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6章魔人襲来⑤狂瀾を払う三つの希望

 アラサラと激しい戦いを繰り広げるエマ。遠くで聞こえていた激しい戦闘音がピタリと止んだこと気づき、その方を向いた。目に飛び込んできたのは腹を貫かれたレオの姿。瞳孔が開き、瞳が激しく揺れる。


 その時、呼吸がピタリと止まり、引いた弓が地面に落ちる。唇が震え、声が出ない。急に身体が吹き飛んだ。動きを止めたエマにアラサラがぶつけたのだ。エマの身体が地面を転がる。そして攻撃を仕掛けたミアは蹴り上げられ、無残にも身体が宙を舞った。


 アラサラは地面に倒れ込む二人には目もくれず、駆けるようにルイの下へ。顔全体の筋肉を緩め、恍惚の表情を向けた。ピチャ、ピチャッとルイの腕から真っ赤な血が滴り落ちる。ルイは何も言わずにその腕を引き抜き、レオは地面に倒れこんだ。


 ルイはボーっと光る目でアラサラをとらえると、急に彼女に襲い掛かった。アラサラは笑みを浮かべながらルイと戦闘を始めた。憎しみや怒りの感情はなく、まるで友人と遊んでいるかのように。


 地面に倒れているレオ。(俺はまだ……強くなりたい……。)そう心の中で呟くが徐々に視界が霞んでいく。全身の感覚が薄れ、意識が途切れそうになった時、腹部にほんのり暖かい何かが。腹の熱さ、そして痛みが引いていく。霞む視界の中、瞳を動かすと、そこにはハンター試験の時に暴走したルイを止めたあの神々しい雰囲気を漂わせる女性がいた。女性はレオを優しく抱え、腹部の穴に鮮やかな緑色の光を纏う両手をかざしている。、レオの傷がみるみるうちに塞がっていく。そしてレオは霞んでいた視界がはっきりとし、意識が戻った。身体を起こし、その女性を見つめる。


「おい。あんた……。」 とレオが詰まる声を出すと女性はふらつき、手に地面をついた。


 女性は顔を上げる。白みがかった緑色の瞳を変貌した姿のルイに向け、一粒の涙を溢した。その涙が触れた地面から急速に草が生え、やがて枯れていった。


 その女性が浮かぶように立ち上がった後、ゆっくりとルイのところへ歩いていく。その時、今まで笑みを浮かべていたアラサラが血相を変えて、彼女に飛び掛かった。


「なぜお前がこの世界にいる。お前だけはここにいてはいけない!」


 顔を歪めたアラサラは拳を振り下ろそうとした時、レオが間に入りアラサラの拳を受け止めた。


「エマ!猫助!ルイを助けたいならこの人の援護をしろ!立て!」


 ミアが立ち上がり、雄たけびを上げながらアラサラを蹴り飛ばした。


「だれが猫助だっての。その呼び方いい加減直してほしいね。」ミアが肩を上下に動かし呼吸をする中、エマはレオに駆け寄り涙を溢した。


「レオ。よかった。死んじゃったかと思った。」

「あぁ。奇跡みたいなもんだ。」


 アラサラは焦ったように顔を歪めて、ルイの下に近づく女性を目で追っていた。レオは必死に口角を上げて見せた。


「俺もお前たちも限界なんて超えてるよな。それでも振り絞れ。足が動かなくなっても手を動かせ。手が動かなったら食らいつけ。最後まで諦めんなよ!」


 そういうとレオは刀を力強く地面に突き刺した。


「奮迅しやがれ。 紅蓮獅子王。」

「咲き誇れ。華椿」

「舞い踊れ。朱梅」


 三人はチェインを発動し、険しい剣幕のアラサラに飛び掛かった。



 ルイにゆっくり歩み寄る女性は歩きながら両手で三角形を作った後、何か聞き取れない文言を唱える。


 するとルイの足元から光の鎖のようなものが飛び出し、それが複雑にルイの身体を縛り付ける。身体を激しく動かし抵抗するがその拘束から抜け出せない。その女性はルイのそばに行くと、ルイの頭に手をかざし、再び聞き取れない文言を唱え始めた。女性の手がぼんやりと緑色の光を発すると、ルイは苦しそうな咆哮を上げた。




 その頃レオをルイたちの下に向かわせたカルマは一人で災獣を食い止めていた。元空のカルマも身体に傷を負い、息を切らしていた。


 それでも、ルイたち、そして仲間たちが戦っているのに自分が倒れるわけにはいかないという気持ちがカルマの身体を振るい立たせる。急に目の前の災獣たちが左右に分かれる。そこの奥にはエンフェリアが佇んでいた。


