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6章魔人襲来②崩れ去る平穏

 立ち合い稽古の順番決めはじゃんけんで決めた。ルイはカルマと、エマはハンナと戦い、レオはその間、ルイたちの戦いを見てイメージする修行。木陰で胡坐を掻いているレオはルイに早く変われという無言の圧力を飛ばしていた。


 ルイは刀を抜き、カルマと対峙した。隙のない身体の力みのとれた構え。木刀を持っているはずなのに、切られれば命を落とすような気がしてならない。ルイは勢いよくカルマに切りかかるも全く刃が立たない。カルマはその場から全く動かずルイの攻撃を防いでいた。ルイが刀を振るう前にカルマはルイが狙った部位へと木刀をそっと置く。それが幾度となく繰り返されるだけ。結局ルイはカルマをその場所から動かすこともできなかった。ルイと交代し、レオが意気揚々と出てくるが、ルイたちと同じ。コテンパンにもされない実力差。結局夕方まで修行をし、三人は激しく息を切らしていた。


 カルマがルイたちに近づき、優しく微笑みかける。


「一回りも二回りも成長したな。儂はうれしいぞ。」

「次こそは必ず一太刀入れるから覚悟しといて。」とルイはカルマを見上げ、強い視線を送った。


 

 その日、ルイたちは遅くまで自主的に修行をした。それから幾日も同じような日々が続く。早朝から夕方までは対面で打ち合い、夜は自分で修行。カルマは常駐、もう一人は日によって修行相手が変わったが、本気の彼らになかなか太刀打ちできなかった。ある時からルイたちの相手をするのはカルマ一人になった。カルマ曰く彼らもルイたちと同じように苦労しているのだとか。


 それから幾日かたったある日。カルマと立ち合いをしているルイの動きが一段と素早くなる。攻撃の起こりが小さくなり、徐々にカルマの足元の砂に円状の軌跡が広がっていく。ルイは下段から刀を切り上げる。それが空気を切る瞬間、全身の筋肉を稼働させ、まるで燕が返るような急旋回で袈裟切りを繰り出す。カルマは身体を回転させ、それを躱した。ふぅっと息を吐くルイ。そして鋭い目をしていたカルマは視線を斜め下に向ける。彼の灰色のハンターコートの裾。そこに一本の切れ目が入っていた。


「ほぉ。思ったよりも成長が早いの。もうここまでくるとは。」


 孫を見るような柔らかい表情を未だ真剣な目つきをしているルイに注いだ。


 一番最初に攻撃を当てたのはルイだが、レオやエマの刀もカルマに届くようになる。それからカルマは一段ギアを上げる。ルイたちは彼の凄まじい攻撃を受けながらもなんとか攻撃を繰り出す。来る日のために修行に明け暮れていた。


 


 徐々にカルマと打ち合えるようになった頃の夕暮れ時。カルマが自分の刀を抜くと告げた。ルイたちがやや緊張した面持ちでカルマを見上げる。そんな力の入った表情のルイたちにカルマは口元を緩ませる。


「そんな気をはらんでよい。さすがの儂もお主らに本身は使わんよ。いい機会だから儂のチェインを見せようと思っての。ちょっとその辺で大きめの石をたくさん拾ってもらえんか。」


 ルイたちはどういうことか分からず互いに顔を見合わせたが、カルマの指示通り山積みになるほどの石を拾ってきた。


「これ拾ってきたけど何に使うの?」とルイはカルマを見上げる。

「儂がチェインを発動したら、この石を思いっきり投げつけてくれ。いいか?力いっぱい投げつけるんじゃぞ。三人同時で構わん。」

「いやでも。さすがに危なくない?」

「はははっ!心配されるとは儂もまだまだじゃな。まぁ見ておれ。」


 カルマがルイたちに背を向けて歩き出し、しばらくすると止まり振り返る。そしてカルマが刀をスーッと抜き、中団で構えた。ルイは目を細める。カルマが身体に纏う空気が陽炎のように揺れ動いている。その揺らめきがどんどん大きくなると、微かに大地が揺れ始めた。そしてカルマが唱えた。


