。聞きたいことが多すぎて整理が追いつかず、言葉が漏れる。


「ルイ。落ち着きなさい。」


 男性は穏やかに微笑む。男性らしい安定感のある低めの声質だった。彼の横にあの神々しい女性が両手を前で揃えて立っていた。


「今はその質問に答えられない。時間がないんだ。申し訳ないけど、僕の質問に答えてほしい。できるかな?」


 ルイは黙って首を縦に振った。男性が強く真剣な眼差しをルイに注ぎ、人差し指を立てる。


「もしもだ。どれだけの愛を注いでも心を開かない少女がいたとしよう。多くの人が彼女のために何かをしても表情一つ変えず、ただその場に座り込んでいる少女だ。君はその少女を見つけたらどうする?」


 ルイはひたすらに考えた。人は例外なく何かを心の奥底に押し込んでいる。人前で明るく振る舞う人でも人には言えない何かがある。きっとその少女は心全体を鎖で固くきつく縛っているのだ。無理に断ち切ろうとすれば、返って締まるだけ。ルイができることは一つだけだった。


「僕はその子のそばにいます。そばにいて話し続けます。」とまっすぐな瞳で答えた。

「どれだけ愛を注いでも心が開かないんだよ?そばにいるだけで意味があるのかい?」


 男性の表情は一層真剣さが増したように見えた。それでもなお、ルイの答えは変わらない。ルイは小さく横に首を振った。


「それでも僕はそばにいます。もしかしたら一分後には心を開くかもしれない。だめでも一日たてば心を開くかもしれない。それがだめなら一年、十年だってそばにいます。何をしてもダメなら僕の時間をその子にあげます。」

「果てしない時間がかかっても君はそれに耐えられるのかい?」

「はい!僕の心がそうすると言ってるんです。それをやらない僕は……。僕じゃないので。」


 ルイは透き通った目に覚悟の光が宿る。その目を真っ直ぐに見つめていた男性は表情を緩め、息を抜いた。そして「強くなったね。」と呟く。男性は引き締まった腕を腰に回し、体重を片足に預ける。


「僕の名はクロノ。ルイが危ないときはまた駆けつけるから。それと……。きたきた。」


 クロノが視線を向けた先から人の形をした橙色の光が歩いてくる。クロノよりも大柄で節々がかなり太い。


「彼はソラ。多分今は彼の姿が見えたり、声が聞こえたりはできないと思う。でも心配いらない。彼も君の味方だよ。」


 気づくとルイの胸に二つ鎖が繋がっていた。一つはクロノ。もう一つはソラと呼ばれる男性。クロノはルイに刀を渡した。ずっと共に歩んできた刀。ルイはそれを受け取った。


「ルイ。それでこの鎖を断ち切りなさい。そんな鎖がなくたって僕たちは×××。」

「あの、最後聞き取れなかったんですけど……。」


 クロノ、ソラ、そしてルイに暖かい笑みを注ぐ女性に視線を送る。彼らは何も言わず、ただルイを真っ直ぐに見ていた。ルイの瞳に光が宿り、ルイはゆっくり刀を抜いた。そして胸の鎖を断ち切った。


 突如ルイの身体が息吹くように輝きだした。身体から緑色の光と橙色の光が溢れてくる。


「ルイ。これから君は大きな渦に飲まれるだろう。それは僕たちの責任だ。すまない。ただ忘れないでくれ。君は一人じゃない。君には仲間がいる。きっと君が大変な時に……。彼らが助けてくれる。」


 クロノ、そして横にいる女性が申し訳なさそうに瞼をたるませる。しかしルイはそんな彼らに輝く瞳を向けた。


「僕は……強いなんて胸張って言えない。でも僕が転ぶたびに周りの人が手を貸してくれた。レオやエマ、ミアそして同期のみんな。カルマやハンナさん、タイガさん。フーゴさんたちも。だから……。僕は大丈夫!皆となら。なんだって乗り越えて見せます!」


 ルイの身体から溢れ出る光がこの豊かな空間に眩く、そして暖かく広がっていった。

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