「あなた結構強いわね。私が呼んだ子たちが倒されていくわ。」


 そういうと彼女はカルマに倒された災獣たちの前で屈み、それらを優しく撫でた。


「可哀そうに。痛かったね。もっと強くなりたいよね。」


 囁くようにそういった後、エンフェリアは空に手を翳す。黄色の光が手のひらに集まっていく。それがパンッと弾け、その光が災獣たちに降り注ぐ。すると災獣たちの身体が一回り大きくなり、倒れた災獣たちも立ち上がった。


 カルマは決死の覚悟を胸に宿した。命を落としてでもこの災獣、そして魔人を食い止めると。しかし強化された災獣たちが襲い掛かる。カルマは刀を振るうが上下左右からの攻撃までは受け止められない。身体を傷だらけにしながらも雄たけびを上げ、刀を振るうが、災獣たちの攻撃が更に激しさを増していく。


(儂もここまでか……。後は頼んだぞ……。)


 その時、ドン!ドン!と爆音を響かせ、森の奥の災獣たちが宙を舞った。カルマを襲う災獣たちの手が止まる。エンフェリアが向日葵のような黄色い瞳をそこに向けた。カルマはグッと顔を歪め、必死に膝が着くのを耐える。


「なんじゃ……。」 


 と呟くと何かが宙を舞い目の前に着地した。そこには色の抜けた白髪を後ろに流し、金の刺繍が細かく入った袴を着た大柄の男がいた。


「久しぶりだな。カルマよ。覚えているかわからぬが我は……。」


 言い終わる前にカルマが刀を振るう。彼の後ろから攻撃してくる災獣の首を一太刀で落とす。


「オーガよ。後ろに注意が向いてないのは相変わらずじゃな。」


 二人は懐かしそう互いに目を合わせ、口角を上げた。そしてオーガは鋭い眼差しをエンフェリアに向ける。


「カルマよ。あれも魔人だな。」

「あぁ。そうじゃ。儂もあまり出し惜しみをしてるところではないな。本気を出そうかの。」


 二人が刀を構えた。その時、大地が激しく振動し、空気までもが震えた。


「震天動地と為せ。永劫の響鷹。」

「剛毅の如く命を灯せ。 金剛葦牙明王。」


 二人はチェインを発動させた。郊外では獣人たちが災獣と戦い、街へ向かう災獣の数を何とか減らすために奮起している。エンフェリアは無表情のまま首を傾げた。


「獣人?人間と仲悪いんじゃなかったっけ。ひとまずあなたたちは少し強そうだから私のお気に入りと戦わせてあげるね。」


 エンフェリアは光を帯びた手を地面に当てた。するとその光が一頭の蛇型の災獣の下へ。それの身体が膨らんでいく。そして目の前に現れたのは八つの蛇の頭を持つ四つ足の災獣だった。建物よりも大きく、それぞれの頭が舌をチラチラと見せつける。カルマたちは全身全霊でその災獣に刀そして金槌を振り下ろした。




 國の中央でシオンは膝を地面につけ、ローファーのような黒い皮靴のつま先でせわしなく地面をノックするイブを見上げていた。


「もういいからさ。早く勾玉ちょうだいよ。」

「君は奪うことしかできない。本当に……。悲しい生き物だ。」


 イブは眉間に皺を寄せて、真っ赤な赤い瞳でシオンを睨みつける。


「いいかい。奪うだけの戦いに意味はない。それは巡り巡って君の心を荒ませる。一生心が満たされない悲しい生き方だ。僕が今ここで刀を振るうのはね。新しい芽を守るためさ。それだけで心が満たされる。君たちにそういう思いをしたことはあるかい?」


 シオンは口元に笑みを浮かべて立ち上がった。息はかるく乱れている程度。まだ戦えると自分に言い聞かせ、イブに切っ先を向けた。


「ちょっと遊んであげただけでこれか。もういい。つまんない。」


 イブに赤い瞳が不気味に光り、冷たい表情を見せた。空に飛び立ち、上に両手を掲げた。彼女の頭上に大気を高密度で圧縮したような球体ができる。それが時折眩い光を発し、圧縮を拒むように徐々に大きくなっていく。