「震天動地と為せ。永劫響鷹」


 カルマの刀が眩い光を発し、その光が天に昇っていく。空を見上げるとそれが獰猛な鳥類の形を作る。ルイが唖然としているとその光の鳥がカルマに向かって急降下して衝突。凄まじい衝撃波がルイたちを襲う。ルイが目を開けると、白いオーラを纏ったカルマ。刀身が薄い刀が握られていた。呆気に取られているルイたちにカルマはほの白く光る目を向ける。


「儂は準備できたから石を投げてくれ。」カルマがいつものように中段で刀を構えた。


 肌に突き刺さるような緊張感が漂う中、ルイたちの耳に不快な高い音が聞こえていた。ルイたちは一斉に石を投げつけた。石がカルマに当たりそうな瞬間、耳鳴りのようなキーンと甲高い音が鳴り響いた。カルマの足元に半分に割れた石が転がる。


「もっとたくさんでもよいぞ。修行だと思って力をこめて放れ。」


 ルイたちは山積みの石が無くなるまで連続して投げ続けた。カルマの足元に半分になった石が転がっている。ルイはあり得ない光景を目にしていた。一つぐらい切れずに弾かれた石があってもおかしくない。割れたり、バラバラになった石は一つもない。綺麗に真っ二つに切られているのだ。結局カルマは一歩も動かず、そして一つも逃さず石を切り終えた。事を終えた彼の姿は人を超えた神々しさすら感じさせる。


 ルイは口を半開きで彼を眺めていたが、突然カルマの身体が力なく崩れ落ちた。はっとし「カルマ!」と叫んで走り出す。


「いや。大丈夫じゃ。情けないの。歳には抗えんか。」


 額に浮かび上がるような大玉の汗をかき、背中が上下するほどの呼吸をしている。こんな姿のカルマを見たことがなかったルイは動揺したように瞳を揺らした。


 カルマが切株の上で休んでいる時、ルイたちはカルマが切った石を片付けていた。ルイはその石をまじまじと見つめた。


「レオ。見てこれ。断面がすごい滑らかだ。」

「どういう能力なんだこれ。俺のチェインで切ってもこうならないぞ。」

「……僕たちは恵まれてるよ。あんなにすごい人が身近にいて、その人が師匠で。そしてその周りにも沢山強いハンターがいる。」


 レオは「そうだな。」と独り言のように呟いた。


「僕たちの未来を守るために、もっと強くならなきゃ。」


 ルイは真っ直ぐに真剣な眼差しで燃えるような茜色の空を見上げていた。チェインを使ったカルマがなぜあそこまで体力を消耗したのか。カルマ曰く若い頃にチェインを使いすぎたのが原因ではないかと話してくれた。カルマはルイたちに諭すような目で、敵と戦う時にむやみやたらにチェインを使わないよう釘を刺した。




 それから三ヶ月が経過した太陽が昇りきる少し前の頃。ルイたちはカルマと激しい打ち合いの稽古をしていた。カルマは真剣な表情でルイの攻撃を受けるが、最初のころに比べて余裕がなくなっている。修行を始めた頃と比べ、ルイたちは著しく成長した。刀を振るう力、速さそして技のキレ。基礎体力は一段、二段も向上した。常に前を向き、ひたむきに努力した結果が出始めている。


 一方その頃ルイたちとは異なり、いつもと変わらない穏やかな日常を送っている蓮の國。ここ最近で変わったことは、街の警備をするハンターが増えていることぐらいだ。日の降り注ぐ大通りを短髪の男性は朗らかな表情で友人と歩いていた。ふと上を見上げると、上空に何かがいる。