「いいよ。二人とも一緒に殺して勾玉だけ拾うから。死ねよ。」


 恐らくこれは屋敷を吹き飛ばした時と同じ攻撃。シオンはこれを防ぐ方法を必死に考えていた。


「イブ!お前何やってんだ!」


 シオン、レナそしてイブがややじゃがれた声のする方を振り向く。そこにはセナそして篝火のメンバーがいた。


「そこの奴から聞いたぞ。お前、仲間を全員殺したんだってな。なんでだ!」


 セナは心持ち吊り上がった目をイブに向けて叫んだ。しかしイブの表情は何も動かない。セナの言葉を無視し、その球体をシオンに向けて放つ。


 シオンはそれを受け止めた。しかし凄まじいエネルギーに徐々に押し込まれていく。


(受け止めきれない。)と心の中で呟いた時。セナが応戦する。二人は雄たけびを上げてその攻撃を空へはじき返した。


 シオンが急いでレナの下へ駆け寄り、彼女の身体を守るように抱え込んだ。空中で眩い閃光、弾けるような凄まじい衝撃波が地上を襲う。


 巻き上げられた砂埃が落ち着くころ、イブはゆっくりと地上に降り、セナの太陽のような黄色の瞳を見つめていた。


「イブ。答えろ。お前は俺たちの仲間じゃなかったのか。」

「仲間?僕が人間の仲間なわけないでしょ。気持ちよかったよ~。あの時ぐしゃぐしゃにしたやつらの悲鳴は最高だった。」


 セナは奥歯をギリリと鳴らし、拳を震わせていた。


「それにタクトも弱かったね。あっけなく死んじゃってさ。結局目的を果たせずに死んでいった惨めな男だよ。」

「もういい。黙れ!最後に俺たちが望んだものを与えてくれた人が惨めなわけがあるか!あの人が弱いわけないだろ!取り消せ!」

「はいはい。負け犬の遠吠えってやつね。人間なんてどれも同じ。」


 眉を上げ、セナたちを蔑んでいたイブの表情が変わる。一瞬だけ目に憎しみの炎が宿った。しかし、一つ瞬きをすると、彼女の目からそれは消える。


「どうせお前たちも……。あいつらと変わらないよ。だから僕が今ここで殺す。」


 イブが衝撃波のような圧力をかけ、彼女の血塗られたような真っ赤な瞳がセナとシオンを捕らえる。セナが横目でシオンに視線を送った。


「おい。まだ戦えんのか?無理なら俺がやるぞ。」

「君たちはいいのかい。一応僕たちハンターに恨みがあったんだろ。」


 セナはシオンの澄んだ空色の瞳を見た後、小さく拳を握った。


「恨みが消えたわけじゃない。でもタクトさんがあいつらに託したんだ。それを俺たちが断ち切るわけにはいかない。」

「……お願いがある。レナ様を守ってもらえるかい?」



 シオンは真剣な眼差しをセナに向けた。


「お~い!任せろ!俺たちが死んでも王女様を守ってやる!」


 篝火のメンバーたちはイブの視線から彼女を遮るように並んだ。彼らの中の隻眼の男がレナの前で膝をついた。


「すまんな。俺たちみたいな賊に守られるなんて尺に触るかもしれないが、今は我慢してくれ。俺たちが死刑にならなかったのはあんたのおかげってことは知ってる。恩を仇で返す真似はしないから安心してくれ。」


 彼らはレナを囲いながらこの場所から去っていった。レナが避難したことを確認すると、

「ようやく僕も本気を出せる。」と表情に力を入れて刀を構えた。そして横目でセナを見る。

「君も覚悟が決まったんだね。」と呟き口元を緩めた。


 セナは目を閉じた。憧れだったタクトに言われた言葉を思い出す。


「お前が光になれ。その強い誇りを絶やすことなく、前を見続けろ。」


 彼の手には放射線状に広がった鍔を持つ刀が握られている。思いっきり息を吸い、目を開けた。


「燦燦と降り注げ。旭光天翔鳳!」


 シオンはクスっと笑い、そして唱えた。


「狂い惑わす幻影を。白鴉。」


 彼らを中心に眩い光が。セナは瞳の色と同じ太陽のような黄色のオーラを纏い、手には金色の刀身を持つ身体よりも大きく分厚い重ねの剣が握られていた。まるでタクトのチェインを発動した時の剣にそっくりであった。


 シオンはボヤっとした白色のオーラを身に纏う。彼の手には峰に白い羽毛が生えた黒刀が握られていた。 目の前で見下すような表情をしているイブに強く勇ましい表情を向け、大剣そして黒刀を構えた。 アラサラと激しい戦いを繰り広げるエマ。遠くで聞こえていた激しい戦闘音がピタリと止んだこと気づき、その方を向いた。目に飛び込んできたのは腹を貫かれたレオの姿。瞳孔が開き、瞳が激しく揺れる。


 その時、呼吸がピタリと止まり、引いた弓が地面に落ちる。唇が震え、声が出ない。急に身体が吹き飛んだ。動きを止めたエマにアラサラがぶつけたのだ。エマの身体が地面を転がる。そして攻撃を仕掛けたミアは蹴り上げられ、無残にも身体が宙を舞った。


 アラサラは地面に倒れ込む二人には目もくれず、駆けるようにルイの下へ。顔全体の筋肉を緩め、恍惚の表情を向けた。ピチャ、ピチャッとルイの腕から真っ赤な血が滴り落ちる。ルイは何も言わずにその腕を引き抜き、レオは地面に倒れこんだ。


 ルイはボーっと光る目でアラサラをとらえると、急に彼女に襲い掛かった。アラサラは笑みを浮かべながらルイと戦闘を始めた。憎しみや怒りの感情はなく、まるで友人と遊んでいるかのように。


 地面に倒れているレオ。(俺はまだ……強くなりたい……。)そう心の中で呟くが徐々に視界が霞んでいく。全身の感覚が薄れ、意識が途切れそうになった時、腹部にほんのり暖かい何かが。腹の熱さ、そして痛みが引いていく。霞む視界の中、瞳を動かすと、そこにはハンター試験の時に暴走したルイを止めたあの神々しい雰囲気を漂わせる女性がいた。女性はレオを優しく抱え、腹部の穴に鮮やかな緑色の光を纏う両手をかざしている。、レオの傷がみるみるうちに塞がっていく。そしてレオは霞んでいた視界がはっきりとし、意識が戻った。身体を起こし、その女性を見つめる。


「おい。あんた……。」 とレオが詰まる声を出すと女性はふらつき、手に地面をついた。


 女性は顔を上げる。白みがかった緑色の瞳を変貌した姿のルイに向け、一粒の涙を溢した。その涙が触れた地面から急速に草が生え、やがて枯れていった。


 その女性が浮かぶように立ち上がった後、ゆっくりとルイのところへ歩いていく。その時、今まで笑みを浮かべていたアラサラが血相を変えて、彼女に飛び掛かった。


「なぜお前がこの世界にいる。お前だけはここにいてはいけない!」


 顔を歪めたアラサラは拳を振り下ろそうとした時、レオが間に入りアラサラの拳を受け止めた。


「エマ!猫助!ルイを助けたいならこの人の援護をしろ!立て!」


 ミアが立ち上がり、雄たけびを上げながらアラサラを蹴り飛ばした。


「だれが猫助だっての。その呼び方いい加減直してほしいね。」ミアが肩を上下に動かし呼吸をする中、エマはレオに駆け寄り涙を溢した。


「レオ。よかった。死んじゃったかと思った。」

「あぁ。奇跡みたいなもんだ。」


 アラサラは焦ったように顔を歪めて、ルイの下に近づく女性を目で追っていた。レオは必死に口角を上げて見せた。


「俺もお前たちも限界なんて超えてるよな。それでも振り絞れ。足が動かなくなっても手を動かせ。手が動かなったら食らいつけ。最後まで諦めんなよ!」


 そういうとレオは刀を力強く地面に突き刺した。


「奮迅しやがれ。 紅蓮獅子王。」

「咲き誇れ。華椿」

「舞い踊れ。朱梅」


 三人はチェインを発動し、険しい剣幕のアラサラに飛び掛かった。



 ルイにゆっくり歩み寄る女性は歩きながら両手で三角形を作った後、何か聞き取れない文言を唱える。


 するとルイの足元から光の鎖のようなものが飛び出し、それが複雑にルイの身体を縛り付ける。身体を激しく動かし抵抗するがその拘束から抜け出せない。その女性はルイのそばに行くと、ルイの頭に手をかざし、再び聞き取れない文言を唱え始めた。女性の手がぼんやりと緑色の光を発すると、ルイは苦しそうな咆哮を上げた。




 その頃レオをルイたちの下に向かわせたカルマは一人で災獣を食い止めていた。元空のカルマも身体に傷を負い、息を切らしていた。


 それでも、ルイたち、そして仲間たちが戦っているのに自分が倒れるわけにはいかないという気持ちがカルマの身体を振るい立たせる。急に目の前の災獣たちが左右に分かれる。そこの奥にはエンフェリアが佇んでいた。