「なぁ?あれなんだ?」

「どれ?鳥?じゃないよな……。」

「新種の災獣?ひとまずハンターに知らせたほうがいいか。ちょっとそこのハンターに伝えてくるよ。」


 短髪の男がそれに背を向け走り出したとき、突如凄まじい衝撃波が襲った。男は身体が吹き飛ばされ、道に掘られた穴に転がり落ちた。穴の中でキーンという音だけが耳を覆っている。何も聞こえない。顔を歪めた男が穴から這い出るとその光景に絶句した。


「なんだ。これは……。」


 さっきまでたくさんの人で賑わっていたこの場所。しかし家屋は倒壊し、綺麗に舗装された道は荒れ、人々は鼻や耳から血を流して倒れている。男が身体をがたがた震わせると、目の前に何かが降り立つ。それはニヤリと笑い、八重歯がキラリと光る。男が頭を掴まれると、持ち上げられ、熟した果物を握る潰したかのように、男の頭は弾けた。


「あらやだ。イブったら汚らしいわ。」と鮮緑色の長髪の女性が顔をつかめる。その横の青い髪の無気力な表情の少女が無表情で転がる死体を見下ろす。


 騒ぎを感じった街の警護をしていた10人程度のハンターたちが彼女たちを取り囲む。そして一斉に刀を振り上げ、飛び掛かった。その時、銀髪の少女が「あはっ」と声を溢す。彼女が広げた両手をまるで指揮者のように軽く振るった。次の瞬間、空中にいたハンターたちの身体が真っ二つに。荒れた地面に温かい血がしみ込んでいく。銀髪の少女はゆっくりと空を見上げたまま、足を進めた。ピチャ。ピチャッと水たまりのような血そして横たわった人間の上を。彼女に続くように他の二人も歩き出す。空を見ていた銀髪の少女がゆっくりと目を閉じる。それは拭えない過去や後悔。それを噛みしめているようだった。彼女は目を開き、前を向いた。彼女の赤い瞳がギラリと輝く。


「さぁ。取り戻そう。私たちの王を。」と彼女は興奮が隠しきれない笑みがこぼれていた。


 平穏だった蓮の國は瞬く間に恐怖が覆いつくす。人々は泣き叫び、大切な人の亡骸を抱きながら倒れていく。その中をゆったりとした歩調で進む背中に翼を持つ生物。その禍々しさが人々の身体、そして心を震え上がらせた。




 一度目の國を襲った衝撃波。それに気づいたルイたちは山道を飛ぶように走り続けた。胸の中に堪えがたい焦燥を感じ、必死に腕を振り、大地を蹴った。


(あいつらがきた。早く行かないと人が大勢死ぬ。)


 カルマは眉間に深い皺を寄せ、空に昇る煙を見つめていた。


「それにしてもおかしいの。森や街にはハンターが常駐していたはずだが……。」


 

 ルイたちが街に着くと、目を見開いた。和を感じさせる木造の建物は倒壊、そしてあちこちで炎が。道で人々が血を流して倒れている。見慣れた景観はまるで地獄のように変わっていた。


 燃え盛る炎の中から奴らが現れる。そのうちの一人。銀髪の少女イブがルイを見つけた途端、ぱぁっと顔を明るくした。嬉しそうに身体を揺らすと銀髪の髪が軽快に揺れる。そしてルイを指さし「見~つけた。」と媚びるような声を出す。横にいる鮮緑の髪の女性。アラサラが頬に指を当てながら首を傾げた。