「あなた結構強いわね。私が呼んだ子たちが倒されていくわ。」


 そういうと彼女はカルマに倒された災獣たちの前で屈み、それらを優しく撫でた。


「可哀そうに。痛かったね。もっと強くなりたいよね。」


 囁くようにそういった後、エンフェリアは空に手を翳す。黄色の光が手のひらに集まっていく。それがパンッと弾け、その光が災獣たちに降り注ぐ。すると災獣たちの身体が一回り大きくなり、倒れた災獣たちも立ち上がった。


 カルマは決死の覚悟を胸に宿した。命を落としてでもこの災獣、そして魔人を食い止めると。しかし強化された災獣たちが襲い掛かる。カルマは刀を振るうが上下左右からの攻撃までは受け止められない。身体を傷だらけにしながらも雄たけびを上げ、刀を振るうが、災獣たちの攻撃が更に激しさを増していく。


(儂もここまでか……。後は頼んだぞ……。)


 その時、ドン!ドン!と爆音を響かせ、森の奥の災獣たちが宙を舞った。カルマを襲う災獣たちの手が止まる。エンフェリアが向日葵のような黄色い瞳をそこに向けた。カルマはグッと顔を歪め、必死に膝が着くのを耐える。


「なんじゃ……。」 


 と呟くと何かが宙を舞い目の前に着地した。そこには色の抜けた白髪を後ろに流し、金の刺繍が細かく入った袴を着た大柄の男がいた。


「久しぶりだな。カルマよ。覚えているかわからぬが我は……。」


 言い終わる前にカルマが刀を振るう。彼の後ろから攻撃してくる災獣の首を一太刀で落とす。


「オーガよ。後ろに注意が向いてないのは相変わらずじゃな。」


 二人は懐かしそう互いに目を合わせ、口角を上げた。そしてオーガは鋭い眼差しをエンフェリアに向ける。


「カルマよ。あれも魔人だな。」

「あぁ。そうじゃ。儂もあまり出し惜しみをしてるところではないな。本気を出そうかの。」


 二人が刀を構えた。その時、大地が激しく振動し、空気までもが震えた。


「震天動地と為せ。永劫の響鷹。」

「剛毅の如く命を灯せ。 金剛葦牙明王。」


 二人はチェインを発動させた。郊外では獣人たちが災獣と戦い、街へ向かう災獣の数を何とか減らすために奮起している。エンフェリアは無表情のまま首を傾げた。


「獣人?人間と仲悪いんじゃなかったっけ。ひとまずあなたたちは少し強そうだから私のお気に入りと戦わせてあげるね。」


 エンフェリアは光を帯びた手を地面に当てた。するとその光が一頭の蛇型の災獣の下へ。それの身体が膨らんでいく。そして目の前に現れたのは八つの蛇の頭を持つ四つ足の災獣だった。建物よりも大きく、それぞれの頭が舌をチラチラと見せつける。カルマたちは全身全霊でその災獣に刀そして金槌を振り下ろした。




 國の中央でシオンは膝を地面につけ、ローファーのような黒い皮靴のつま先でせわしなく地面をノックするイブを見上げていた。


「もういいからさ。早く勾玉ちょうだいよ。」

「君は奪うことしかできない。本当に……。悲しい生き物だ。」


 イブは眉間に皺を寄せて、真っ赤な赤い瞳でシオンを睨みつける。


「いいかい。奪うだけの戦いに意味はない。それは巡り巡って君の心を荒ませる。一生心が満たされない悲しい生き方だ。僕が今ここで刀を振るうのはね。新しい芽を守るためさ。それだけで心が満たされる。君たちにそういう思いをしたことはあるかい?」


 シオンは口元に笑みを浮かべて立ち上がった。息はかるく乱れている程度。まだ戦えると自分に言い聞かせ、イブに切っ先を向けた。


「ちょっと遊んであげただけでこれか。もういい。つまんない。」


 イブに赤い瞳が不気味に光り、冷たい表情を見せた。空に飛び立ち、上に両手を掲げた。彼女の頭上に大気を高密度で圧縮したような球体ができる。それが時折眩い光を発し、圧縮を拒むように徐々に大きくなっていく。


「いいよ。二人とも一緒に殺して勾玉だけ拾うから。死ねよ。」


 恐らくこれは屋敷を吹き飛ばした時と同じ攻撃。シオンはこれを防ぐ方法を必死に考えていた。


「イブ!お前何やってんだ!」


 シオン、レナそしてイブがややじゃがれた声のする方を振り向く。そこにはセナそして篝火のメンバーがいた。


「そこの奴から聞いたぞ。お前、仲間を全員殺したんだってな。なんでだ!」


 セナは心持ち吊り上がった目をイブに向けて叫んだ。しかしイブの表情は何も動かない。セナの言葉を無視し、その球体をシオンに向けて放つ。


 シオンはそれを受け止めた。しかし凄まじいエネルギーに徐々に押し込まれていく。


(受け止めきれない。)と心の中で呟いた時。セナが応戦する。二人は雄たけびを上げてその攻撃を空へはじき返した。


 シオンが急いでレナの下へ駆け寄り、彼女の身体を守るように抱え込んだ。空中で眩い閃光、弾けるような凄まじい衝撃波が地上を襲う。


 巻き上げられた砂埃が落ち着くころ、イブはゆっくりと地上に降り、セナの太陽のような黄色の瞳を見つめていた。


「イブ。答えろ。お前は俺たちの仲間じゃなかったのか。」

「仲間?僕が人間の仲間なわけないでしょ。気持ちよかったよ~。あの時ぐしゃぐしゃにしたやつらの悲鳴は最高だった。」


 セナは奥歯をギリリと鳴らし、拳を震わせていた。


「それにタクトも弱かったね。あっけなく死んじゃってさ。結局目的を果たせずに死んでいった惨めな男だよ。」

「もういい。黙れ!最後に俺たちが望んだものを与えてくれた人が惨めなわけがあるか!あの人が弱いわけないだろ!取り消せ!」

「はいはい。負け犬の遠吠えってやつね。人間なんてどれも同じ。」


 眉を上げ、セナたちを蔑んでいたイブの表情が変わる。一瞬だけ目に憎しみの炎が宿った。しかし、一つ瞬きをすると、彼女の目からそれは消える。


「どうせお前たちも……。あいつらと変わらないよ。だから僕が今ここで殺す。」


 イブが衝撃波のような圧力をかけ、彼女の血塗られたような真っ赤な瞳がセナとシオンを捕らえる。セナが横目でシオンに視線を送った。


「おい。まだ戦えんのか?無理なら俺がやるぞ。」

「君たちはいいのかい。一応僕たちハンターに恨みがあったんだろ。」


 セナはシオンの澄んだ空色の瞳を見た後、小さく拳を握った。


「恨みが消えたわけじゃない。でもタクトさんがあいつらに託したんだ。それを俺たちが断ち切るわけにはいかない。」

「……お願いがある。レナ様を守ってもらえるかい?」



 シオンは真剣な眼差しをセナに向けた。


「お~い!任せろ!俺たちが死んでも王女様を守ってやる!」


 篝火のメンバーたちはイブの視線から彼女を遮るように並んだ。彼らの中の隻眼の男がレナの前で膝をついた。


「すまんな。俺たちみたいな賊に守られるなんて尺に触るかもしれないが、今は我慢してくれ。俺たちが死刑にならなかったのはあんたのおかげってことは知ってる。恩を仇で返す真似はしないから安心してくれ。」


 彼らはレナを囲いながらこの場所から去っていった。レナが避難したことを確認すると、

「ようやく僕も本気を出せる。」と表情に力を入れて刀を構えた。そして横目でセナを見る。

「君も覚悟が決まったんだね。」と呟き口元を緩めた。


 セナは目を閉じた。憧れだったタクトに言われた言葉を思い出す。


「お前が光になれ。その強い誇りを絶やすことなく、前を見続けろ。」


 彼の手には放射線状に広がった鍔を持つ刀が握られている。思いっきり息を吸い、目を開けた。


「燦燦と降り注げ。旭光天翔鳳!」


 シオンはクスっと笑い、そして唱えた。


「狂い惑わす幻影を。白鴉。」


 彼らを中心に眩い光が。セナは瞳の色と同じ太陽のような黄色のオーラを纏い、手には金色の刀身を持つ身体よりも大きく分厚い重ねの剣が握られていた。まるでタクトのチェインを発動した時の剣にそっくりであった。


 シオンはボヤっとした白色のオーラを身に纏う。彼の手には峰に白い羽毛が生えた黒刀が握られていた。 目の前で見下すような表情をしているイブに強く勇ましい表情を向け、大剣そして黒刀を構えた。

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