「あの子なの?獣人の里にいたわよ。」

「……は?なんでそんな重要なこと僕に言わないの!その時連れてくればよかったじゃん!」


 とイブは耳をつんざくような高めの声でアラサラを睨みつける。まったく気にしてないようなアラサラは髪を手でなびかせた。


「そんなの私は知らない者。でも目の前にいるからいいじゃない。手間が省けて得したわ。」


 その時、イブの隣にいた青い髪の少女が血を流し地面を這いつくる男の前にしゃがみ込む。彼女はその怯える男の顔を両手で挟んだ。

「大丈夫?なぜ震えているの?可哀そうな人。今解放してあげる。」


 青い髪の魔人は抑揚のない声で語ると、その男の頭を握りつぶした。ルイは刃のような鋭い目を彼女たちに向けた。


「お前たちは何をしてるんだ!」


 と強い怒りがこもった叫び声をあげた。その声を聞いたイブは嬉しそうに目に弧を描く。


「ルイ君久しぶりだね。あの時は話せなかったけどちょっと待っててね。すぐに君を連れ出してあげるから。」


 ルイは彼女が言っていることが理解できず混乱した。


「君はタクトさんのところにいたじゃないか!ずっと騙してたのか!」

「うふふ。別に騙してないよ。勝手にあいつらが信じただけ。」


 ルイは苛立ちで頭の芯がチリチリと音を立てた。彼らは皆彼女を仲間だと思っていた。それなのに目の前にいるこの生き物は彼らの心を踏みにじっている。イブは控えめな口に笑みを浮かべ、細く白い指を頬に当てた。


「タクトは人間離れしてたよ。衰弱させようと思ってたのに、全然弱んないんだもん。まぁ僕が長~く楽しめたからいいけどね。」

「……どういうこと。君が?タクトさんを?」

「そうそう。僕たち魔人の血って人間には毒なんだ~。タクトには結構飲ませたはずなんだけどね。とんでもない生命力だったよ。」


 ルイはプツンと何かが切れたように怒りが溢れ出てくる。無意識のうちに地面を強く蹴って飛び掛かろうとしたその時、カルマに身体を抱えられた。


「離して!あいつら絶対許せない!」


 カルマを見たルイはハッと正気に戻った。カルマが今まで見たことのない獣のような鋭い目で魔人たちに凄まじい剣幕を向けていた。唇を噛みしめ、白い髭に血が混じっている。そして怒りを鎮めるように目を瞑って息を長く吐き、ルイを真っ直ぐな目で見つめた。


「ルイ。落ち着きなさい。やつらの挑発に乗ってはいかん。怒りは技を鈍くする。せっかくの修行が台無しになってしまうぞ。」


 アラサラは優雅にほほ笑み、彼らを眺めていると、何か思い出したかのようにイブに視線を向けた。


「あの人間はなにしてるわけ?とりあえず入り口に置いてきたけど。」

「リョウガはただ邪魔な人間を殺せとしか言ってないよ。今回あいつは邪魔だから。私は勾玉を取り行くからここで遊んでて。ルイ君は殺さないで。それ以外は好きにしなさい。」


 イブは黒い翼を大きく広げ飛翔。國の中心に向かって飛び去って行った。アラサラは覗き込むように額を手を当て、イブの姿を見送る。そして視線をルイに向け、誘うように目をたるませた。


「そろそろ始めましょうか。エンフェリア。いいわよ。」


 青いツインテールをなびかせ、エンフェリアは地に小さな手を当てた。彼女が触れたところから光る模様が広がっていく。大地が微かに震え始め、その振動がどんどん大きくなる。


 ルイは周囲に視線を走らせた。その時、森の中から大量の災獣が攻めてきた。ルイたちは急いで刀を抜き、災獣たちと衝突。倒しても倒しても森の中から災獣たちが溢れてくる。飛行型の災獣が國へ侵入し、至る所で人々の叫び声が上がる。(まずい……。)とルイが街の中に走り出そうとした時、ルイそしてエマの身体に白い何かが巻き付いた。刀を振ろうにも両腕が動かせない。二人は勢いよく身体を引きずられ、徐々に宙に浮く。レオが「ルイ!エマ!」と叫び視線を向けると、アラサラが二人を連れて飛び去って行く。


 レオが災獣の群れを抜け、追いかけようとするが、目の前にエンフェリアが立ちはだかる。レオは「邪魔だ!」と声を荒げ、彼女に飛び掛かる。しかし、彼女の後ろから岩で覆われた狼型の災獣がレオに突進。レオの刀は弾かれた。後退するがレオは災獣たちに囲まれ、それらが一斉に襲い掛かってきた。

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